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君の名前を呼ぶまで

#23

第23話 寄り添い方

蒼真が「もっと好きになる」と言った翌日。
胸の奥がずっと熱くて、落ち着かない。
昨日の言葉が、何度も何度も頭の中で反響していた。

――もっと好きになる。

その言葉だけで、世界が少し明るく見えた。

教室に入ると、蒼真はいつもの席にいた。
でも、今日は本を開いてすらいなかった。

「……おはよう」

声をかけると、蒼真はゆっくり顔を上げた。

「……おはよう」

その声は小さいのに、昨日よりもずっと優しい。
胸がふわりと温かくなる。

席に戻ろうとしたとき、蒼真がぽつりと言った。

「今日……帰り、少し寄り道したい」

胸が跳ねた。

「うん、いいよ」

蒼真は小さくうなずき、視線をそらした。
耳がほんのり赤い。

放課後。
校門を出ると、蒼真が待っていた。

「……行こ」

その声は静かで、どこか照れが混ざっていた。

二人で歩く帰り道。
昨日よりもさらにゆっくりした歩幅。
沈黙が続いても、不思議と苦しくない。

夕陽が沈みかけ、街がオレンジ色に染まる。

ふと、蒼真が立ち止まった。

「……結衣」

名前を呼ばれた瞬間、心臓が跳ねる。

「なに?」

蒼真は少しだけ迷ったように指先を動かし、
そして、ぽつりと言った。

「俺……結衣の隣にいると、落ち着く」

胸がぎゅっとなる。

「私も……だよ」

言うと、蒼真は驚いたように目を瞬き、
そして、ほんの少しだけ視線をそらした。

「……そっか」

風が吹いて、蒼真の前髪が揺れる。

「触れたいって思うのに……触れられないの、まだこわいけど」

その声は震えていて、でも優しかった。

「結衣の隣にいるだけで……十分あったかい」

その一言で、息が止まった。

触れていないのに、触れられたみたいに胸が熱くなる。

「……蒼真くん」

名前を呼ぶと、蒼真は少しだけ目をそらした。

「結衣の気持ち……ちゃんと受け取ってる。
 だから、焦らなくていい」

胸が熱くなる。
涙が出そうなくらい嬉しくて、苦しくて。

私はそっと言った。

「焦れてないよ。
 蒼真くんのペースで……一緒に進みたいだけ」

蒼真は驚いたように顔を上げ、
そして、ほんの少しだけ笑った。

「……結衣って、ほんとにずるい」

「またそれ?」

「そんなこと言われたら……もっと近づきたくなる」

夕陽が二人の影を長く伸ばす。

触れない距離のまま、
でも確かに寄り添っている。

その距離の中で、
二人の心はまたひとつ、確かに近づいた。
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2026/03/14 17:22

おひめ
ID:≫ 19ZQABSFMiPlU
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