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オタクは今日も恋をする

#42

まほうの言葉

「……いらっしゃいませ……」
私はだるげに挨拶をした。
やる気はゼロ。理由は簡単で、この衣装が、私には似合わなすぎるのだ。
 一軍女子──かわいい人が着るメイド服。さらにふわふわの猫耳。
こんなの、私が着たらブーイングの嵐を浴びせられるだろう。
 そんな私の様子を察したのか、すぐ隣に立っていた慎二くんが、「頑張れ、結月」とそっと囁いた。
平凡な一言で、私の人生が変わった。まるで、私の世界に色が加えられたようだった。[右寄せ][/右寄せ]
「いらっしゃいませー!」
「慎二くんパワー、恐るべし」と由依ちゃんが呟いた。
 そのとき、来店した女子二人組の一人が、私たちを見てひそひそと話しているのが聞こえた。
「あの子、可愛くない?」
そう言われると照れる。いや、初めて言われた。
……いや、違う。きっと別の子の事を言っているんだ。
すると、もう一人が「その子の隣にいる男の子もかっこよくない? カップルかな?」
私の隣には慎二くんがいる。はい、カップルです。
「それな!」
「ここにしよう!」
 女子二人は笑いながら私たちの方にやって来た。
「折角だからあの二人にオーダーしようよ」
「そうしよ!」
 心の中で思わずガッツポーズを決めた。
「えーっと、コーヒーを二つでお願いします!」
私は慌てて接客モードに戻る。
「アイスですか? ホットですか?」
「ホットで!」
小声で「かわいすぎ……」とつぶやく声が聞こえた。聞かなかったふりをして、内心にやける。
「以上でよろしいでしょうか?」
慎二くんが静かに、でも丁寧に言葉を続ける。
「大丈夫です! お二人ともとても似合ってますよ! もっと自信持ってね!」
その言葉に、胸がじんわりと温かくなる。
「ありがとうございます!」
私と慎二くんは、ぴったり揃えて頭を下げた。
 ドアの前に立っていた莉音は、じっとその様子を見つめていた。
「……許せない。あの女……」
その小さな声は誰にも届かず、しゃぼん玉のように消えていった。

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「……いらっしゃいませ……」
結月ちゃんはやる気がなさそうに言った。
結月ちゃんがやる気がないと分かったのか慎二くんは聞こえなかったが、何か囁いていた。
「いらっしゃいませー!」
結月ちゃんは顔を赤らめて言った。きっと慎二くんが「好き」とか言ったんだろう。
すると通りかかった女子二人組が「あの子、可愛くない?」言ってきた。
また結月ちゃんが照れてる。結月ちゃんに向かって言ってないのに。絶対私でしょ! だって私の方がかわいいんだもの!
そう思って私はその人達に向かってにっこりと笑った。
「その子の隣にいる男の子もかっこよくない? カップルかな?」
私はすぐに察した。
結月ちゃんの隣には慎二くんがいる。
それは私の事を褒めているのではなく、結月ちゃんを褒めていると分かった。
「それな!」
「ここ行こう!」
私が最初に接客する!
私は心の中で決めて、二人組に近寄ったその時、「折角だからあの二人にオーダーしようよ」と周りに聞こえるような声でその人達は言った。
はぁ。と心の中でため息を吐く。
結月ちゃんと慎二くんは二人を連れて中に入った。
「えーっと、コーヒーを二つでお願いします!」
「アイスですか? ホットですか?」
「ホットで!」
そう一人が言った後、ぼそっと「かわいすぎ」と呟いていたのが分かった。
「以上でよろしいでしょうか?」
「大丈夫です!」
緊張していた結月ちゃんと慎二くんを見て「二人とも似合ってますよ! もっと自信持って!」ともう一人が言った。

私は? 私の方がもっと上なのに。なんでみんな気付かないのかな?
「ありがとうございます!」
結月ちゃんと慎二くんは破顔一笑した。
本当に許せない。私より恵まれて。
結月ちゃんは彼氏いるし、“かわいい”って褒められたり。
何で私は無視なわけ⁉︎
あんなぶりっ子が何で恵まれるわけ!
「許せない……あの女……!」
顔をしかめながら私は言った。
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「いらっしゃいませ! こちらはどうでしょうか? オススメですよ!」
莉音は歩いていた人に声をかけた。
その人は用事があるかのように「いや、大丈夫です」と言った。
「ちょっと暇でぇ。数分でもいいので来てくれませんかぁー?」
莉音はその人の手を引っ張って言った。
私は腹が立ってきた。
「莉音ちゃん! この人、困ってるじゃん! 強引すぎない?」
「私が一番だもの!」
訳の分からない事を言い出した。
「今のうちに!」
ぼそっと私は言った。
「ありがとうございます!」
彼も同じボリュームで言った。
「あれは強引だよ。やめたほうがいいよ」
私は注意したが、莉音は「もういい!」とそっぽを向いて歩いて行った。

「いらっしゃいませ! こちらはどうでしょうか? オススメですよ!」
歩いていた人に声をかけ、ポーズを取った。
だって“かわいい”って言われたいんだもの。
「いや、大丈夫です」
「ちょっと暇でぇ。数分でもいいので来てくれませんかぁー?」
視線を感じる。
すると、「莉音ちゃん! この人、困ってるじゃん! 強引すぎない?」と私が一番嫌いな奴、結月ちゃんが来た。
アイツさえいなければ、上手く行ってたのに。
アイツが邪魔。
「私が一番だもの!」
自分でも何を言っているのか分からなくなってきた。
私と結月ちゃんが揉めていると、その人はどこかへ走って行った。
「あれは強引だよ。やめたほうがいいよ」
強引なことはしていない。さっきのは違うんだよ。可愛いポーズをしながら話してたんだよ!
この学校の中で一番かわいい人になりたいの。何故あんな奴がモテるの?
私は腹が立った。
「もういい!」
私はそっぽを向き、歩いて行った。
[中央寄せ]*[/中央寄せ]
「[漢字]慎二と結月さん[/漢字][ふりがな]二人[/ふりがな]、働きすぎじゃない? 少し休んできたら?」
「先生に言っとくから」
と休憩中の光くんと淳司くん声をかけてくれた。
「ありがとう」
そんな会話をしていると、「あの──」と後ろから知らない人の声が聞こえた。
「え?」
私は振り返った。そこには[漢字]さっきの人[/漢字][ふりがな]・・・・・[/ふりがな]がいた。
「僕、[漢字]林[/漢字][ふりがな]はやし[/ふりがな]と申します。」
「え、誰?」
慎二くんは唖然とした。
莉音の勧誘で困っていた人だ。
そう慎二くんに伝えると、苦々しく笑った。
「僕──」
林さんは私達と同じ一年生で、私達とは別の高校に通っている。友人と一緒にこの文化祭に来ていて、トイレに行こうとした時に莉音に出会ったらしい。
「そんなことが……」

[中央寄せ]*[/中央寄せ]
「トイレはこっちか」
僕は壁の矢印を早足で追った。
用事がある人には勧誘しないはずなのに、勧誘する人がいた。
「いらっしゃいませ! こちらはどうでしょうか? オススメですよー!」と声をかけられた。
ぶりっ子すぎるその声に、僕はうんざりした。
「いや、大丈夫です」と断っても「ちょっと暇でぇ。数分でもいいので来てくれませんかぁー?」と手を引っ張ってくる。
困っていると、「莉音ちゃん! この人、困ってるじゃん! 強引すぎない?」と、彼女の手を優しく引っ張って助けてくれた。
「私が一番だもの!」
突然、意味の分からないことを口にするこの人に戸惑う。
「今のうちに!」と小声で言われたので、「ありがとうございます!」と一礼して僕はその場を走って離れた。

 歩いていると、前に助けてもらった人がいた。その隣には男の子がいた。
「あの──」
勇気を出して言った。
僕は人と接するのがあまり得意ではないからだ。
「え?」
彼女は振り返る。その拍子に、長い髪がふわりと弧を描いて舞った。
人違い? ──いや、あの人だ。
「僕、林と申します」
「え、誰?」
僕が名乗ると、隣にいた男子が怪訝な顔で「え、誰?」と尋ねた。
彼女が彼にさっきまでの出来事を説明すると、彼は少し笑った。だけど、嫌な顔をして。
「僕──」
莉音という奴に絡まれた経緯を話した。
「そんなことが……」
彼の返事に僕は心の中で「うん、ってか君は誰?」と思った。
「あ、自己紹介が遅れました。私、田中結月と言います。一年生です」
「作山慎二です。同じく一年生です」
「[漢字]林 陽介[/漢字][ふりがな]はやし ようすけ[/ふりがな]。あ、同級生だからタメ口で大丈夫」
「分かった。」
「二人はどんな関係なの?」と僕は勢いで聞いてしまった。
田中さんは戸惑った顔をした。その表情を見て、僕は聞いてはいけないことを聞いたと後悔し、「あ、なんかごめん……」と謝った。だけど、彼女はにこりと笑いながら「大丈夫だよ」と言った。
しかし、作山くんは堂々と「彼女」と答えた。
「……え⁉︎」
田中さんは「バレちゃったか……」というような顔をで、「一年ぐらい?」と言った。
「そうだな」と作山くんも深く頷いた。

作者メッセージ

遅くなってすみません。

林 陽介(はやし ようすけ)
学校 青嵐高等学校一年
部活 写真部
趣味 写真撮影、読書

モブ設定だけどワンチャンまた出てくるかも

2025/08/16 09:40

貴志柚夏
ID:≫ 14ODATaJ5tCFM
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