「俺に会いに来た…?」
そう言って彼は訝しそうに俺の全身を舐め回すように見た。無論、彼からすれば俺は不死身だとか言い出す不審者なのだから仕方がない。俺は腰のデバイスに表示された文字を彼に見えるようにして、そして胸ポケットから例の手紙を丁寧に取り出した。彼は、デバイスを見ても何かしらの武器かと警戒しつつもただ不思議そうに見つめるだけだったが、少しシワの寄った手紙に対しては瞳が揺らいでいた。
「俺はあんたの仲m…」
「手紙なら返してもらわなくても良い」
彼は手紙から目を背けるように無愛想に踵を返して、銃弾の真新しい跡が残る塀に囲まれた駐屯地に戻っていく。俺が敵側の人間かもしれないのにも関わらず彼が俺に背を向けたのは――。
彼の大きな背中が段々と遠ざかっていく。
「待ってくれ!」
彼はピタリと立ち止まった。
真っ黒で大きなカラスが俺達の頭上を通り過ぎる。
埃臭くて煙の臭いもする風で俺の前髪が両目を隠す。
もう一度同じ香りの風が吹いて、視界を取り戻す。
彼が僅かに俺の方を振り向いていた。
泣いていないのに泣いていた。
これが適切な表現かは分からないが、彼はそんな顔をしていた。
「俺の仲間になってほしいんだ」
「何を目的に……?」
何を目的に。
目的。
今思う。こんなに難しい言葉はない。
俺が答えられないでいると、彼は再び俺に背を向けた。このまま彼を行かせたら、もう二度と彼に相手してもらえない気がした。何としても彼を引き止めなければならなかった。言葉を探せど見つからない代わりに、俺の目が彼の後ろ姿に何かを見つけた。
「君は志願兵だろう?!」
正規兵と区別するための志願兵のピアスの残骸が、彼の耳に引っ掛かっていた。俺の言葉に彼は再び立ち止まった。
「そうだ。俺は子供の時からヒーローになりたくて――」
[太字][大文字]バン!!![/大文字][/太字]
あ〜………痛い。
大量の何かが背後から俺の全身を貫通した。恐怖心はないけれど、死ぬのはいつだって苦痛が伴うからイヤだ。
血相を変えて俺に駆け寄る彼の姿が見える。チラリと、何かが飛んできた方向を見ると不発弾が暴発した痕跡が見えた。あれか。
「おい――!」
視界が真っ白になる。
死んだ。
生き返ろ。
せぇの、はい。
再び視界に色がつく。些か軽くなった上半身を起こす。全身を貫かれた身体の痛みや道中の疲れから解放されて、俺はグルリと首を一周回す。ありがたいことに俺が生き返る時、怪我も全部リセットされるのだ。
「だ…大丈夫か?お前」
「大丈夫、大丈夫。一瞬だったろ、俺の復活」
俺は胸ポケットから煙草を取り出しライターで火をつけて、命の補給兼ニコチンの補給をする。復活直後の煙草は一段と美味い。
「は……?」
きっと彼は疑問と困惑と異質さへの恐怖心でいっぱいだろう。それが、そのたった一文字に込められていた。
「なら子供の頃の夢、一緒に追い掛けさせてくれないか」
「え?」
俺は煙をふぅー、と空に向かって吐く。煙はゆらゆらと揺れて、溶けるように消えていく。
「さっき、ヒーローになりたいだとか言ってたじゃないか」
俺の言葉に、彼は一瞬だけ少年のように瞳を輝かせたが、すぐに諦めたように項垂れた。地面に付いた両手が激しく震えていた。そして、何も言わずにダッと駐屯地に走っていく。
「え、おい!どこに!!」
俺は吸いかけの煙草を慌てて消して彼を追い掛けた。彼の足はとてつもなく速かった。
人の生きた気配のしない駐屯地。俺達の足音と俺の呼吸音が響く。煙草を常に吸っているせいで体力が持たず肺が燃えるように痛いのを我慢して、彼を見失ってしまわないように必死に追い掛ける。
[太字][大文字]バタン!![/大文字][/太字]
駐屯地は個室がズラリと並んだ構造で、兵士1人当たり個室1部屋らしい。殆どの個室の扉が乱雑に開け放たれたままになっていた。そのうちの1つに彼は駆け込み、俺が彼に追いつく前に扉を閉めた。
「どうしたんだよ、急に」
俺は扉のドアノブに手を掛けたが、ドアが開かない。鍵が閉まっている。扉を何度強く叩いても、まるで誰もいないかのように静かだった。
ポッ……ポッ…
不意に降り始めた雨が段々と騒がしくなる。
[小文字]「もう知ってんだろ。俺が特攻隊に配属されてるって」
[/小文字]
雨音に掻き消されてしまいそうな彼の弱々しい声が、扉の向こうから微かに聞こえた。
「あぁ、でもこんな状況になったら撤退に…」
[小文字]「いや」[/小文字]
扉の向こうで、彼が体勢を変えたような音が聞こえた気がした。俺は扉に耳を近づけて耳を澄ませる。彼が扉の前に立っているのか、彼の気配をすぐ近くに感じる。
[小文字]「俺が明日の朝6時に南の敵幹部に特攻することは決定事項だ。戦況を問わず。覆すことは許されない。俺が今日中に死なない限りは」[/小文字]
「はぁ?!なんで…」
止まない雨が激しく天井を打ち付ける音がする。
[小文字]「だから…帰ってくれ。俺がもう一度……夢を描いてしまう前に」
[/小文字]
彼の気配がフッと扉の前から消えた。
「おい、宇佐美リト…。宇佐美リト!」
返ってこない返事。
いったい今までに、どれだけ沢山の夢や希望が潰えたのだろうか。
段々と日が暮れて暗くなるのに、眩しくピンク色に光るデバイス。まだ、彼の名前が光っているのに。
「俺が代わりに行くよ!俺、死ぬのに慣れてるからさ!君が行ったことにしたら良い!」
[小文字][打消し]「dtstm………」[/打消し][/小文字]
くぐもった彼の声が聞こえて、俺は全身を貼り付けるようにして再び扉に耳をくっつける。
「なんて?!もう一回言ってくれ!」
[小文字][打消し]「君が仮に生き返れるとしても、自分の命を軽視するようなことはもう俺に聞かせないでくれないか」[/打消し][/小文字]
彼の言葉がズドンと心臓に重く響く。
「それは…君もだろう」
彼が言葉を発することは無かった。
そう言って彼は訝しそうに俺の全身を舐め回すように見た。無論、彼からすれば俺は不死身だとか言い出す不審者なのだから仕方がない。俺は腰のデバイスに表示された文字を彼に見えるようにして、そして胸ポケットから例の手紙を丁寧に取り出した。彼は、デバイスを見ても何かしらの武器かと警戒しつつもただ不思議そうに見つめるだけだったが、少しシワの寄った手紙に対しては瞳が揺らいでいた。
「俺はあんたの仲m…」
「手紙なら返してもらわなくても良い」
彼は手紙から目を背けるように無愛想に踵を返して、銃弾の真新しい跡が残る塀に囲まれた駐屯地に戻っていく。俺が敵側の人間かもしれないのにも関わらず彼が俺に背を向けたのは――。
彼の大きな背中が段々と遠ざかっていく。
「待ってくれ!」
彼はピタリと立ち止まった。
真っ黒で大きなカラスが俺達の頭上を通り過ぎる。
埃臭くて煙の臭いもする風で俺の前髪が両目を隠す。
もう一度同じ香りの風が吹いて、視界を取り戻す。
彼が僅かに俺の方を振り向いていた。
泣いていないのに泣いていた。
これが適切な表現かは分からないが、彼はそんな顔をしていた。
「俺の仲間になってほしいんだ」
「何を目的に……?」
何を目的に。
目的。
今思う。こんなに難しい言葉はない。
俺が答えられないでいると、彼は再び俺に背を向けた。このまま彼を行かせたら、もう二度と彼に相手してもらえない気がした。何としても彼を引き止めなければならなかった。言葉を探せど見つからない代わりに、俺の目が彼の後ろ姿に何かを見つけた。
「君は志願兵だろう?!」
正規兵と区別するための志願兵のピアスの残骸が、彼の耳に引っ掛かっていた。俺の言葉に彼は再び立ち止まった。
「そうだ。俺は子供の時からヒーローになりたくて――」
[太字][大文字]バン!!![/大文字][/太字]
あ〜………痛い。
大量の何かが背後から俺の全身を貫通した。恐怖心はないけれど、死ぬのはいつだって苦痛が伴うからイヤだ。
血相を変えて俺に駆け寄る彼の姿が見える。チラリと、何かが飛んできた方向を見ると不発弾が暴発した痕跡が見えた。あれか。
「おい――!」
視界が真っ白になる。
死んだ。
生き返ろ。
せぇの、はい。
再び視界に色がつく。些か軽くなった上半身を起こす。全身を貫かれた身体の痛みや道中の疲れから解放されて、俺はグルリと首を一周回す。ありがたいことに俺が生き返る時、怪我も全部リセットされるのだ。
「だ…大丈夫か?お前」
「大丈夫、大丈夫。一瞬だったろ、俺の復活」
俺は胸ポケットから煙草を取り出しライターで火をつけて、命の補給兼ニコチンの補給をする。復活直後の煙草は一段と美味い。
「は……?」
きっと彼は疑問と困惑と異質さへの恐怖心でいっぱいだろう。それが、そのたった一文字に込められていた。
「なら子供の頃の夢、一緒に追い掛けさせてくれないか」
「え?」
俺は煙をふぅー、と空に向かって吐く。煙はゆらゆらと揺れて、溶けるように消えていく。
「さっき、ヒーローになりたいだとか言ってたじゃないか」
俺の言葉に、彼は一瞬だけ少年のように瞳を輝かせたが、すぐに諦めたように項垂れた。地面に付いた両手が激しく震えていた。そして、何も言わずにダッと駐屯地に走っていく。
「え、おい!どこに!!」
俺は吸いかけの煙草を慌てて消して彼を追い掛けた。彼の足はとてつもなく速かった。
人の生きた気配のしない駐屯地。俺達の足音と俺の呼吸音が響く。煙草を常に吸っているせいで体力が持たず肺が燃えるように痛いのを我慢して、彼を見失ってしまわないように必死に追い掛ける。
[太字][大文字]バタン!![/大文字][/太字]
駐屯地は個室がズラリと並んだ構造で、兵士1人当たり個室1部屋らしい。殆どの個室の扉が乱雑に開け放たれたままになっていた。そのうちの1つに彼は駆け込み、俺が彼に追いつく前に扉を閉めた。
「どうしたんだよ、急に」
俺は扉のドアノブに手を掛けたが、ドアが開かない。鍵が閉まっている。扉を何度強く叩いても、まるで誰もいないかのように静かだった。
ポッ……ポッ…
不意に降り始めた雨が段々と騒がしくなる。
[小文字]「もう知ってんだろ。俺が特攻隊に配属されてるって」
[/小文字]
雨音に掻き消されてしまいそうな彼の弱々しい声が、扉の向こうから微かに聞こえた。
「あぁ、でもこんな状況になったら撤退に…」
[小文字]「いや」[/小文字]
扉の向こうで、彼が体勢を変えたような音が聞こえた気がした。俺は扉に耳を近づけて耳を澄ませる。彼が扉の前に立っているのか、彼の気配をすぐ近くに感じる。
[小文字]「俺が明日の朝6時に南の敵幹部に特攻することは決定事項だ。戦況を問わず。覆すことは許されない。俺が今日中に死なない限りは」[/小文字]
「はぁ?!なんで…」
止まない雨が激しく天井を打ち付ける音がする。
[小文字]「だから…帰ってくれ。俺がもう一度……夢を描いてしまう前に」
[/小文字]
彼の気配がフッと扉の前から消えた。
「おい、宇佐美リト…。宇佐美リト!」
返ってこない返事。
いったい今までに、どれだけ沢山の夢や希望が潰えたのだろうか。
段々と日が暮れて暗くなるのに、眩しくピンク色に光るデバイス。まだ、彼の名前が光っているのに。
「俺が代わりに行くよ!俺、死ぬのに慣れてるからさ!君が行ったことにしたら良い!」
[小文字][打消し]「dtstm………」[/打消し][/小文字]
くぐもった彼の声が聞こえて、俺は全身を貼り付けるようにして再び扉に耳をくっつける。
「なんて?!もう一回言ってくれ!」
[小文字][打消し]「君が仮に生き返れるとしても、自分の命を軽視するようなことはもう俺に聞かせないでくれないか」[/打消し][/小文字]
彼の言葉がズドンと心臓に重く響く。
「それは…君もだろう」
彼が言葉を発することは無かった。