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窓越し恋愛譚

#11

本心

[右寄せ]優視点[/右寄せ]

[水平線]

「……お疲れ様でした、優先輩」

ペコリと小さく頭を下げて、季子ちゃんが音楽室を去っていく。

最近の彼女は、僕が話しかけても無理に作ったような笑顔を浮かべるだけで、すぐに目を逸らしてしまう。

ショッピングモールの一件以来、明らかに距離を置かれていた。

『季子、僕にとっての妹みたい。可愛いなあ』

以前、寮で言った自分の言葉が、今さら猛烈に悔やまれる。

あの言葉で傷つけ、彼女に遠慮をさせているのだろうか。

それにしても、僕を見る彼女の瞳の奥が、あまりにも切なく寂しげなのが気になって仕方がなかった。

翌日の昼休み、B棟の屋上から中庭を見下ろすと、季子ちゃんが同じ1年の男子生徒と親しげに話していた。

「あ、ありがとう! 次の移動教室、一緒に行こ」

楽しげな声が風に乗って聞こえてくる。男子生徒は嬉しそうに耳を赤くして、彼女に優しく笑いかけていた。

その光景を見た瞬間、胸の奥がキュッと締め付けられるように痛んだ。

僕の前ではあんなに元気がなくて、今にも泣きそうな顔を隠すように去っていくくせに。

どうして僕にはあんな風に笑ってくれないんだろう。

いや、僕があの子から、あの眩しい笑顔を奪ってしまったんだ。

胸に広がるもやもやとした焦燥感に戸惑っていると、隣で弁当を食べていた類斗が、呆れたように僕の視線を追った。

「トロンボーンの後輩ちゃん、次の恋に進めたんだろ。お前が『興味ない』って言ってたんだから、良かったじゃん」

「……そんなんじゃない。ただ、あの子が遠くに行っちゃいそうな気がして……」

一気に元気がなくなった僕を、類斗はすべてを見透かしたような目でじっと見つめ、ふっと笑った。

「じゃあ聞くけど、もしあの子が本当に他の誰かを好きになって、二度とお前にあの笑顔を向けなくなったらどうする?」

ドクン、と心臓が大きく跳ねた。

あの子が、僕じゃない誰かと付き合う?

僕の知らないところで支え合って、部活が終われば僕ではなく、その誰かの元へ嬉しそうに駆けていく――?

「……嫌だ。そんなの、寂しすぎる」

喉の奥から絞り出すような声が出た。


あの子の隣で、あの子を一番近くで支える存在でありたかった。
類斗は僕の肩をポンと叩いた。

「だろ。それ、妹を心配する兄貴の気持ちじゃないよ。ただの恋だよ、優。お前、あの子のこと、めちゃくちゃ好きじゃんか」

その一言が、僕の胸に真っ直ぐに突き刺さった。

「僕が、季子ちゃんを……?」

美咲との一件で周りを巻き込んで傷つくのが怖くて。

僕は彼女の真っ直ぐな視線から、ただ「先輩」という安全な枠に逃げていただけだ。

あの時、美咲の話をした僕に、少し歪んだ笑顔で『まだ諦められてないんじゃないですか?』と言った彼女。

あの子は、僕のことが好きだったんだ。

それなのに僕は「妹みたい」なんて言葉で、彼女の優しさと勇気を踏みにじってしまった。

「……類斗、僕、本当に馬鹿だ」

「知ってる。今すぐ行って、その本当の気持ち、あの子に伝えてこいよ」

僕は弁当箱を掴むと、彼女のいる中庭へと走り出していた。

階段を駆け降りる心臓が、痛いくらいに脈打っている。

どこにでもいる、平凡な中学1年生。そんなあの子に、僕はとっくに恋に落ちていたんだ。

あの窓際の席から始まった恋の引力に、逆らうことなんて最初からできもしなかった。

もうあの子に悲しい思いはさせない。今度は僕が、あの子の手を真っ直ぐに繋ぎ止める番だ。

僕は彼女の冷え切ってしまった心をもう一度温めるために、ただひたすらに、走り続けた。

作者メッセージ

次回!領域展開!

2026/06/18 20:06

笹芽
ID:≫ 2eRGY3oC1RxsM
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学園恋愛切ない恋恋愛小説

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