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【カウントダウン投稿#21】消えない影

夜の住宅街は、昼間とはまるで違った顔をしていた。
 街灯の下に立つと、影が長く伸び、動くはずのない場所にさざ波のような歪みが生まれる。
 その日も帰宅途中、影に気づいた。
 自分の影ではない。壁に沿って伸び、角を曲がるときに、こちらを追うように形を変えた。
 最初は気のせいだと思った。
 だが、角を曲がると再び現れる。足音は自分のものだけ。周囲は静かで、風も弱い。
 足を速めても、影は一定の距離を保ってついてくる。
 立ち止まると、影も止まる。呼吸を整えると、影もわずかに揺れる。
 家の玄関前に着いたとき、影はようやくドアに沿って止まった。
 手を伸ばせば届きそうな距離だが、触れることはできない。
 家に入ると、影も壁に沿って消えるわけではない。
 部屋の隅、窓の外、机の下にも微かに残っている。
 電灯をつけても、完全には消えない。
 影は静かだ。音もしない。動きも鈍い。
 ただ、いつも視界の端にちらつく。
 日常の生活は普段通りできるが、どこか落ち着かない。
 夜が深くなると、影は少しずつ形を変える。
 椅子の足に沿った線が伸びたり、カーテンの隙間に触れたり。
 存在を忘れたころに、背後で小さな揺れを感じる。
 ある朝、机の上に置いたノートに、いつも描かない線が一つ増えていた。
 文字でも絵でもない、ただの線。
 しかし、微かに手の感覚に馴染むようで、不思議と心に落ち着きをもたらす。
 影は、悪意を示さない。
 怖がらせることもない。
 ただ、存在し続けるだけだ。
 日常の中で、意識せずに過ごすこともできる。
 だが、ふと気づくと、影はそっとそこにいて、忘れた瞬間を思い出させる。
 夜、ベッドに横になると、影の存在を感じる。
 眠りに落ちる直前、微かに形を変え、体の周囲を囲む。
 その感覚は、不安よりも安心に近い。
 昼間は見えないが、消えたわけではない。
 街灯の下や、家具の隙間に、静かに潜んでいる。
 影は、日常の端にある存在だ。
 目に見えず、声を出さず、それでも確かにそこにある。
 そして、夜が来るたびに、誰も気づかない物語を紡ぐ。
 存在し続ける影が、日常の隙間に静かに息をしていることを、知っている者はほとんどいない。

2026/01/21 19:25

愛麗ちゃん@ありがとう
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