[水平線]
宇佐美目線
[水平線]
朝焼けの中、遠くで立って煙草を吹かす男がいた。俺に大きく手を振っている。もう二度と戻ることが無いであろう故郷に別れを告げてきた俺にとって、彼が居場所になった。
足元の雑草と乾燥した砂利を踏みしめて、段々と彼の姿が大きくなる。「おーい、宇佐美くーん」と呼ぶ彼のニマッと笑った口から、八重歯が覗いていた。
「なぁ。心変わりはしていないよな、テツ?」
東から西に向かって、2人並んで立つ俺とテツの影が伸びている。テツは煙草を美味しそうに吸いながら、目を細めてその影を見ていた。
「当たりめぇだろ」
そして白い煙を宙に吐きながら、軽くそう答えた。テツの横顔を、眩しい朝日が照らしていた。地平線から僅かに顔を出し、俺達2人の様子をこっそりと伺うような太陽だ。
「ところで宇佐美君、首の近くにいるヤツ何?」
テツは心底不思議だといった表情で、俺の胸元を指差した。俺はテツが指差す先に視線を移した。
「え、あ、これ?この子、キリンちゃん」
服の胸元の隙間に、ハムスターサイズの丸っこいキリンみたいな生き物が、テツを見て恥ずかしそうにしている。元から丸い体を更に丸めて、チラチラとテツの様子を伺う。
「途中で出会って、癒されたから連れてくことにする」
「ふぅん」
段々と太陽が眩しく、地面に伸びる俺達の影も徐々に短くなってきた。
「何処か行く当てはあんのか」
俺がテツにそう尋ねると、テツは腰についているスマホみたいなピンクの機械を手に取り、俺に見せてきた。
『Your mate is in Euris:Wen Akagi』
鮮やかなピンクの画面を背景に、黒いゴシック体でそう表示されている。テツの目は、光り輝いていた。年は俺とそこまで変わらなさそうなのに、夢見る少年みたいな眩しさが少しだけ愛おしいと感じる。
「誰なの、そいつ」
俺の問いかけに、テツは笑顔を浮かべたまま小さく首を横に振った。
「俺も知らない。だけど、これを頼りに俺は宇佐美君に会いに来たんだ。マップを頼りにエウリスに行けば、この人に会える。新たな仲間が出来るんだよ」
そう熱く語るテツの声は、幼児が今日あったことを大人に話す時のように弾んでいた。テツが画面の隅をタップすると、地図が表示された。茶色なのか紫なのかよく分からない色の点と、黄色い点がひっつき合っていて、ここから東の方角にピンクの点が離れて表示されている。
「何、このカラフルな点は」
俺がテツにそう尋ねる間にも、ピンク色の点だけがジワジワと更に東側に向かって動いている。
「居場所だと思う。この紫っぽいのが俺で、黄色いのがリト君」
やがてピンクの点は、エウリス海岸の砂浜の上を行ったり来たりするようになった。ここに、俺達の新たな仲間がいるのか。
「さぁ、行こうか。宇佐美君」
テツは機械を腰にぶら下げて、エウリス海岸の方へ向かう湾曲した畦道をゆっくりと歩き出した。
「キリンちゃん、行こ…あ…寝ちゃった」
小さな命が起きないようにそっと、ほんのりと苦い煙草の香りを追って、俺は歩き出した。太陽が眩しい。眩しさに目を細めても、太陽の光が眼球に残っている。眼球の奥にこびりついた嫌な光景も全て、見えてくる。まぁ、それはそれで良いや。
宇佐美目線
[水平線]
朝焼けの中、遠くで立って煙草を吹かす男がいた。俺に大きく手を振っている。もう二度と戻ることが無いであろう故郷に別れを告げてきた俺にとって、彼が居場所になった。
足元の雑草と乾燥した砂利を踏みしめて、段々と彼の姿が大きくなる。「おーい、宇佐美くーん」と呼ぶ彼のニマッと笑った口から、八重歯が覗いていた。
「なぁ。心変わりはしていないよな、テツ?」
東から西に向かって、2人並んで立つ俺とテツの影が伸びている。テツは煙草を美味しそうに吸いながら、目を細めてその影を見ていた。
「当たりめぇだろ」
そして白い煙を宙に吐きながら、軽くそう答えた。テツの横顔を、眩しい朝日が照らしていた。地平線から僅かに顔を出し、俺達2人の様子をこっそりと伺うような太陽だ。
「ところで宇佐美君、首の近くにいるヤツ何?」
テツは心底不思議だといった表情で、俺の胸元を指差した。俺はテツが指差す先に視線を移した。
「え、あ、これ?この子、キリンちゃん」
服の胸元の隙間に、ハムスターサイズの丸っこいキリンみたいな生き物が、テツを見て恥ずかしそうにしている。元から丸い体を更に丸めて、チラチラとテツの様子を伺う。
「途中で出会って、癒されたから連れてくことにする」
「ふぅん」
段々と太陽が眩しく、地面に伸びる俺達の影も徐々に短くなってきた。
「何処か行く当てはあんのか」
俺がテツにそう尋ねると、テツは腰についているスマホみたいなピンクの機械を手に取り、俺に見せてきた。
『Your mate is in Euris:Wen Akagi』
鮮やかなピンクの画面を背景に、黒いゴシック体でそう表示されている。テツの目は、光り輝いていた。年は俺とそこまで変わらなさそうなのに、夢見る少年みたいな眩しさが少しだけ愛おしいと感じる。
「誰なの、そいつ」
俺の問いかけに、テツは笑顔を浮かべたまま小さく首を横に振った。
「俺も知らない。だけど、これを頼りに俺は宇佐美君に会いに来たんだ。マップを頼りにエウリスに行けば、この人に会える。新たな仲間が出来るんだよ」
そう熱く語るテツの声は、幼児が今日あったことを大人に話す時のように弾んでいた。テツが画面の隅をタップすると、地図が表示された。茶色なのか紫なのかよく分からない色の点と、黄色い点がひっつき合っていて、ここから東の方角にピンクの点が離れて表示されている。
「何、このカラフルな点は」
俺がテツにそう尋ねる間にも、ピンク色の点だけがジワジワと更に東側に向かって動いている。
「居場所だと思う。この紫っぽいのが俺で、黄色いのがリト君」
やがてピンクの点は、エウリス海岸の砂浜の上を行ったり来たりするようになった。ここに、俺達の新たな仲間がいるのか。
「さぁ、行こうか。宇佐美君」
テツは機械を腰にぶら下げて、エウリス海岸の方へ向かう湾曲した畦道をゆっくりと歩き出した。
「キリンちゃん、行こ…あ…寝ちゃった」
小さな命が起きないようにそっと、ほんのりと苦い煙草の香りを追って、俺は歩き出した。太陽が眩しい。眩しさに目を細めても、太陽の光が眼球に残っている。眼球の奥にこびりついた嫌な光景も全て、見えてくる。まぁ、それはそれで良いや。