「何億年も前には、完全にAIフリーの人間がいたらしい」
友達のその言葉が到底信じられなくて、僕は脳内の古代図鑑にアクセスした。図鑑の中盤から新生代のことが数ページだけ載っている。その中の、【AI完全フリー人間の日記 名称・年齢不詳】というコラムの小見出しに僕は視線を奪われた。歴史の授業で習った、紙、というものに乱雑な文字が並んでいる。
「本当にいたんだ…」
今とは文字の形も文法も全く違う言葉の羅列。行と行の隙間に小さな文字で印刷された現代語訳を、僕は目にスキャンした。
[水平線]
[水平線]
「渡る世間に鬼はいない」
そんな子供騙しの思う壺にはならない。でも社会はまるで僕のその言葉を、呪いみたいだと言って矯正してくる。だから僕も貴方たちを騙す。
口先では綺麗事ばかりな貴方たちの真似を僕もする。本当は汚くても綺麗な振りをする。僕達は一生涯、本当の顔を晒さない演者だから。
「良薬は口に苦し」
あらゆる愚行に対する言い訳を正当化して正義みたいに掲げる貴方たちの言葉を飲み込むだけの僕は、まるで脳のない機械みたい。自分を押し殺して演技していく機械みたいな僕は、貴方たちにとって心地よいモノ。ほら、心の籠っていない賛美を全身に浴びて気持ち良い?………なんて言葉を隠して、僕は真面目なフリをする。
みんなに合わせなきゃ。それは死ぬまで続く呪文。強制的な義務感の鎖に縛られて窮屈だ。僅かでも鎖を解こうと藻掻いたものなら、僕は異端者扱い。だから、じっと黙っていなきゃ。
[水平線]
[水平線]
それ以降にも何かしら殴り書きされた痕跡はあるけれど、腐敗して破れて残っていない。
「これが僕達の祖先か」
次のページをめくると、ドンと大きな見出しが目に飛び込んできた。
【人格機械化反対運動の様子】
今の僕たちとは全く違う姿の人間たちが、集団で集まってヒステリックに叫ぶ動画が自動再生された。
『寂しいんです。正直に言うと』
何の不具合か、映像は物騒なのに1人の男性の静かな声が流れた。
『私は初めて人格を機械化された初代で、機械フリーの恋人がいますが、彼女を壊してしまいそうです』
彼はそのまま話し続けた。昔は機械化が下手くそだったのか、随分と感情がふんだんに詰まった言葉を冗長に述べる。
『それでは、機械化を解除したいと…?』
AIインタビュアーが彼に尋ねる。彼はなかなか答えない。あってはならないことだ。答えならば、即座に提供しなければならないのに。
『いいえ』
10秒も経って、漸く彼の返事が聞こえた。動画の方では、機械化センターに子供を連れて行かなかったとして書類送検された両親の報道が。
『実に色々なものが変わっていくのを、僕達の世代はこの目で見ました。昔の人がしてはならないとしたことも、今では正々堂々と美しいものとみなしています。だから、人間が機械化されていくのも摂理なのかなと…それに…正じk…』
あれ?
「充電の時間よ」
突然音が途切れたかと思ったら、お母さんから夜ご飯に呼ばれた。僕は鼓膜の細胞情報を古代図鑑にダウンロードして、充電しに向かった。
[水平線]
『僕は大人に嫌気が差していたんです』
充電している間、音声に耳を傾けていた。
『本当は子供の癖に大人なフリをして、自身を飾り立てるような大人にはなりたくなかったんです。でも社会はそれを求める。その頃でした。お試し人格機械化キャンペーンが始まったのは』
僕は、前にお父さんから聞いた話を思い出した。僕の祖先の中に、最後まで機械化に抗った人がいたらしい。でもそれは既に不名誉なことだったから、後になって近所の人達の記憶を部分的に削除したって。
『僕も始めこそ、周りの環境だけじゃなくて心までも機械化されることに反対していました。でも心の中は、そうじゃなかったんだなと。今は……満足してます。やっと、社会に求められる大人になれたのかなって』
彼のその言葉を最後に、音声は途切れた。
[水平線]
℉|^§%℉$$±%^%§θ#@:∆@℉※@❁!√#θΧ^§℉❖@↦⇃⇅⇁↭⇃↹↢↫↵⇄⇃↭△◁✝✝◐◀♠♥✖☆︷❩』❵︹❛》{❝
[水平線]
[中央寄せ]【Please wait】
機械フリー人間を感知しました。
情報の捜索中です。
【警告】
貴方が抱いた感想は受理されませんでした。
[/中央寄せ]
友達のその言葉が到底信じられなくて、僕は脳内の古代図鑑にアクセスした。図鑑の中盤から新生代のことが数ページだけ載っている。その中の、【AI完全フリー人間の日記 名称・年齢不詳】というコラムの小見出しに僕は視線を奪われた。歴史の授業で習った、紙、というものに乱雑な文字が並んでいる。
「本当にいたんだ…」
今とは文字の形も文法も全く違う言葉の羅列。行と行の隙間に小さな文字で印刷された現代語訳を、僕は目にスキャンした。
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「渡る世間に鬼はいない」
そんな子供騙しの思う壺にはならない。でも社会はまるで僕のその言葉を、呪いみたいだと言って矯正してくる。だから僕も貴方たちを騙す。
口先では綺麗事ばかりな貴方たちの真似を僕もする。本当は汚くても綺麗な振りをする。僕達は一生涯、本当の顔を晒さない演者だから。
「良薬は口に苦し」
あらゆる愚行に対する言い訳を正当化して正義みたいに掲げる貴方たちの言葉を飲み込むだけの僕は、まるで脳のない機械みたい。自分を押し殺して演技していく機械みたいな僕は、貴方たちにとって心地よいモノ。ほら、心の籠っていない賛美を全身に浴びて気持ち良い?………なんて言葉を隠して、僕は真面目なフリをする。
みんなに合わせなきゃ。それは死ぬまで続く呪文。強制的な義務感の鎖に縛られて窮屈だ。僅かでも鎖を解こうと藻掻いたものなら、僕は異端者扱い。だから、じっと黙っていなきゃ。
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それ以降にも何かしら殴り書きされた痕跡はあるけれど、腐敗して破れて残っていない。
「これが僕達の祖先か」
次のページをめくると、ドンと大きな見出しが目に飛び込んできた。
【人格機械化反対運動の様子】
今の僕たちとは全く違う姿の人間たちが、集団で集まってヒステリックに叫ぶ動画が自動再生された。
『寂しいんです。正直に言うと』
何の不具合か、映像は物騒なのに1人の男性の静かな声が流れた。
『私は初めて人格を機械化された初代で、機械フリーの恋人がいますが、彼女を壊してしまいそうです』
彼はそのまま話し続けた。昔は機械化が下手くそだったのか、随分と感情がふんだんに詰まった言葉を冗長に述べる。
『それでは、機械化を解除したいと…?』
AIインタビュアーが彼に尋ねる。彼はなかなか答えない。あってはならないことだ。答えならば、即座に提供しなければならないのに。
『いいえ』
10秒も経って、漸く彼の返事が聞こえた。動画の方では、機械化センターに子供を連れて行かなかったとして書類送検された両親の報道が。
『実に色々なものが変わっていくのを、僕達の世代はこの目で見ました。昔の人がしてはならないとしたことも、今では正々堂々と美しいものとみなしています。だから、人間が機械化されていくのも摂理なのかなと…それに…正じk…』
あれ?
「充電の時間よ」
突然音が途切れたかと思ったら、お母さんから夜ご飯に呼ばれた。僕は鼓膜の細胞情報を古代図鑑にダウンロードして、充電しに向かった。
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『僕は大人に嫌気が差していたんです』
充電している間、音声に耳を傾けていた。
『本当は子供の癖に大人なフリをして、自身を飾り立てるような大人にはなりたくなかったんです。でも社会はそれを求める。その頃でした。お試し人格機械化キャンペーンが始まったのは』
僕は、前にお父さんから聞いた話を思い出した。僕の祖先の中に、最後まで機械化に抗った人がいたらしい。でもそれは既に不名誉なことだったから、後になって近所の人達の記憶を部分的に削除したって。
『僕も始めこそ、周りの環境だけじゃなくて心までも機械化されることに反対していました。でも心の中は、そうじゃなかったんだなと。今は……満足してます。やっと、社会に求められる大人になれたのかなって』
彼のその言葉を最後に、音声は途切れた。
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