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君の名前を呼ぶまで

#22

第22話 好きって怖い

蒼真が「好きかもしれない」と言った翌日。
胸の奥がずっと熱くて、落ち着かない。
昨日の言葉が、何度も何度も頭の中で反響していた。

――好き。

その一言が、こんなにも世界を変えるなんて思わなかった。

教室に入ると、蒼真はいつもの席にいた。
でも、今日は本を開いてすらいなかった。

「……おはよう」

声をかけると、蒼真はゆっくり顔を上げた。

「……おはよう」

その声は小さいのに、昨日よりもずっと優しい。
胸がふわりと温かくなる。

席に戻ろうとしたとき、蒼真がぽつりと言った。

「今日……帰り、少し歩きたい」

胸が跳ねた。

「うん、いいよ」

蒼真は小さくうなずき、視線をそらした。
耳がほんのり赤い。

放課後。
校門を出ると、蒼真が待っていた。

「……行こ」

その声は静かで、どこか照れが混ざっていた。

二人で歩く帰り道。
昨日よりもさらにゆっくりした歩幅。
沈黙が続いても、不思議と苦しくない。

夕陽が沈みかけ、街がオレンジ色に染まる。

ふと、蒼真が立ち止まった。

「……結衣」

名前を呼ばれた瞬間、心臓が跳ねる。

「なに?」

蒼真は少しだけ迷ったように指先を動かし、
そして、ぽつりと言った。

「昨日……“好きかもしれない”って言ったけど」

胸がぎゅっとなる。

「うん」

「“好き”って言い切るの……まだこわい」

その一言で、息が止まった。

夕陽が二人の影を長く伸ばす。
風が吹いて、蒼真の前髪が揺れる。

「……こわいって?」

「結衣のこと……大事すぎて。
 もし傷つけたらって思うと……言い切るのがこわい」

胸が痛くなる。
でも、その痛みは優しい。

「蒼真くん……」

名前を呼ぶと、蒼真は少しだけ目をそらした。

「でも……逃げたくない。
 結衣のこと、ちゃんと向き合いたい」

その声は震えていて、でも確かに前に進んでいた。

私はそっと言った。

「こわいままでいいよ。
 ゆっくりでいいから……一緒に進もう?」

蒼真は驚いたように顔を上げ、
そして、ほんの少しだけ笑った。

「……結衣って、ほんとにずるい」

「え、なんで」

「そんなこと言われたら……もっと好きになる」

胸が熱くなる。
涙が出そうなくらい嬉しくて、苦しくて。

触れない距離のまま、
二人の心はまたひとつ、確かに近づいた。
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2026/03/14 17:22

おひめ
ID:≫ 19ZQABSFMiPlU
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