誰の忘れ物
[太字]『誰の忘れ物』[/太字]
一人暮らしを始めて一週間。ようやく段ボールの山も片付き、僕は新しい生活に慣れ始めていた。
その日の夜、ベッドに入ろうとして、ふと違和感を覚えた。
寝室の隅、クローゼットの隙間に、見慣れない「赤い手袋」が落ちていたのだ。
最初は、前の住人の忘れ物かと思った。けれど、そこは入居した日に念入りに掃除したはずの場所だ。
「……まあ、いいか」
僕はそれを拾い上げ、ひとまずゴミ箱に捨てた。
翌朝、仕事から帰ってくると、部屋の空気が妙に冷たい。
コートを脱ごうとして、心臓が跳ねた。
昨夜捨てたはずの「赤い手袋」が、今度はキッチンのテーブルの上に、行儀よく並べて置いてある。
嫌な汗が背中を伝う。泥棒か? 鍵をかけ忘れたのか?
急いで玄関を確認したが、鍵はしっかり閉まっている。窓もすべてロックされていた。
僕は恐怖を紛らわすように、その手袋を今度は外の共用ゴミ捨て場まで持って行き、指定の袋に深く沈めた。
その夜、僕は玄関にチェーンをかけ、包丁を枕元に置いて眠りについた。
深夜、ふと耳元で、カサリ、と乾いた音がした。
目を開けるのが怖かった。けれど、視線を感じてどうしてもまぶたを動かしてしまった。
暗闇の中、僕の顔のすぐ横に、あのアカイ手袋があった。
いや、違う。
手袋だけじゃない。
手袋の中から、白く細い指が這い出し、僕の頬を撫でている。
そして、暗闇で見開かれた「目」が、僕のすぐ隣で囁いた。
「これ、忘れてたよ」
それは僕の声だった。
鏡を見ているような、けれど僕ではない何かの声。
ふと見ると、僕の右手の先には、指が一本もなくなっていた。
一人暮らしを始めて一週間。ようやく段ボールの山も片付き、僕は新しい生活に慣れ始めていた。
その日の夜、ベッドに入ろうとして、ふと違和感を覚えた。
寝室の隅、クローゼットの隙間に、見慣れない「赤い手袋」が落ちていたのだ。
最初は、前の住人の忘れ物かと思った。けれど、そこは入居した日に念入りに掃除したはずの場所だ。
「……まあ、いいか」
僕はそれを拾い上げ、ひとまずゴミ箱に捨てた。
翌朝、仕事から帰ってくると、部屋の空気が妙に冷たい。
コートを脱ごうとして、心臓が跳ねた。
昨夜捨てたはずの「赤い手袋」が、今度はキッチンのテーブルの上に、行儀よく並べて置いてある。
嫌な汗が背中を伝う。泥棒か? 鍵をかけ忘れたのか?
急いで玄関を確認したが、鍵はしっかり閉まっている。窓もすべてロックされていた。
僕は恐怖を紛らわすように、その手袋を今度は外の共用ゴミ捨て場まで持って行き、指定の袋に深く沈めた。
その夜、僕は玄関にチェーンをかけ、包丁を枕元に置いて眠りについた。
深夜、ふと耳元で、カサリ、と乾いた音がした。
目を開けるのが怖かった。けれど、視線を感じてどうしてもまぶたを動かしてしまった。
暗闇の中、僕の顔のすぐ横に、あのアカイ手袋があった。
いや、違う。
手袋だけじゃない。
手袋の中から、白く細い指が這い出し、僕の頬を撫でている。
そして、暗闇で見開かれた「目」が、僕のすぐ隣で囁いた。
「これ、忘れてたよ」
それは僕の声だった。
鏡を見ているような、けれど僕ではない何かの声。
ふと見ると、僕の右手の先には、指が一本もなくなっていた。
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