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貴志柚夏:没コレクション

#3

白紙の記憶

「ふあー」と大きなあくびをする。
時計を見ると七時を回っていた。「あれ⁉︎ アラーム六時半にセットしておいたのに⁉︎」
ベッドから降り、制服に着替え、パンを咥えて「行ってきます!」と家を飛び出した。
私は[漢字]西依ゆか[/漢字][ふりがな]にしよりゆか[/ふりがな]だ。[漢字]神本[/漢字][ふりがな]かみもと[/ふりがな]中学校の三年生だ。
「やばい。どうしよう!」
まだパンを食べているので周りの人から見ればパンを咥えてもごもご何かを喋って急いでいる変な学生だと思われているだろう。
パンを食べ終わった。
「ごちそうさまでしたっ!」としっかり手を合わせて言った。勿論走りながら。
すると、ぶうーんという不快な音が背後から聞こえた。
「え⁉︎」と驚き、振り返ると蜂らしき虫がいて、追いかけてきた。
「うわああああっっっっ!」
私は石につまづき、勢いよく転んだ。

「あれ? 痛くない……」
ごつごつのコンクリートの上で転んだのに。そう思い、下を見た。
ごつごつとしていない。つるつるした灰色の床が広がっていた。しかも妙に騒がしい。
「ここはどこ?」と顔を上げると、たくさん人がいた。彼らは私の事を見ていた。多分学校なのだろう。
だが、私は知らなかった。制服も違う。私の学校よりも可愛い憧れの制服でもあり、見覚えある制服でもあった。
すると、「大丈夫?」と男の人私に近づき、言ってくれた。
「あ、えっと、大丈夫です」
「良かった」と彼は微笑んだ。
 あの笑い方と顔、見覚えあるな、私はそう思った。
だが、誰だか分からない。どんな人で、どんな関係だった事も分からない。唯一分かる事は“大切な人”ということだけだ。
 すると、先生が駆け「西依ゆかさんですか? 職員室に来てください」と呼び出しをくらった。
少しどきどきした。廊下で寝転んでしかも違う制服で……。だから何か言われそうで怖かった。
 結果、転校関係だった。私は転校生なんだな、と感じた。
先生がOKサインを出し、私は教室の中に入った。
「西依ゆかです。よろしくお願いします」そう私は言った。私は一人の男の子に目が行った。
こちらを見ているが、私には遠くを見ているような目に見えた。
あの人って……。私を心配してくれた人ではないか。
「じゃあ、[漢字]早乙女[/漢字][ふりがな]そうとめ[/ふりがな]の隣へ」先生が言った。
「えーっと、早乙女くんは?」
名前が呼ばれたのに気付き「あ、はいっ」と手を挙げた。
確かにさっき助けてくれた人だ。
「よろしく」
 休み時間、クラスメイトが私の席に集まってきた。
「家はどこ?」「家族構成は?」と聞かれた瞬間、私の時間が止まった。
どう答えればいいのだろう。私には家はない。家族もいない。別の世界から来たから。
「えっと、ごめん。答えられない」
私は思い切って言ったが、心配だった。
「へえー」と感情がこもっていない風に言われそうで。後々悪口言われそうで。
だけど周りの人は優しかった。「そっか、聞きづらい事を聞いてごめんね!」と。

 私には家がない。どうしようかと悩んでいると、ぴこーんとひらめいた。
ホテルで泊まれば大丈夫じゃない? と。
私はホテルに向かおうとした。
すると、肩をぐいっと掴まれた。振り返ると早乙女くんがいた。
「帰ろう」
え? 何で……? よく分からない。
「住むんだよ。俺の家に」
ええーっ⁉︎
急すぎる。まだ会って一日も経っていない。初対面の人の家に住むことになるということか。
「め、迷惑かけない?」と私は恐る恐る訊いた。
「大丈夫。家の人にも連絡済みだから」
準備が早いっっ!
「えーっと、その、ありがとう」

「ただいまー」と元気に早乙女くんが言った。
なんか聞き覚えのある声だった。
「おじゃまします」
「あなたが西依ゆかさん? よろしくね」
「あ、はい。よろしくお願いします」
「あの、私ってどこで寝ればいいんですか?」
家は意外と大きかった。だから一部屋ぐらいは余っているだろう、と思った。
「えーっと、部屋余ってないんだよね。だから[漢字]陽[/漢字][ふりがな]ひかる[/ふりがな]と同じ部屋でもいい?」
え……。
私は止まった。体も、頭も。
隣に布団を敷いて……。私の想像だが。
「それって……」
早乙女くんの母が「そう。陽の隣に布団を敷いて寝るってこと」と私が考えていた事が分かったかのように言った。
「はい」と私はただそれだけしか言えなかった。

 寝る時間になった。
早乙女くんと私は無言で階段を登った。
「ここ」と早乙女くんは自分の部屋のドアを開けた。
少し広めの部屋だった。
丁寧に布団が敷かれていた。
よし、これですぐに寝れる。早乙女くんと会話しないで。
「おやすみ」と私は一言言い、まぶたを閉じた。まぶたを閉じただけなので、寝ていない。つまり、早乙女くんが何をしているかが分かる。
──あ、今電気を消した。
早乙女くんは布団に入った。
「寝たのか」
早乙女くんの声が微かに聞こえ「僕らのエンドロールはまだ先」と続けて言った……気がした。
もしもその言葉を本当に言っていたら、なぜ知っているのだろうと思う。
「僕らのエンドロールはまだ先」は早乙女くん本人が出ているアニメだから。
……あれ? でも何で私も知っているのだろう。
今まで思い出せなかった。見覚えある人で止まっていたのに。
──記憶が蘇ってくる。
そうだ。早乙女くんは私の……
思い出せそうだったが、思い出せなかった。何回も考えたが結果は同じく思い出せない。
だけど、大切な人なのは知ってる。
 長い夜が明け、朝になった。
雀の元気がいい鳴き声で私は目が覚めた。
「おはよう」と早乙女くんが私の顔を覗く。
私は驚き、勢いよく起き上がった。
その拍子でごちん、と頭がぶつかった。
「いてて。あ、ごめん!」
「大丈夫。俺が悪いから」
 一日がスタートする。
今日は曇一つ無い快晴。気温も丁度よく過ごしやすい。桜が満開だ。
登下校は早乙女くんと一緒だが、無言でとても気まずい。
「えっと。桜、綺麗だね」
話の話題が思いつかない。
「そうだな」
会話が終わった。それから一言も喋らなかった。
「僕らのエンドロールはまだ先」と私は誰にともなく呟いた。
早乙女くんは私の顔をじーっと見つめた。
「え?」私も早乙女くんの顔を見つめた。
「僕らのエンドロールはまだ先って……」
早乙女くんも知っているのか。その物語──アニメは早乙女くんが主人公だ。
自分がそのアニメの主人公だと分かっているのだろうか。
「知ってるの? それ、私が好きなアニメなんだ」
「まあ」と早乙女くんはそれだけしか言わなかった。
自分がそのアニメの主人公だと分かっていることは「まあ」という一言では分からなかった。

作者メッセージ

なんだこれ?

2026/02/28 14:55

貴志柚夏
ID:≫ 14ODATaJ5tCFM
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