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影が重なる場所

駅前のベンチに、いつも二人で座っていた。
会話は多くなかったけれど、沈黙が気まずいと感じたことは一度もない。
雨の日は、傘を持つほうが少しだけ肩を濡らした。
晴れの日は、影が重なる場所を自然と選んで歩いた。
それが特別なことだと気づいたのは、ずっと後になってからだった。
ある日、「少し遠くへ行く」とだけ告げられた。
理由も期限も聞かなかった。
聞かなかったというより、聞けなかった。
最後の日も、いつもと同じベンチに座った。
風が強くて、言葉が飛ばされそうだったから、余計なことは言わなかった。
別れ際、手が触れた。
ほんの一瞬だったのに、心臓の音だけがやけに大きかった。
「元気で」
それだけで十分だった。
それから季節がいくつも過ぎた。
ベンチには別の誰かが座るようになり、景色も少しずつ変わった。
ある雨の日、ふと傘が足りないことに気づいた。
そのとき、隣に差し出された一本があった。
顔を見なくても、わかった。
肩が濡れても構わないと思える相手だと。
言葉はなかった。
でも、また影が重なった。
それだけで、あの時間は終わっていなかったのだと知った。

2025/12/25 17:44

愛麗ちゃん@ありがとう
ID:≫ 1.6ekCz9QCfE6
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