これは、僕たちが東西に分かれてヒーローに加入する前の話―――。
[水平線]
休み時間に廊下を全力で駆け抜ける1人の男子生徒を僕は追い掛けていた。緩々のネクタイ、上までボタンを締めていないカッターシャツ。ズボンからヒラヒラとはみ出るシャツの裾。
「止まれってば!小柳ロウ!」
この光景は毎日のことで、僕にとっても小柳にとっても日課のようになっている。
「うるせぇょ、ウェン風紀委員長!」
ロウは振り向きざまに吐き捨てた。インフルエンザが校内に流行して、俺たちのクラス以外は学級閉鎖になっていた。いつもよりも静かで薄暗い廊下を、僕たちの忙しない足音と荒い吐息だけが響く。
「ウェン、日誌はもう書いたのか?宿題を職員室に運びに行ったのか?俺はオトモと遊びに庭に行く必要があるんだ。構うな!」
「オトモ〜?!」
僕の息が段々と上がってきて足も遅くなっていくのに、ロウは颯爽と走り去っていく。
「聞いてんのかよ!」
荒い吐息の混ざった僕の叫び声に、ロウは走るスピードを全く落とさず一瞬僕を一瞥しただけだった。
「ロウきゅん、マジでうぜぇ!」
「ロウきゅんって呼ぶな!」
僕が敢えてロウを煽るように、こいつが嫌っている呼び名で呼ぶと、ロウは漸く立ち止まって僕の方を振り向いた。ロウが僕を睨むその顔を見ていると、少しだけ気分が良い。
「俺を追いかけてないで、勉強でもしてたらどうですか、赤城くぅん」
「はぁ…?!」
僕は先日の期末考査の時に、学年順位がロウよりも一つ低かった。いつも遊び呆けてばかりの、このロウに、だ。
「お大事にね〜、ウェンくん」
そして僕が芳しくない成績を残してしまったのが、僕が期末考査の前日に高熱を出してしまって一日中寝込んでいたからだということも、ロウは知っている。ロウは、ピクつく僕の頬を見てハハッとあからさまに小馬鹿にしたように笑うと、クルリと体の向きを変えて再び中庭の方へ駆けていく。
「次は絶対に僕が勝ってやるからな!」
「いや、俺だな!」
僕たち2人は学生ホールに駆け込んだ。あと数分で授業開始のチャイムが鳴る。ここ3年間、風紀委員を務めてきた僕を信頼しすぎる担任の先生に若干の恨みを抱いて、僕はロウを追い掛けた。
「ハァ゛ハッ!」
がなったロウの声と僕たちの足音。学生ホールの鏡には、ロウが笑っているのが一瞬だけ見えた。
「ロu……」
[太字][大文字]「おい!!」[/大文字][/太字]
あと数歩で中庭にロウがたどり着く寸前、僕の背後から鬼教頭の怒号が聴こえた。僕は肩から背中にかけて電流が流れたような感じがして、反射的に振り向いた。ロウも流石に鬼教頭を無視するわけにもいかなかったのか、不貞腐れた表情で「はぁぃ」と答えた。
「いつまで遊んどる!」
物凄い剣幕で仁王立ちになり怒鳴る鬼教頭を前に、僕たちは大人しく説教を食らうことしか出来ない。
「赤城!風紀委員長だろう。しっかりしなさい!」
何で僕だけ…。
その思いをギュッと口の中に閉じ込めて、僕は小さく頷いた。でも、悔しい思いをさせられたのは僕だけじゃなかった。
「小柳。昨日も補導されていたな。流血レベルの喧嘩をしたと聞いた」
そんなの、今は関係ないじゃないですか。
ロウの飼っている猫が散歩中に、酔っ払いに殴られ蹴られていたのを救った事実には見向きもしないくせに。
心の底から沸き立つ僕の言葉とは裏腹に、ロウは無表情に鬼教頭に向き合っていた。
「いい加減、大人になりなさい!」
鬼教頭はその言葉で説教を締め括ると、僕たちをシッシッと手で払うように教室に向かわせた。
「ああいうの嫌いだよ、俺」
「うん、僕も」
僕たちが教室に向かった頃に、ちょうどチャイムが鳴った。いつもよりも少しだけ広く感じる教室の最前列の席にロウ、最後列の窓際に僕は座る。
「授業始めるぞ〜数Ⅱのテキスト持ってきたか〜」
「やべ!忘れてた!」
「宿題の答えだけ、ちょっと見せて」
「そこ、スマホ使わない!」
「はい、すんませ〜ん」
ザワザワとした景色の先に、ロウが正々堂々と机に突っ伏して居眠りしているのが見える。今日は日差しが強い。
「赤城、窓。換気して」
「はい」
先生は僕に背中を向けたまま、無愛想に指示した。僕たちが入学した頃は黒くてフサフサしていた先生の髪の毛も、段々と白く薄くなって後頭部が少しザビエルみたいになっているのを横目に、僕は席を立って窓を開けた。涼しいのか生ぬるいのかよく分からない風が、カーテンを大きく膨らませた。
「あ!」
少し強めの風に負けてしまって、僕の机の上にあった宿題プリントが最前列のロウの所まで飛んでいってしまった。パサリとロウの後頭部に綺麗に着地するプリント。それを見た周りの生徒がクスクスと小さく笑う。それに気が付いたロウが顔を上げ、プリントを手に取り、自分のものではない筆跡を訝しそうに見る。チラリとロウと目が合った。僕は、ロウが僅かに悪戯っぽくニヤついたのを見逃さなかった。
「せんせ〜、ウェンが宿題に〇〇って落書きしてま〜す!」
「はあっ?!おい、書いてないって!」
ロウは、声に出すのも憚られるような下ネタを大声で叫んだ。教室の女子は呆れたような目線で僕を睨むし、男子たちは、うえ〜い、とロウを賛美するように拍手した。
「嘘で〜す!」
「もう良いって、お前さー!」
僕が十分に冤罪で赤っ恥をかいたのを念入りに確かめてから、ロウは得意げな顔で僕にプリントを投げて返してきた。教室中に気の弛んだ笑い声が響き、先生は両手を叩いて生徒の気を引き締めさせた。
僕たちはこんな、くだらない毎日を送っている。
今日も、いたちごっこ。
明日もきっと、いたちごっこ。
[水平線]
「ロウきゅん!」
「ロウきゅんやめろ」
6人の仲間と一緒にバカ騒ぎする日々。東西に分かれた今もなお―――僕たちのいたちごっこは終わらない。
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休み時間に廊下を全力で駆け抜ける1人の男子生徒を僕は追い掛けていた。緩々のネクタイ、上までボタンを締めていないカッターシャツ。ズボンからヒラヒラとはみ出るシャツの裾。
「止まれってば!小柳ロウ!」
この光景は毎日のことで、僕にとっても小柳にとっても日課のようになっている。
「うるせぇょ、ウェン風紀委員長!」
ロウは振り向きざまに吐き捨てた。インフルエンザが校内に流行して、俺たちのクラス以外は学級閉鎖になっていた。いつもよりも静かで薄暗い廊下を、僕たちの忙しない足音と荒い吐息だけが響く。
「ウェン、日誌はもう書いたのか?宿題を職員室に運びに行ったのか?俺はオトモと遊びに庭に行く必要があるんだ。構うな!」
「オトモ〜?!」
僕の息が段々と上がってきて足も遅くなっていくのに、ロウは颯爽と走り去っていく。
「聞いてんのかよ!」
荒い吐息の混ざった僕の叫び声に、ロウは走るスピードを全く落とさず一瞬僕を一瞥しただけだった。
「ロウきゅん、マジでうぜぇ!」
「ロウきゅんって呼ぶな!」
僕が敢えてロウを煽るように、こいつが嫌っている呼び名で呼ぶと、ロウは漸く立ち止まって僕の方を振り向いた。ロウが僕を睨むその顔を見ていると、少しだけ気分が良い。
「俺を追いかけてないで、勉強でもしてたらどうですか、赤城くぅん」
「はぁ…?!」
僕は先日の期末考査の時に、学年順位がロウよりも一つ低かった。いつも遊び呆けてばかりの、このロウに、だ。
「お大事にね〜、ウェンくん」
そして僕が芳しくない成績を残してしまったのが、僕が期末考査の前日に高熱を出してしまって一日中寝込んでいたからだということも、ロウは知っている。ロウは、ピクつく僕の頬を見てハハッとあからさまに小馬鹿にしたように笑うと、クルリと体の向きを変えて再び中庭の方へ駆けていく。
「次は絶対に僕が勝ってやるからな!」
「いや、俺だな!」
僕たち2人は学生ホールに駆け込んだ。あと数分で授業開始のチャイムが鳴る。ここ3年間、風紀委員を務めてきた僕を信頼しすぎる担任の先生に若干の恨みを抱いて、僕はロウを追い掛けた。
「ハァ゛ハッ!」
がなったロウの声と僕たちの足音。学生ホールの鏡には、ロウが笑っているのが一瞬だけ見えた。
「ロu……」
[太字][大文字]「おい!!」[/大文字][/太字]
あと数歩で中庭にロウがたどり着く寸前、僕の背後から鬼教頭の怒号が聴こえた。僕は肩から背中にかけて電流が流れたような感じがして、反射的に振り向いた。ロウも流石に鬼教頭を無視するわけにもいかなかったのか、不貞腐れた表情で「はぁぃ」と答えた。
「いつまで遊んどる!」
物凄い剣幕で仁王立ちになり怒鳴る鬼教頭を前に、僕たちは大人しく説教を食らうことしか出来ない。
「赤城!風紀委員長だろう。しっかりしなさい!」
何で僕だけ…。
その思いをギュッと口の中に閉じ込めて、僕は小さく頷いた。でも、悔しい思いをさせられたのは僕だけじゃなかった。
「小柳。昨日も補導されていたな。流血レベルの喧嘩をしたと聞いた」
そんなの、今は関係ないじゃないですか。
ロウの飼っている猫が散歩中に、酔っ払いに殴られ蹴られていたのを救った事実には見向きもしないくせに。
心の底から沸き立つ僕の言葉とは裏腹に、ロウは無表情に鬼教頭に向き合っていた。
「いい加減、大人になりなさい!」
鬼教頭はその言葉で説教を締め括ると、僕たちをシッシッと手で払うように教室に向かわせた。
「ああいうの嫌いだよ、俺」
「うん、僕も」
僕たちが教室に向かった頃に、ちょうどチャイムが鳴った。いつもよりも少しだけ広く感じる教室の最前列の席にロウ、最後列の窓際に僕は座る。
「授業始めるぞ〜数Ⅱのテキスト持ってきたか〜」
「やべ!忘れてた!」
「宿題の答えだけ、ちょっと見せて」
「そこ、スマホ使わない!」
「はい、すんませ〜ん」
ザワザワとした景色の先に、ロウが正々堂々と机に突っ伏して居眠りしているのが見える。今日は日差しが強い。
「赤城、窓。換気して」
「はい」
先生は僕に背中を向けたまま、無愛想に指示した。僕たちが入学した頃は黒くてフサフサしていた先生の髪の毛も、段々と白く薄くなって後頭部が少しザビエルみたいになっているのを横目に、僕は席を立って窓を開けた。涼しいのか生ぬるいのかよく分からない風が、カーテンを大きく膨らませた。
「あ!」
少し強めの風に負けてしまって、僕の机の上にあった宿題プリントが最前列のロウの所まで飛んでいってしまった。パサリとロウの後頭部に綺麗に着地するプリント。それを見た周りの生徒がクスクスと小さく笑う。それに気が付いたロウが顔を上げ、プリントを手に取り、自分のものではない筆跡を訝しそうに見る。チラリとロウと目が合った。僕は、ロウが僅かに悪戯っぽくニヤついたのを見逃さなかった。
「せんせ〜、ウェンが宿題に〇〇って落書きしてま〜す!」
「はあっ?!おい、書いてないって!」
ロウは、声に出すのも憚られるような下ネタを大声で叫んだ。教室の女子は呆れたような目線で僕を睨むし、男子たちは、うえ〜い、とロウを賛美するように拍手した。
「嘘で〜す!」
「もう良いって、お前さー!」
僕が十分に冤罪で赤っ恥をかいたのを念入りに確かめてから、ロウは得意げな顔で僕にプリントを投げて返してきた。教室中に気の弛んだ笑い声が響き、先生は両手を叩いて生徒の気を引き締めさせた。
僕たちはこんな、くだらない毎日を送っている。
今日も、いたちごっこ。
明日もきっと、いたちごっこ。
[水平線]
「ロウきゅん!」
「ロウきゅんやめろ」
6人の仲間と一緒にバカ騒ぎする日々。東西に分かれた今もなお―――僕たちのいたちごっこは終わらない。
- 1.シビルアイ 星導ショウ/にじさんじ
- 2.【リクエスト作品】 ビターチョコデコレーション syudou feat.初音ミク
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- 6.【リクエスト】MECHA-MECHA MECHATU-A ⚠nmnm(MECHATU-A全員)
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- 15.逆夢 King Gnu ⚠nmnm(Oriens)
- 16.セレナーデ なとり ⚠nmnm(セラフ・ダズルガーデン×星導ショウ)
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- 18.ヴィラン てにおは (伊波ライ)
- 19.まにまに r-906 (小柳ロウ×叢雲カゲツ)
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- 22.紅蓮華 LiSA (小柳ロウ)
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