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君の名前を呼ぶまで

#26

第26話 指先と気持ち

蒼真が「触れてもいい?」と言って、
震える指先で私の手に触れた翌日。

その一瞬の温度が、まだ指先に残っている気がした。
胸の奥がずっと熱くて、落ち着かない。

――好きになっていいよ。

昨日、自分が言った言葉が、何度も頭の中で反響していた。

教室に入ると、蒼真はいつもの席にいた。
でも、今日は本を開いてすらいなかった。

「……おはよう」

声をかけると、蒼真はゆっくり顔を上げた。

「……おはよう」

その声は小さいのに、昨日よりもずっと柔らかい。
胸がふわりと温かくなる。

席に戻ろうとしたとき、蒼真がぽつりと言った。

「今日……帰り、話したいことがある」

胸が跳ねた。

「うん、いいよ」

蒼真は小さくうなずき、視線をそらした。
耳がほんのり赤い。

放課後。
校門を出ると、蒼真が待っていた。

「……行こ」

その声は静かで、どこか決意が混ざっていた。

二人で歩く帰り道。
昨日よりもさらにゆっくりした歩幅。
沈黙が続いても、不思議と苦しくない。

夕陽が沈みかけ、街がオレンジ色に染まる。

蒼真がふと立ち止まった。

「……結衣」

名前を呼ばれた瞬間、心臓が跳ねる。

「なに?」

蒼真は少しだけ迷ったように指先を動かし、
そして、ぽつりと言った。

「昨日……触れたとき」

胸がぎゅっとなる。

「怖かったけど……すごく嬉しかった」

その一言で、息が止まった。

夕陽が二人の影を長く伸ばす。
風が吹いて、蒼真の前髪が揺れる。

「……蒼真くん」

名前を呼ぶと、蒼真は少しだけ目をそらした。

「結衣の手……あったかくて。
 離したくないって思った」

胸が熱くなる。
涙が出そうなくらい嬉しくて、苦しくて。

蒼真はゆっくりと息を吸い、
そして、静かに続けた。

「結衣のこと……好きだと思う。
 “こわい”より、“好き”のほうが……もう強い」

その言葉は、昨日までの迷いを越えた、
確かな気持ちだった。

私は息を呑んだ。
胸が熱くて、苦しくて、でも嬉しくて。

「……私も、蒼真くんのこと、好きだよ」

蒼真は驚いたように目を見開き、
そして、ゆっくりと笑った。

「……結衣」

その声は、今までで一番優しかった。

蒼真は、震える手をそっと伸ばした。
昨日よりも、ずっとゆっくり。
ずっと迷いのない動きで。

そして――
指先が、私の手に触れた。

昨日よりも長く。
昨日よりも確かに。

触れた指先より、
気持ちのほうがずっと近かった。
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2026/03/14 17:25

おひめ
ID:≫ 19ZQABSFMiPlU
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