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残り時間が、恋になるまで。

医師の口から告げられた言葉は、ひどく静かだった。
余命、半年。
それはまるで、天気予報のような声だった。世界が終わる宣告だというのに、音も色もなかった。
彼女はその場で泣かなかった。泣く理由が分からなかったからだ。実感がなかった。自分がいなくなる未来が、想像できなかった。
帰り道、夕焼けがきれいだった。
「こんなに綺麗なのに、私はもうすぐ見られなくなるんだ」
そう思った瞬間、初めて胸が苦しくなった。
その人と出会ったのは、その帰り道だった。
駅前のベンチで、缶コーヒーを落として困っていたところを拾ってくれた。それだけのこと。でも、差し出された手がやけに温かくて、なぜか安心した。
それから二人は、少しずつ会うようになった。
理由はなかった。ただ、同じ時間に同じ場所にいることが増えただけだった。
彼女は何も言わなかった。
自分の余命のことも、未来がないことも。
それを言った瞬間、この関係が「終わりに向かうもの」になってしまう気がしたから。
一緒に笑った。
どうでもいい話をした。
くだらないことで喧嘩して、すぐに仲直りした。
生きている、と思った。
限られた時間の中で、初めて「今」を大切にした。
秋が来る頃、体は少しずつ正直になった。
疲れやすくなり、立ちくらみが増え、約束を守れない日も出てきた。
「大丈夫?」
そう聞かれるたびに、彼女は笑ってごまかした。
「ちょっと疲れてるだけ」
本当は怖かった。
この人の前で弱くなることが。
この人に、失う悲しみを背負わせてしまうことが。
冬のある日、雪が降った。
二人で並んで歩きながら、彼は言った。
「来年も、また一緒に見たいね」
その言葉が、胸に刺さった。
来年は、ない。
それを知っているのは、自分だけだった。
その夜、彼女は初めて泣いた。
声を押し殺して、布団の中で泣いた。
恋をしてしまったことを、後悔した。
それでも、会うのをやめられなかった。
残り時間が減るほど、想いは強くなった。
春が来る少し前、彼女は倒れた。
病室で目を覚ましたとき、彼はそこにいた。
「どうして……」
震える声で聞くと、彼は答えた。
「いなくなりそうな気がして、怖かった」
その瞬間、もう隠せないと思った。
彼女はすべてを話した。
余命のこと。未来がないこと。嘘をついていたこと。
彼は何も言わなかった。
ただ、強く手を握った。
「それでも、一緒にいたい」
その言葉が、彼女を救った。
最後の日々は、穏やかだった。
特別なことはしなかった。
ただ、同じ空を見て、同じ時間を過ごした。
最期の日、彼女は微笑んだ。
「あなたに会えて、ちゃんと生きられた」
彼は泣かなかった。
泣く代わりに、彼女の生きた時間を、胸に刻んだ。
彼女がいなくなったあとも、世界は続く。
夕焼けは変わらず美しく、季節は巡る。
彼は知っている。
短くても、確かにそこにあった恋を。
命の長さじゃなく、想いの深さを。
それは悲しい物語じゃない。
生きた証の物語だ。
彼女は生きた。
そして彼は、今も彼女を愛している。

作者メッセージ

切ないぃぃ
自分にこんな素敵な人がいたら…と重いながらかいてみました

2025/12/26 19:00

愛麗ちゃん@ありがとう
ID:≫ 1.6ekCz9QCfE6
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