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君の名前を呼ぶまで

#31

第31話 名前を呼ぶ距離

蒼真と手をつないで歩いた翌日。
その温度が、まだ手のひらに残っている気がした。

――離したくない。

昨日の蒼真の言葉が、胸の奥で何度も反響していた。

教室に入ると、蒼真はいつもの席にいた。
でも、今日は本を開いてすらいなかった。

「……おはよう」

声をかけると、蒼真はゆっくり顔を上げた。

「……おはよう」

その声は小さいのに、昨日よりもずっと柔らかい。
胸がふわりと温かくなる。

席に戻ろうとしたとき、蒼真がぽつりと言った。

「今日……帰り、また歩きたい」

胸が跳ねた。

「うん、いいよ」

蒼真は小さくうなずき、視線をそらした。
耳がほんのり赤い。

放課後。
校門を出ると、蒼真が待っていた。

「……行こ」

その声は静かで、どこか照れが混ざっていた。

二人で歩く帰り道。
昨日よりもさらにゆっくりした歩幅。
沈黙が続いても、不思議と苦しくない。

夕陽が沈みかけ、街がオレンジ色に染まる。

蒼真がふと立ち止まった。

「……結衣」

名前を呼ばれた瞬間、心臓が跳ねる。
でも、今日はその声がいつもより近く感じた。

「なに?」

蒼真は、迷うように指先を震わせながら言った。

「今日も……手、つないでいい?」

胸がぎゅっとなる。

「もちろん」

差し出した手を、蒼真はゆっくりと包んだ。
昨日よりも自然に。
昨日よりも強く。

指が絡む。
温度が伝わる。
胸が熱くなる。

しばらく歩いたあと、蒼真がぽつりと言った。

「結衣の名前……呼ぶと落ち着く」

「……ほんと?」

「うん。
 前は、呼ぶのもこわかったのに……今は、呼びたいって思う」

胸がじんわりと熱くなる。

「じゃあ……呼んでみて」

蒼真は少しだけ息を吸い、
そして、ゆっくりと言った。

「……結衣」

その声は、今までで一番近かった。

夕陽が二人の影を長く伸ばす。
風が吹いて、蒼真の前髪が揺れる。

「結衣といると……“好き”って言葉が、こわくなくなる」

その一言で、息が止まった。

触れた手より、
名前を呼ぶ声のほうが近い。

その距離の中で、
二人の心はまたひとつ、確かに近づいた。
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2026/03/14 17:56

おひめ
ID:≫ 19ZQABSFMiPlU
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