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君の名前を呼ぶまで

#36

第36話 近づくたびに

恋人になって三日目。
まだその言葉に慣れなくて、胸の奥がずっとくすぐったい。

――恋人。

その響きだけで、世界が少し優しく見える。

教室に入ると、蒼真はいつもの席にいた。
でも、今日は本を開いてすらいなかった。

「……おはよう」

声をかけると、蒼真はゆっくり顔を上げた。

「……おはよう、結衣」

名前を呼ばれるだけで、胸が跳ねる。
昨日よりも近い声。
昨日よりも優しい響き。

席に戻ろうとしたとき、蒼真がぽつりと言った。

「今日……帰り、少しだけ歩きたい」

胸が跳ねた。

「うん、歩こ」

蒼真は小さくうなずき、視線をそらした。
耳がほんのり赤い。

放課後。
校門を出ると、蒼真が待っていた。

昨日と同じ場所。
でも、昨日よりも少しだけ近い距離。

「……行こ」

その声は静かで、どこか照れが混ざっていた。

二人で歩く帰り道。
恋人になってから、歩幅が自然と揃うようになった。

沈黙が続いても、不思議と苦しくない。
むしろ、沈黙の中に“恋人らしさ”がある気がした。

夕陽が沈みかけ、街がオレンジ色に染まる。

蒼真がふと立ち止まった。

「……結衣」

名前を呼ばれた瞬間、心臓が跳ねる。

「なに?」

蒼真は、迷うように指先を震わせながら言った。

「今日も……手、つないでいい?」

胸がぎゅっとなる。

「もちろん」

差し出した手を、蒼真はゆっくりと包んだ。
昨日よりも自然に。
昨日よりも強く。

指が絡む。
温度が伝わる。
胸が熱くなる。

しばらく歩いたあと、蒼真がぽつりと言った。

「結衣と手つなぐと……落ち着く」

「私も……だよ」

言うと、蒼真は少しだけ照れたように笑った。

「近づくたびに……胸があたたかくなる」

その言葉に、胸がじんわりと熱くなる。

「私も……蒼真くんといると、あったかいよ」

夕陽の中で、
二人は恋人としての“いつもの帰り道”を歩いた。

昨日よりも近くて、
でもまだ少しぎこちなくて、
それでも確かに前へ進んでいる。
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2026/03/14 17:55

おひめ
ID:≫ 19ZQABSFMiPlU
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