影が重なる場所
駅前のベンチに、いつも二人で座っていた。
会話は多くなかったけれど、沈黙が気まずいと感じたことは一度もない。
雨の日は、傘を持つほうが少しだけ肩を濡らした。
晴れの日は、影が重なる場所を自然と選んで歩いた。
それが特別なことだと気づいたのは、ずっと後になってからだった。
ある日、「少し遠くへ行く」とだけ告げられた。
理由も期限も聞かなかった。
聞かなかったというより、聞けなかった。
最後の日も、いつもと同じベンチに座った。
風が強くて、言葉が飛ばされそうだったから、余計なことは言わなかった。
別れ際、手が触れた。
ほんの一瞬だったのに、心臓の音だけがやけに大きかった。
「元気で」
それだけで十分だった。
それから季節がいくつも過ぎた。
ベンチには別の誰かが座るようになり、景色も少しずつ変わった。
ある雨の日、ふと傘が足りないことに気づいた。
そのとき、隣に差し出された一本があった。
顔を見なくても、わかった。
肩が濡れても構わないと思える相手だと。
言葉はなかった。
でも、また影が重なった。
それだけで、あの時間は終わっていなかったのだと知った。
会話は多くなかったけれど、沈黙が気まずいと感じたことは一度もない。
雨の日は、傘を持つほうが少しだけ肩を濡らした。
晴れの日は、影が重なる場所を自然と選んで歩いた。
それが特別なことだと気づいたのは、ずっと後になってからだった。
ある日、「少し遠くへ行く」とだけ告げられた。
理由も期限も聞かなかった。
聞かなかったというより、聞けなかった。
最後の日も、いつもと同じベンチに座った。
風が強くて、言葉が飛ばされそうだったから、余計なことは言わなかった。
別れ際、手が触れた。
ほんの一瞬だったのに、心臓の音だけがやけに大きかった。
「元気で」
それだけで十分だった。
それから季節がいくつも過ぎた。
ベンチには別の誰かが座るようになり、景色も少しずつ変わった。
ある雨の日、ふと傘が足りないことに気づいた。
そのとき、隣に差し出された一本があった。
顔を見なくても、わかった。
肩が濡れても構わないと思える相手だと。
言葉はなかった。
でも、また影が重なった。
それだけで、あの時間は終わっていなかったのだと知った。
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