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【カウントダウン投稿#24】時間を貸す喫茶店

駅前の小さな路地に、見慣れない喫茶店があった。
 店の看板には「時間貸します」とだけ書かれている。
 普通の喫茶店とは違う匂いが漂っていて、好奇心が胸をくすぐる。
 扉を開けると、店内は意外にも静かで温かい。
 壁には時計がいくつも掛かっているが、どれも時刻が微妙にずれている。
 カウンターには老いたマスターが一人だけ。
 「時間を貸してほしい」と言うと、マスターはにっこり笑った。
 「どのくらい?」
 「30分…いや、1時間くらい」
 言葉に迷いながらも、貸してもらうことにした。
 席に座ると、コーヒーカップから湯気が立ち上り、香りが鼻をくすぐる。
 その瞬間、周囲の空気がゆるやかに変化した。
 時計の針が止まったわけではないのに、時間がゆっくり流れる。
 窓の外を眺めると、通りを歩く人々の動きがまるでスローモーションのように見える。
 誰もこちらを気にせず、普通に生活しているだけなのに、世界が違って見える。
 店内の他の客も、時間を借りた人たちだろうか。
 雑誌を読む人、コーヒーをゆっくり味わう人、目を閉じて静かに呼吸する人。
 誰も慌てず、誰も騒がず、時間を享受している。
 気づけば、いつもなら10分で済むはずの読書が1時間に感じられた。
 外の世界はすでに夕暮れに変わっていたが、ここではまだ午前中の静けさが続いている。
 帰るとき、マスターが一言だけ告げた。
 「借りた時間は、必ず返すんだよ」
 その意味はすぐには理解できなかった。
 しかし、歩き出すと世界の速さに体が馴染んでいく。
 1時間の余裕が、日常の些細な出来事を見つめ直す余白になったのだ。
 次の日も、同じ店の前を通る。
 扉の向こうには、また異なる時間が待っている気がする。
 少しだけ背筋を伸ばし、今日も「時間」を借りに行く自分がいた。

2026/01/24 17:18

愛麗ちゃん@ありがとう
ID:≫ 1.6ekCz9QCfE6
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