男の両耳の近くに黒のメッシュの入ったコーラルピンクの髪が、テツを包む炎と同じくらいに人混みの中で目立つ。
「そこのおっちゃん!ホース貸して!」
テツは全身が炎で包まれているのに、じっと目を瞑って静かに立っていた。男は近くにいた魚屋らしきおじさんにホースを借り、蛇口を最大限回してもらって、物凄い勢いで水をテツの全身に浴びせていく。どこからともなく突進してきてから一瞬にして1人でテツを助けようとする彼の姿に、俺も含めて誰もが豆鉄砲を食らった鳩のようだった。
「テツ!」
漸く炎が殆ど消えた時、テツはとうとう地面に倒れた。糸を切られた操り人形のように、グデンと力なく仰向けになっている。サーッと、必ずテツは生き返ると信じてはいても、俺の心はテツを失ってしまうかもしれない恐怖で氷に包まれたように冷たくなっていくのを感じた。
「テツ!!分かるか?!俺だ!」
俺は耐えられず、テツに駆け寄りテツに声を掛けた。周囲の野次馬はざわめき、男は水が出たままのホースを乱雑に投げて俺と同じようにテツに大声で呼び掛ける。皮膚が爛れて真っ赤になったテツの顔は余りにも痛々しく、子供を連れていた人達は子供たちの目を手で覆って去っていく。
[小文字][打消し]「あ゛…っあ゛」[/打消し][/小文字]
[太字][大文字]「テツ?!」[/大文字][/太字]
僅かに開いたテツの口から、微かに苦しそうなうめき声が漏れた。男はその間、応急手当の道具を持ってくるように近くの人に必死になって頼んでいた。
[小文字]「リ……ト…ぐん」[/小文字]
[太字][大文字]「聞こえるよ、テツ!!生きてるよ、お前!」[/大文字][/太字]
閉じていたテツの目が半開きになり、俺を見ていた。全身を炎で焼かれたテツは苦悶の表情を浮かべて、力を振り絞って俺の身体に触れた。
[小文字][打消し]「リト……くん。お……願い…だ。俺を……殺し…てくれな…いか。生きてる方が……しんど…いや…。生き返って…怪我なくな……るからさ……リト君、俺の…腰にサバイバルナイフが…刺さってる。デバイスの……隣…それで…」[/打消し][/小文字]
[太字][大文字]「出来るかよ!!!」[/大文字][/太字]
俺の悲痛な叫び声を最後に、周囲は静寂で包まれた。テツは息を引き取った。
「テツ……?」
俺の呼び掛けにテツは応じない。人で賑わう血気盛んな観光地で起きた悲劇に、野次馬たちも何も言えずにテツの遺体を見つめていた。
「嘘……」
男は、絶望した表情で、仰向けに倒れたテツの顔を覗き込みながら、何度も何度も呼び掛けた。
テツが死―――?
[太字][大文字]「リト君!俺のデb…!!」[/大文字][/太字]
「駄目だ!死んjy…!!」
目を突然かっ開いて上体を起こしたテツと、男の顔がガンと鈍い音を立ててぶつかった。お互いに鼻を打ったのか、暫くの間2人とも鼻を押さえて悶えていた。
「おい、テツ!」
「あ、リト君」
テツは鼻を押さえながら、俺の手に握られたデバイスが壊れていないのを確認するとホッとしたのか、柔らかい笑みを浮かべた。焼け爛れていたテツの皮膚は、何事もなかったかのように元通りになっていた。
「テツ、ガチで死ぬかと思ったよ」
「大丈夫だよ、あと8回死ねるよ今日だけでも俺。さ、お楽しみの煙草の時間♪煙草♪たば……」
俺からデバイスを受け取ったテツは、服の胸ポケット辺りをウキウキとした表情で弄った。が、服が水で濡れているし自分の死因を思い出したのか、露骨に絶望した表情になった。
[太字][大文字]「俺の煙草ー!!」[/大文字][/太字]
あまりにも悲痛な声だった。自分が今から死ぬと分かっているときにさえ出さなかった、聞いているこっちの胸も張り裂けるような悲痛な叫び声だった。
[小文字]「煙草……煙草……」[/小文字]
テツは、顔を両手で覆って、まるで煙草を愛する誰かのような声色で求めていた。とてつもなく下らない理由なのにテツがあまりにも悲しそうで、気付けば俺はテツの背中を擦っていた。
「ねぇ…」
テツの隣で四つん這いの体勢で鼻を抑えていた男が、俺とテツの方を見ていた。野次馬たちも、テツが炎に包まれていた時とは違った戸惑いを見せている。誰もが俺たちに、異質な何かを見るような視線を浴びせる。
「何が起こってんの」
ピピッ!
俺が初めてテツと出会った時と同じ音が、テツのデバイスから聞こえた。
[太字][大文字]「あ?!」[/大文字][/太字]
俺とテツの声が重なり、俺達はデバイスを覗き込んだ。
『Your mate is in front of you;Wen Akagi』
[太字][大文字]「この人だぁー!!」[/大文字][/太字]
俺とテツは思わず抱き合って立ち上がり、喜びの舞を舞った。ただでさえ声が大きい俺たちの叫び声に、至近距離にいたウェンは、ビクッと全身を震えさせて、怯えたように俺たちを見上げていた。
「そこのおっちゃん!ホース貸して!」
テツは全身が炎で包まれているのに、じっと目を瞑って静かに立っていた。男は近くにいた魚屋らしきおじさんにホースを借り、蛇口を最大限回してもらって、物凄い勢いで水をテツの全身に浴びせていく。どこからともなく突進してきてから一瞬にして1人でテツを助けようとする彼の姿に、俺も含めて誰もが豆鉄砲を食らった鳩のようだった。
「テツ!」
漸く炎が殆ど消えた時、テツはとうとう地面に倒れた。糸を切られた操り人形のように、グデンと力なく仰向けになっている。サーッと、必ずテツは生き返ると信じてはいても、俺の心はテツを失ってしまうかもしれない恐怖で氷に包まれたように冷たくなっていくのを感じた。
「テツ!!分かるか?!俺だ!」
俺は耐えられず、テツに駆け寄りテツに声を掛けた。周囲の野次馬はざわめき、男は水が出たままのホースを乱雑に投げて俺と同じようにテツに大声で呼び掛ける。皮膚が爛れて真っ赤になったテツの顔は余りにも痛々しく、子供を連れていた人達は子供たちの目を手で覆って去っていく。
[小文字][打消し]「あ゛…っあ゛」[/打消し][/小文字]
[太字][大文字]「テツ?!」[/大文字][/太字]
僅かに開いたテツの口から、微かに苦しそうなうめき声が漏れた。男はその間、応急手当の道具を持ってくるように近くの人に必死になって頼んでいた。
[小文字]「リ……ト…ぐん」[/小文字]
[太字][大文字]「聞こえるよ、テツ!!生きてるよ、お前!」[/大文字][/太字]
閉じていたテツの目が半開きになり、俺を見ていた。全身を炎で焼かれたテツは苦悶の表情を浮かべて、力を振り絞って俺の身体に触れた。
[小文字][打消し]「リト……くん。お……願い…だ。俺を……殺し…てくれな…いか。生きてる方が……しんど…いや…。生き返って…怪我なくな……るからさ……リト君、俺の…腰にサバイバルナイフが…刺さってる。デバイスの……隣…それで…」[/打消し][/小文字]
[太字][大文字]「出来るかよ!!!」[/大文字][/太字]
俺の悲痛な叫び声を最後に、周囲は静寂で包まれた。テツは息を引き取った。
「テツ……?」
俺の呼び掛けにテツは応じない。人で賑わう血気盛んな観光地で起きた悲劇に、野次馬たちも何も言えずにテツの遺体を見つめていた。
「嘘……」
男は、絶望した表情で、仰向けに倒れたテツの顔を覗き込みながら、何度も何度も呼び掛けた。
テツが死―――?
[太字][大文字]「リト君!俺のデb…!!」[/大文字][/太字]
「駄目だ!死んjy…!!」
目を突然かっ開いて上体を起こしたテツと、男の顔がガンと鈍い音を立ててぶつかった。お互いに鼻を打ったのか、暫くの間2人とも鼻を押さえて悶えていた。
「おい、テツ!」
「あ、リト君」
テツは鼻を押さえながら、俺の手に握られたデバイスが壊れていないのを確認するとホッとしたのか、柔らかい笑みを浮かべた。焼け爛れていたテツの皮膚は、何事もなかったかのように元通りになっていた。
「テツ、ガチで死ぬかと思ったよ」
「大丈夫だよ、あと8回死ねるよ今日だけでも俺。さ、お楽しみの煙草の時間♪煙草♪たば……」
俺からデバイスを受け取ったテツは、服の胸ポケット辺りをウキウキとした表情で弄った。が、服が水で濡れているし自分の死因を思い出したのか、露骨に絶望した表情になった。
[太字][大文字]「俺の煙草ー!!」[/大文字][/太字]
あまりにも悲痛な声だった。自分が今から死ぬと分かっているときにさえ出さなかった、聞いているこっちの胸も張り裂けるような悲痛な叫び声だった。
[小文字]「煙草……煙草……」[/小文字]
テツは、顔を両手で覆って、まるで煙草を愛する誰かのような声色で求めていた。とてつもなく下らない理由なのにテツがあまりにも悲しそうで、気付けば俺はテツの背中を擦っていた。
「ねぇ…」
テツの隣で四つん這いの体勢で鼻を抑えていた男が、俺とテツの方を見ていた。野次馬たちも、テツが炎に包まれていた時とは違った戸惑いを見せている。誰もが俺たちに、異質な何かを見るような視線を浴びせる。
「何が起こってんの」
ピピッ!
俺が初めてテツと出会った時と同じ音が、テツのデバイスから聞こえた。
[太字][大文字]「あ?!」[/大文字][/太字]
俺とテツの声が重なり、俺達はデバイスを覗き込んだ。
『Your mate is in front of you;Wen Akagi』
[太字][大文字]「この人だぁー!!」[/大文字][/太字]
俺とテツは思わず抱き合って立ち上がり、喜びの舞を舞った。ただでさえ声が大きい俺たちの叫び声に、至近距離にいたウェンは、ビクッと全身を震えさせて、怯えたように俺たちを見上げていた。