[太字]今回は長編です[/太字]
[水平線]
「諦める」
その言葉を口にした瞬間、喉の奥がヒリついた。自分でも驚くほど、枯れた響きがした。
「そっか……うん、そうだよね」
弥生はそれ以上、何も言わなかった。
ただ私の背中を優しく、少し力強くさすってくれた。
……その手の温かさが、かえって痛かった。
[水平線]
私たちは再び、優先輩と美咲先輩が待つ場所へと戻った。
二人は楽しそうに何かを話している。
優先輩が少し身を乗り出して笑い、美咲先輩がそれをたしなめるように笑い返す。
その絵面があまりにも完璧で、美しくて、私は一歩も踏み出せなくなった。
「あ、二人とも!戻ったんだね。何にする?アイス食べに行こうよ」
優先輩がこちらに気づいて、屈託のない笑顔で手招きした。
その無防備な優しさが、今の私には一番の刃物だ。
「うん、行こう!」
私は笑ってみせた。多分…いや、すっごく下手だった。
[水平線]
アイスを買って、私たちはフードコートへ移動した。
優先輩と美咲先輩が横並びで座り、私と弥生がその対面に座る。
「……トロンボーン、最近どう?季子ちゃん」
優先輩が不意に私に話を振った。心臓が跳ねる。
「あ、はい……順調です」
「そうか。今度さ、二人で合わせようよ。僕の曲の練習にも付き合ってほしいな」
「えっ……はい!もちろんです!」
一瞬、舞い上がった。二人きりの時間。
そう思うだけで、心の奥底で沈殿していたはずの「諦める」という決意が、跡形もなく揺らいでいく。
でも、直後に視界の端で美咲先輩が少しだけ寂しそうな、それでいて納得したような表情を見せたのが分かった。
ああ、この人はまだ優先輩のことが好きだ。優先輩も、それを知っている。
それなのに、私を誘うのはなぜだろう。後輩として可愛いから?それとも、ただの気遣い?
その夜、寮の自分の部屋に戻ってから、私は泥のように眠りについた。
[水平線]
[水平線]
夢の中で、私は優先輩のトロンボーンを吹いている。
けれど、音が全く出ない。
どれだけ息を吸っても、どんなに力を込めても、音は空気に溶けて消えてしまう。
焦り、疎外感、恐ろしさ、妬ましさ。ごちゃ混ぜになった心。
トロンボーンが、手から滑り落ちた。
[水平線]
翌朝、目が覚めると窓の外はどんよりとした曇り空だった。
風が吹いて、窓ガラスがガタガタと音を立てる。
私は制服の襟元を整えながら、鏡の中の自分を見た。
どこにでもいる、平凡な中学1年生。
特別な才能があるわけでも、美咲先輩のような洗練された美しさがあるわけでもない。
「諦める……なんて、嘘つきだな」
独り言が、冷たい部屋に落ちた。
優先輩のあの笑顔を思い出すたびに、胸の奥がキュッと締め付けられた。
[水平線]
部活の時間、音楽室に向かう廊下で、またあの窓際の席を通った。
向かい側の校舎の窓。
そこから、優先輩がふと私に気づいて手を振ってくれた。
私は、笑顔を作れなかった。
ただ、大きく息を吸い込んで、小さく頭を下げる。
本当は、叫び出したいほど追いかけていたい。
「美咲じゃなくて、私を見て」と、誰にも言えない言葉を飲み込んだ。
私はまた、あの切ない恋を、冷たい心の中に閉じ込めた。
この先、何回季節が巡っても、きっとこの風の匂いと、優先輩の透き通った声だけは、一生忘れない。
そう確信しながら、私は重いドアを開けた。
「……おはようございます、優先輩」
精一杯の笑顔で、私はまた、届かない距離に一歩、足を踏み入れた。
[水平線]
「諦める」
その言葉を口にした瞬間、喉の奥がヒリついた。自分でも驚くほど、枯れた響きがした。
「そっか……うん、そうだよね」
弥生はそれ以上、何も言わなかった。
ただ私の背中を優しく、少し力強くさすってくれた。
……その手の温かさが、かえって痛かった。
[水平線]
私たちは再び、優先輩と美咲先輩が待つ場所へと戻った。
二人は楽しそうに何かを話している。
優先輩が少し身を乗り出して笑い、美咲先輩がそれをたしなめるように笑い返す。
その絵面があまりにも完璧で、美しくて、私は一歩も踏み出せなくなった。
「あ、二人とも!戻ったんだね。何にする?アイス食べに行こうよ」
優先輩がこちらに気づいて、屈託のない笑顔で手招きした。
その無防備な優しさが、今の私には一番の刃物だ。
「うん、行こう!」
私は笑ってみせた。多分…いや、すっごく下手だった。
[水平線]
アイスを買って、私たちはフードコートへ移動した。
優先輩と美咲先輩が横並びで座り、私と弥生がその対面に座る。
「……トロンボーン、最近どう?季子ちゃん」
優先輩が不意に私に話を振った。心臓が跳ねる。
「あ、はい……順調です」
「そうか。今度さ、二人で合わせようよ。僕の曲の練習にも付き合ってほしいな」
「えっ……はい!もちろんです!」
一瞬、舞い上がった。二人きりの時間。
そう思うだけで、心の奥底で沈殿していたはずの「諦める」という決意が、跡形もなく揺らいでいく。
でも、直後に視界の端で美咲先輩が少しだけ寂しそうな、それでいて納得したような表情を見せたのが分かった。
ああ、この人はまだ優先輩のことが好きだ。優先輩も、それを知っている。
それなのに、私を誘うのはなぜだろう。後輩として可愛いから?それとも、ただの気遣い?
その夜、寮の自分の部屋に戻ってから、私は泥のように眠りについた。
[水平線]
[水平線]
夢の中で、私は優先輩のトロンボーンを吹いている。
けれど、音が全く出ない。
どれだけ息を吸っても、どんなに力を込めても、音は空気に溶けて消えてしまう。
焦り、疎外感、恐ろしさ、妬ましさ。ごちゃ混ぜになった心。
トロンボーンが、手から滑り落ちた。
[水平線]
翌朝、目が覚めると窓の外はどんよりとした曇り空だった。
風が吹いて、窓ガラスがガタガタと音を立てる。
私は制服の襟元を整えながら、鏡の中の自分を見た。
どこにでもいる、平凡な中学1年生。
特別な才能があるわけでも、美咲先輩のような洗練された美しさがあるわけでもない。
「諦める……なんて、嘘つきだな」
独り言が、冷たい部屋に落ちた。
優先輩のあの笑顔を思い出すたびに、胸の奥がキュッと締め付けられた。
[水平線]
部活の時間、音楽室に向かう廊下で、またあの窓際の席を通った。
向かい側の校舎の窓。
そこから、優先輩がふと私に気づいて手を振ってくれた。
私は、笑顔を作れなかった。
ただ、大きく息を吸い込んで、小さく頭を下げる。
本当は、叫び出したいほど追いかけていたい。
「美咲じゃなくて、私を見て」と、誰にも言えない言葉を飲み込んだ。
私はまた、あの切ない恋を、冷たい心の中に閉じ込めた。
この先、何回季節が巡っても、きっとこの風の匂いと、優先輩の透き通った声だけは、一生忘れない。
そう確信しながら、私は重いドアを開けた。
「……おはようございます、優先輩」
精一杯の笑顔で、私はまた、届かない距離に一歩、足を踏み入れた。