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君の名前を呼ぶまで

#27

第27話 理由なんていらない

蒼真が、昨日より長く、確かに私の手に触れた翌日。
その温度が、まだ指先に残っている気がした。

――好きだと思う。

その言葉が、胸の奥で何度も反響していた。

教室に入ると、蒼真はいつもの席にいた。
でも、今日は本を開いてすらいなかった。

「……おはよう」

声をかけると、蒼真はゆっくり顔を上げた。

「……おはよう」

その声は小さいのに、昨日よりもずっと柔らかい。
胸がふわりと温かくなる。

席に戻ろうとしたとき、蒼真がぽつりと言った。

「今日……帰り、少し歩きたい」

胸が跳ねた。

「うん、いいよ」

蒼真は小さくうなずき、視線をそらした。
耳がほんのり赤い。

放課後。
校門を出ると、蒼真が待っていた。

「……行こ」

その声は静かで、どこか照れが混ざっていた。

二人で歩く帰り道。
昨日よりもさらにゆっくりした歩幅。
沈黙が続いても、不思議と苦しくない。

夕陽が沈みかけ、街がオレンジ色に染まる。

蒼真がふと立ち止まった。

「……結衣」

名前を呼ばれた瞬間、心臓が跳ねる。

「なに?」

蒼真は、迷うように指先を震わせながら言った。

「昨日……手、触れたとき」

胸がぎゅっとなる。

「もっと触れたいって……思った」

その一言で、息が止まった。

夕陽が二人の影を長く伸ばす。
風が吹いて、蒼真の前髪が揺れる。

「……蒼真くん」

名前を呼ぶと、蒼真は少しだけ目をそらした。

「でも……こわい。
 触れたら、もう戻れなくなる気がして」

その声は震えていて、でも優しかった。

私はそっと言った。

「戻らなくていいよ」

蒼真は驚いたように顔を上げた。

「……結衣」

「私……蒼真くんと、もっと近くにいたいから」

胸が熱くなる。
涙が出そうなくらい嬉しくて、苦しくて。

蒼真はゆっくりと息を吸い、
そして、震える手をそっと伸ばした。

昨日よりも、ずっと迷いのない動きで。

「……手、つないでもいい?」

その問いは、告白よりもずっと真剣で、ずっと優しかった。

私は小さくうなずいた。

「うん」

蒼真は、ゆっくり、ゆっくりと手を重ねた。
今度は、離さなかった。

指先が絡む。
温度が伝わる。
胸が熱くなる。

「……あったかい」

蒼真が小さくつぶやいた。

「蒼真くんの手も……あったかいよ」

夕暮れの帰り道で、
二人は初めて、ちゃんと手をつないだ。

理由なんて、ひとつでよかった。

好きだから。
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2026/03/14 17:26

おひめ
ID:≫ 19ZQABSFMiPlU
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