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君の名前を呼ぶまで

#18

第18話 言葉と心

蒼真が「いつか触れたい」と言った翌日。
胸の奥がずっと温かくて、でもどこか落ち着かない。

――いつか。

その“いつか”が、こんなに嬉しいなんて知らなかった。

教室に入ると、蒼真はいつもの席にいた。
でも、今日は本を開いたまま、視線がページに落ちていない。

「……おはよう」

声をかけると、蒼真はゆっくり顔を上げた。

「……おはよう」

その声は小さいのに、昨日よりも柔らかい。
胸がふわりと温かくなる。

席に戻ろうとしたとき、蒼真がぽつりと言った。

「今日……帰り、話したいことがある」

胸が跳ねた。

「うん、いいよ」

蒼真は小さくうなずき、視線をそらした。
耳がほんのり赤い。

放課後。
校門を出ると、蒼真が待っていた。

「……行こ」

その声は静かで、どこか決意が混ざっていた。

二人で歩く帰り道。
いつもよりさらにゆっくりした歩幅。
沈黙が続いても、不思議と苦しくない。

夕陽が沈みかけ、街がオレンジ色に染まる。

ふと、蒼真が立ち止まった。

「……結衣」

名前を呼ばれた瞬間、心臓が跳ねる。

「なに?」

蒼真は少しだけ迷ったように指先を動かし、
そして、ぽつりと言った。

「俺……結衣のこと、考える時間が増えた」

胸がぎゅっとなる。

「私も……だよ」

言うと、蒼真は驚いたように目を瞬き、
そして、ほんの少しだけ視線をそらした。

「……そっか」

風が吹いて、蒼真の前髪が揺れる。

「結衣の声とか、名前とか……思い出すと、胸が変になる」

その一言で、息が止まった。

触れていないのに、触れられたみたいに胸が熱くなる。

「……蒼真くん」

名前を呼ぶと、蒼真は少しだけ目をそらした。

「結衣に触れたいって思うのに……触れられないの、悔しい」

その声は震えていて、どこか苦しそうだった。

「でも……逃げたくない」

夕陽が二人の影を長く伸ばす。

蒼真はゆっくりと息を吸い、
そして、静かに言った。

「結衣のこと……大事にしたい」

その一言で、世界がふわりと揺れた気がした。

胸の奥が熱くて、苦しくて、でも嬉しくて。

言葉より先に、心が動いてしまう。

「……私も、蒼真くんのこと、大事だよ」

蒼真は驚いたように顔を上げ、
そして、ほんの少しだけ笑った。

「……ありがとう」

夕暮れの帰り道で、
二人の心はまたひとつ、確かに近づいた。
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2026/03/14 17:19

おひめ
ID:≫ 19ZQABSFMiPlU
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