レヴィトラスの書season1
#1
1 最初の頁
第一話「最初の頁」
「じいちゃーん! 朝飯!」
「今作ってる! 少し待て!」
「腹減ったー!」
朝の村に、少年の声が響く。
少年の名はアレン。十六歳。
明るく、元気で、じっとしているのが大嫌い。
今日も朝食をかき込みながら、窓の外を眺めていた。
「今日、森に行ってくる!」
「またか?」
「ちょっと探検するだけ!」
「森の奥には行くなよ」
「分かってるって!」
「……その言葉、何回聞いたことか」
「大丈夫だって!」
アレンは笑いながら家を飛び出した。
祖父のガルドは、その背中を見ながら小さく息を吐く。
「……あの森には、もう何も残っていないと思っていたんだがな」
***
昼過ぎ。
「……あれ?」
森の中で、アレンは立ち止まった。
「ここ……どこだ?」
完全に迷っていた。
「まあ、帰れるだろ!」
相変わらず楽観的だった。
そのとき、木々の隙間から古い石造りの建物が見えた。
「遺跡?」
近づいてみる。
入口には、古びた文字が刻まれていた。
『立入ヲ禁ズ』
「……」
アレンは数秒考えた。
「入るか!」
入った。
遺跡の奥。
崩れた壁の隙間に、地下へ続く階段を見つけた。
「こんなところに地下室?」
階段を降りる。
そこには小さな部屋があった。
中央に置かれた石の台座。
その上に――
一枚の古い紙。
奇妙な植物。
見たことのない生物。
星のような図形。
そして、未知の文字。
「なんだこれ……本?」
アレンは紙を手に取った。
何も起こらない。
「読めねえな」
紙を裏返してみる。
何もない。
「まあ、珍しいもんだし、じいちゃんに見せるか」
その瞬間。
「――それを置け」
「うわっ!」
背後から声がした。
振り返る。
黒い外套を着た男が立っていた。
「誰だよ!」
「そのページを渡せ」
「ページ?」
「お前が持っているものだ」
「いや、俺が見つけたんだけど」
「そういう問題ではない」
男が手を掲げる。
その手のひらに、炎が生まれた。
「……え?」
アレンの目が丸くなる。
「なんだよ、それ……!」
「エレメントを知らないのか?」
「エレメント?」
炎が床を走る。
「うわぁっ!」
アレンはページを抱えて走り出した。
「待て!」
「待てって言われて待つ奴いるか!」
遺跡の中を必死に逃げる。
しかし出口の前で、炎が壁を塞いだ。
「終わりだ」
男が近づく。
そのとき――
バシャッ!
大量の水が炎を消し飛ばした。
「……!」
男が振り返る。
そこには、一人の少女が立っていた。
「そのページを置いて」
「お前は誰だ?」
「収集院アーカイヴ」
少女は答える。
「そのページは、あなたたち**再編者リフォーマー**に渡すわけにはいかない」
「邪魔をするか」
男の手に再び炎が集まる。
「当然」
炎と水がぶつかる。
轟音が遺跡を揺らした。
アレンはその隙に外へ逃げる。
「なんなんだよ、あいつら……!」
***
夜。
「ただいま!」
アレンが家に帰る。
「遅かったな」
ガルドが振り返る。
「聞いてくれよ! 今日すげえ奴らに会った!」
「……何があった」
「火を出す奴と、水を出す奴!」
アレンは今日拾ったページを机の上に置いた。
その瞬間。
ガルドの表情が変わった。
「……それを、どこで?」
「森の遺跡」
「触ったのか?」
「うん」
「何か起きたか?」
「何も」
ガルドはページを見つめる。
「……そうか」
「じいちゃん、これ何なんだ?」
長い沈黙。
やがてガルドは答えた。
「レヴィトラスの書だ」
「……本?」
「ああ」
「でも、これ一枚しかないぞ?」
「一冊だった」
ガルドは静かに続ける。
「だが、今は108枚の頁に分かれて、世界中に散らばっている」
「108枚……」
「そして、その頁を巡って三つの勢力が争っている」
ガルドは指を三本立てた。
「まず、解読者ディクリプター」
「エレメントの力を使って、レヴィトラスの書を読む者たち」
「次に、収集院アーカイヴ」
「頁を集め、書が完成するのを阻止しようとする者たち」
「そして――」
「再編者リフォーマー」
「すべての頁を集め、書を完全な形に戻そうとしている」
アレンは黙って聞いていた。
「じゃあ、あの本には何が書いてあるんだ?」
ガルドは答えなかった。
しばらくして、低い声で言う。
「……世界の始まりと終わりだ」
「え?」
「レヴィトラスの書には、世界そのものに関わる予言が記されている」
アレンはページを見る。
意味の分からない文字。
奇妙な絵。
「じゃあ、これも読めるの?」
「誰でも読めるわけじゃない」
「なんで?」
「頁には、それぞれ対応するエレメントがある」
ガルドはページを指差した。
「これは――火の頁だ」
「火……」
「火のエレメントを持つ者でなければ、決して解読できない」
「じゃあ、火を使える奴なら読める?」
「違う」
ガルドは首を横に振る。
「重要なのは強さじゃない」
「そのエレメントを持っていること。そして――自分の力と頁を同調させることだ」
アレンは自分の手を見る。
「……俺には?」
ガルドは黙っていた。
「じいちゃん?」
やがて、ガルドが口を開く。
「お前には――」
一瞬だけ迷い、
「火のエレメントがある」
「……俺に?」
「ああ」
「じゃあ俺も、あいつみたいに火を出せる?」
「今は無理だ」
「なんで?」
「まだ、目覚めていない」
アレンは自分の手を見つめる。
何も起きない。
「じゃあ……どうすれば目覚める?」
ガルドは立ち上がった。
「鍛えるしかない」
「誰が?」
「俺が」
アレンの顔が輝いた。
「マジで!?」
「ああ。ただし――」
ガルドは真剣な目でアレンを見る。
「一度この道に入れば、もう普通の生活には戻れんかもしれん」
アレンは少し考える。
そして笑った。
「だったら、面白そうじゃん」
ガルドは呆れたように笑う。
「……やっぱりお前は、あいつに似ている」
「誰に?」
「なんでもない」
その夜。
アレンは机の上に置いた第一頁を眺めていた。
文字は読めない。
何も起きない。
けれど、その一枚の頁から始まった。
108枚の頁を巡る争い。
そして、その先に待つ――
世界の始まりと終わりの予言。
翌朝。
「起きろ、アレン」
「ん……?」
「修行を始めるぞ」
「……え?」
祖父は庭へ歩いていく。
「まずは、自分の中にある火を探せ」
アレンは飛び起きた。
「よっしゃあ!」
こうして少年は、
第一頁を解読するための修行
を始めることになる。
第一話・完
「じいちゃーん! 朝飯!」
「今作ってる! 少し待て!」
「腹減ったー!」
朝の村に、少年の声が響く。
少年の名はアレン。十六歳。
明るく、元気で、じっとしているのが大嫌い。
今日も朝食をかき込みながら、窓の外を眺めていた。
「今日、森に行ってくる!」
「またか?」
「ちょっと探検するだけ!」
「森の奥には行くなよ」
「分かってるって!」
「……その言葉、何回聞いたことか」
「大丈夫だって!」
アレンは笑いながら家を飛び出した。
祖父のガルドは、その背中を見ながら小さく息を吐く。
「……あの森には、もう何も残っていないと思っていたんだがな」
***
昼過ぎ。
「……あれ?」
森の中で、アレンは立ち止まった。
「ここ……どこだ?」
完全に迷っていた。
「まあ、帰れるだろ!」
相変わらず楽観的だった。
そのとき、木々の隙間から古い石造りの建物が見えた。
「遺跡?」
近づいてみる。
入口には、古びた文字が刻まれていた。
『立入ヲ禁ズ』
「……」
アレンは数秒考えた。
「入るか!」
入った。
遺跡の奥。
崩れた壁の隙間に、地下へ続く階段を見つけた。
「こんなところに地下室?」
階段を降りる。
そこには小さな部屋があった。
中央に置かれた石の台座。
その上に――
一枚の古い紙。
奇妙な植物。
見たことのない生物。
星のような図形。
そして、未知の文字。
「なんだこれ……本?」
アレンは紙を手に取った。
何も起こらない。
「読めねえな」
紙を裏返してみる。
何もない。
「まあ、珍しいもんだし、じいちゃんに見せるか」
その瞬間。
「――それを置け」
「うわっ!」
背後から声がした。
振り返る。
黒い外套を着た男が立っていた。
「誰だよ!」
「そのページを渡せ」
「ページ?」
「お前が持っているものだ」
「いや、俺が見つけたんだけど」
「そういう問題ではない」
男が手を掲げる。
その手のひらに、炎が生まれた。
「……え?」
アレンの目が丸くなる。
「なんだよ、それ……!」
「エレメントを知らないのか?」
「エレメント?」
炎が床を走る。
「うわぁっ!」
アレンはページを抱えて走り出した。
「待て!」
「待てって言われて待つ奴いるか!」
遺跡の中を必死に逃げる。
しかし出口の前で、炎が壁を塞いだ。
「終わりだ」
男が近づく。
そのとき――
バシャッ!
大量の水が炎を消し飛ばした。
「……!」
男が振り返る。
そこには、一人の少女が立っていた。
「そのページを置いて」
「お前は誰だ?」
「収集院アーカイヴ」
少女は答える。
「そのページは、あなたたち**再編者リフォーマー**に渡すわけにはいかない」
「邪魔をするか」
男の手に再び炎が集まる。
「当然」
炎と水がぶつかる。
轟音が遺跡を揺らした。
アレンはその隙に外へ逃げる。
「なんなんだよ、あいつら……!」
***
夜。
「ただいま!」
アレンが家に帰る。
「遅かったな」
ガルドが振り返る。
「聞いてくれよ! 今日すげえ奴らに会った!」
「……何があった」
「火を出す奴と、水を出す奴!」
アレンは今日拾ったページを机の上に置いた。
その瞬間。
ガルドの表情が変わった。
「……それを、どこで?」
「森の遺跡」
「触ったのか?」
「うん」
「何か起きたか?」
「何も」
ガルドはページを見つめる。
「……そうか」
「じいちゃん、これ何なんだ?」
長い沈黙。
やがてガルドは答えた。
「レヴィトラスの書だ」
「……本?」
「ああ」
「でも、これ一枚しかないぞ?」
「一冊だった」
ガルドは静かに続ける。
「だが、今は108枚の頁に分かれて、世界中に散らばっている」
「108枚……」
「そして、その頁を巡って三つの勢力が争っている」
ガルドは指を三本立てた。
「まず、解読者ディクリプター」
「エレメントの力を使って、レヴィトラスの書を読む者たち」
「次に、収集院アーカイヴ」
「頁を集め、書が完成するのを阻止しようとする者たち」
「そして――」
「再編者リフォーマー」
「すべての頁を集め、書を完全な形に戻そうとしている」
アレンは黙って聞いていた。
「じゃあ、あの本には何が書いてあるんだ?」
ガルドは答えなかった。
しばらくして、低い声で言う。
「……世界の始まりと終わりだ」
「え?」
「レヴィトラスの書には、世界そのものに関わる予言が記されている」
アレンはページを見る。
意味の分からない文字。
奇妙な絵。
「じゃあ、これも読めるの?」
「誰でも読めるわけじゃない」
「なんで?」
「頁には、それぞれ対応するエレメントがある」
ガルドはページを指差した。
「これは――火の頁だ」
「火……」
「火のエレメントを持つ者でなければ、決して解読できない」
「じゃあ、火を使える奴なら読める?」
「違う」
ガルドは首を横に振る。
「重要なのは強さじゃない」
「そのエレメントを持っていること。そして――自分の力と頁を同調させることだ」
アレンは自分の手を見る。
「……俺には?」
ガルドは黙っていた。
「じいちゃん?」
やがて、ガルドが口を開く。
「お前には――」
一瞬だけ迷い、
「火のエレメントがある」
「……俺に?」
「ああ」
「じゃあ俺も、あいつみたいに火を出せる?」
「今は無理だ」
「なんで?」
「まだ、目覚めていない」
アレンは自分の手を見つめる。
何も起きない。
「じゃあ……どうすれば目覚める?」
ガルドは立ち上がった。
「鍛えるしかない」
「誰が?」
「俺が」
アレンの顔が輝いた。
「マジで!?」
「ああ。ただし――」
ガルドは真剣な目でアレンを見る。
「一度この道に入れば、もう普通の生活には戻れんかもしれん」
アレンは少し考える。
そして笑った。
「だったら、面白そうじゃん」
ガルドは呆れたように笑う。
「……やっぱりお前は、あいつに似ている」
「誰に?」
「なんでもない」
その夜。
アレンは机の上に置いた第一頁を眺めていた。
文字は読めない。
何も起きない。
けれど、その一枚の頁から始まった。
108枚の頁を巡る争い。
そして、その先に待つ――
世界の始まりと終わりの予言。
翌朝。
「起きろ、アレン」
「ん……?」
「修行を始めるぞ」
「……え?」
祖父は庭へ歩いていく。
「まずは、自分の中にある火を探せ」
アレンは飛び起きた。
「よっしゃあ!」
こうして少年は、
第一頁を解読するための修行
を始めることになる。
第一話・完