俺が工房で機械を弄っていた時、誰かが工房の扉を軽く叩く音がした。右手に持っていたドライバーを机の中にしまって、相棒をクローゼットの中に隠す。いつもの癖だ。
俺しか知らない暗証番号を扉の画面に入力して恐る恐る開けると、眩しい太陽の光が俺の影を背後に作ったらしいが、俺は当然それを見ることは出来なかった。俺は、日の光を背にして立つ四人組に目を奪われた。
「俺と握手をしよう」
煙草の香りを漂わせる男が俺に手を伸ばす。人一倍人見知りで何処か人を恐れている所があるこの男にとって、握手と言う行為は友情や仲間であることを契るものなのだと俺は誰かから聞いたのを思い出した。
俺は特に何も考えずに彼の手を握り返そうとしたが、俺の指先が彼の手の甲に触れる寸前、俺は壊れた機械みたいにその場で硬直した。彼の数歩後ろに立っているやたら筋肉質で長身の男が、不思議そうにひょこっと顔を覗かせた。誰かが俺に吐き捨てた言葉が、一瞬にして脳を過った。
『お前の手は冷えすぎてて気味が悪い』
それは、俺が確かに葬り去った言葉のはずだった。だが、それがたった今、棺桶から起き上がりゾンビのように俺の心を蝕み始めていた。もしも俺が彼の手を握れば、彼は俺を化け物として成敗するだろう。そのくらい、俺は温もりを知らなかった。
[水平線]
俺が温もりを忘れてしまったのは、機械いじりと言う趣味に出会う前のこと。少年だった頃、俺は「町一番の秀才」だと言われていた。何を隠そう、俺は理系科目が得意だった。初めは俺も自分に与えられた称号を誇りに思っていたが、俺自身が何の意味もない競争に巻き込まれているのだと知った時、どうでも良くなった。当時、誰も俺にその呪いの競争から抜け出すことを許さなかった。「賢いのに、勿体無い」の定型文をエラーみたいに吐いて。
当時、誰もが俺を「突然変異の賜物」と見なしていた。だから俺は敢えて、「道を踏み外した」。家出をして学校にも行かずに、なけなしの金で道端の商人から買った時計を退屈しのぎで分解してみたのが、今では職となっている趣味との出会いだったが、機械と一対一で向き合っているとき俺は確信を得ていた。「俺は突然変異でも何でもない平凡な人間なのだ」と。誰かに操られるような「優等生の操り人形」なんかにはならないのだと。
俺が家出をしてかなり時間が経ち、俺が故郷すら忘れかけた頃、忘れかけていた人が俺を訪れた。それは、俺をライバル視することを生きがいにしていた隣のクラスの同級生だった。外見に関しては今では顔の輪郭くらいしか記憶に無い奴だが、彼が俺に吐き捨てた言葉だけは俺の記憶に刻まれている。
『お前は皆のために才能を捧げるべきだ』
『宝の持ち腐れは誰のためにもならないから、やめるべきだ』
『もしも同じ生活を送ろうとしているなら、その考えはやめるべきだ』
『お前のせいで、自分はお前の代わりにならないといけない。俺の人権はお前に永遠に奪われたままだ』
彼の語尾が妙に気になって肝心の内容は殆ど耳を傾けていなかったが、彼自身が既に呪いの競争を応援する善悪という名前の観客に支配されて、支離滅裂な言葉を並べるだけのbotになり果ててしまったらしいことがよくわかった。
[水平線]
静止画みたいに見えていた俺の視界の中で、少し落ち込んだ様子でスッと彼が手を引っ込めるのが見えた。俺は慌てて自分の両手を伸ばしてその手を強く握った。少し乾いた彼の手から、内なる温もりを静かに眠らせたような、温かくはないが心地良い感触が俺の手の平に伝わった。無機質な機械みたいに冷たい俺の手を、彼は優しく握り返した。
俺の中で何かが芽生えていく。それは、俺がDyticaの一員だと告げられた瞬間に似ていた。冬が幕を閉じてもなお地面を覆う雪を春の太陽が照らして、その中から種が芽生えていく感じ。
「マナって言いますぅ。これから宜しくお願いしますぅ。残りの三人方には既にご挨拶させて頂きまして、ライさんが最後だったので遅くなってしまって、ホンマに面目ないです」
「え?」
独特なイントネーションで話す、白い髪に水色のメッシュが入った細身の男性が「リト」と名乗った筋肉男の背後から顔を覗かせてそう言った。工房の窓に視線をやると、既に空は薄暗くなっていた。俺が太陽だと思い込んだのは、彼らのオーラのようなものだったのかもしれない。
[水平線]
「また良かったら一緒に飲みましょうね、ライさん」
暫く他愛もない世間話を楽しんでから、彼らは帰っていった。四人の中で最後に工房を出た彼のコーラルピンクの髪が綺麗に靡くのを密かに見守りながら、俺は扉を閉めた。工房には、まだ彼らの温もりが残っている。俺の指先も、いつもよりは幾分温かい。
東の英雄が去って、もうすぐ夜が来る。俺の仲間たちがヒラリと裾を棚引かせる夜が来る。そんな様子を俺ともう一人の仲間は、鈍器を隠して傍観者のフリをする。世間は言う。
傍観者は___だと。
時に崇められ時に恐れられる人生を俺の瞳は受け入れるらしい。だが挙句、俺はいつの日か、自分の醜さを目の当たりにするのかもしれない。
俺しか知らない暗証番号を扉の画面に入力して恐る恐る開けると、眩しい太陽の光が俺の影を背後に作ったらしいが、俺は当然それを見ることは出来なかった。俺は、日の光を背にして立つ四人組に目を奪われた。
「俺と握手をしよう」
煙草の香りを漂わせる男が俺に手を伸ばす。人一倍人見知りで何処か人を恐れている所があるこの男にとって、握手と言う行為は友情や仲間であることを契るものなのだと俺は誰かから聞いたのを思い出した。
俺は特に何も考えずに彼の手を握り返そうとしたが、俺の指先が彼の手の甲に触れる寸前、俺は壊れた機械みたいにその場で硬直した。彼の数歩後ろに立っているやたら筋肉質で長身の男が、不思議そうにひょこっと顔を覗かせた。誰かが俺に吐き捨てた言葉が、一瞬にして脳を過った。
『お前の手は冷えすぎてて気味が悪い』
それは、俺が確かに葬り去った言葉のはずだった。だが、それがたった今、棺桶から起き上がりゾンビのように俺の心を蝕み始めていた。もしも俺が彼の手を握れば、彼は俺を化け物として成敗するだろう。そのくらい、俺は温もりを知らなかった。
[水平線]
俺が温もりを忘れてしまったのは、機械いじりと言う趣味に出会う前のこと。少年だった頃、俺は「町一番の秀才」だと言われていた。何を隠そう、俺は理系科目が得意だった。初めは俺も自分に与えられた称号を誇りに思っていたが、俺自身が何の意味もない競争に巻き込まれているのだと知った時、どうでも良くなった。当時、誰も俺にその呪いの競争から抜け出すことを許さなかった。「賢いのに、勿体無い」の定型文をエラーみたいに吐いて。
当時、誰もが俺を「突然変異の賜物」と見なしていた。だから俺は敢えて、「道を踏み外した」。家出をして学校にも行かずに、なけなしの金で道端の商人から買った時計を退屈しのぎで分解してみたのが、今では職となっている趣味との出会いだったが、機械と一対一で向き合っているとき俺は確信を得ていた。「俺は突然変異でも何でもない平凡な人間なのだ」と。誰かに操られるような「優等生の操り人形」なんかにはならないのだと。
俺が家出をしてかなり時間が経ち、俺が故郷すら忘れかけた頃、忘れかけていた人が俺を訪れた。それは、俺をライバル視することを生きがいにしていた隣のクラスの同級生だった。外見に関しては今では顔の輪郭くらいしか記憶に無い奴だが、彼が俺に吐き捨てた言葉だけは俺の記憶に刻まれている。
『お前は皆のために才能を捧げるべきだ』
『宝の持ち腐れは誰のためにもならないから、やめるべきだ』
『もしも同じ生活を送ろうとしているなら、その考えはやめるべきだ』
『お前のせいで、自分はお前の代わりにならないといけない。俺の人権はお前に永遠に奪われたままだ』
彼の語尾が妙に気になって肝心の内容は殆ど耳を傾けていなかったが、彼自身が既に呪いの競争を応援する善悪という名前の観客に支配されて、支離滅裂な言葉を並べるだけのbotになり果ててしまったらしいことがよくわかった。
[水平線]
静止画みたいに見えていた俺の視界の中で、少し落ち込んだ様子でスッと彼が手を引っ込めるのが見えた。俺は慌てて自分の両手を伸ばしてその手を強く握った。少し乾いた彼の手から、内なる温もりを静かに眠らせたような、温かくはないが心地良い感触が俺の手の平に伝わった。無機質な機械みたいに冷たい俺の手を、彼は優しく握り返した。
俺の中で何かが芽生えていく。それは、俺がDyticaの一員だと告げられた瞬間に似ていた。冬が幕を閉じてもなお地面を覆う雪を春の太陽が照らして、その中から種が芽生えていく感じ。
「マナって言いますぅ。これから宜しくお願いしますぅ。残りの三人方には既にご挨拶させて頂きまして、ライさんが最後だったので遅くなってしまって、ホンマに面目ないです」
「え?」
独特なイントネーションで話す、白い髪に水色のメッシュが入った細身の男性が「リト」と名乗った筋肉男の背後から顔を覗かせてそう言った。工房の窓に視線をやると、既に空は薄暗くなっていた。俺が太陽だと思い込んだのは、彼らのオーラのようなものだったのかもしれない。
[水平線]
「また良かったら一緒に飲みましょうね、ライさん」
暫く他愛もない世間話を楽しんでから、彼らは帰っていった。四人の中で最後に工房を出た彼のコーラルピンクの髪が綺麗に靡くのを密かに見守りながら、俺は扉を閉めた。工房には、まだ彼らの温もりが残っている。俺の指先も、いつもよりは幾分温かい。
東の英雄が去って、もうすぐ夜が来る。俺の仲間たちがヒラリと裾を棚引かせる夜が来る。そんな様子を俺ともう一人の仲間は、鈍器を隠して傍観者のフリをする。世間は言う。
傍観者は___だと。
時に崇められ時に恐れられる人生を俺の瞳は受け入れるらしい。だが挙句、俺はいつの日か、自分の醜さを目の当たりにするのかもしれない。
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