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君の名前を呼ぶまで

#17

第17話 近づくたびに

蒼真が「もっと知りたい」と言った翌日。
胸の奥がずっと温かくて、でもどこか落ち着かない。

――もっと知りたい。

その言葉が、何度も頭の中で反響していた。

教室に入ると、蒼真はいつもの席にいた。
でも、今日は本を開いたまま、視線がページに落ちていない。

「……おはよう」

声をかけると、蒼真はゆっくり顔を上げた。

「……おはよう」

その声は小さいのに、昨日よりも柔らかい。
胸がふわりと温かくなる。

席に戻ろうとしたとき、蒼真がぽつりと言った。

「今日……帰り、また遠回りしてもいい?」

胸が跳ねた。

「うん、いいよ」

蒼真は小さくうなずき、視線をそらした。
耳がほんのり赤い。

放課後。
校門を出ると、蒼真が待っていた。

「……行こ」

その声は静かで、どこか優しい。

二人で歩く帰り道。
昨日よりもさらに遠い道。
沈黙が続いても、不思議と苦しくない。

夕陽が沈みかけ、街がオレンジ色に染まる。

ふと、蒼真が立ち止まった。

「……結衣」

名前を呼ばれた瞬間、心臓が跳ねる。

「なに?」

蒼真は少しだけ迷ったように指先を動かし、
そして、ぽつりと言った。

「結衣のこと……もっと知りたいって言ったけど」

胸がぎゅっとなる。

「うん」

「知れば知るほど……近づきたくなる」

その一言で、息が止まった。

蒼真はゆっくりと視線を落とし、
そして、静かに続けた。

「でも……近づくと、怖くなる」

胸が痛くなる。
蒼真の“影”が、また少しだけ見えた気がした。

「蒼真くん……」

「結衣に触れたいって思うのに……触れられない」

その声は震えていて、どこか苦しそうだった。

「触れたら……壊れそうで」

その言葉に、胸が締めつけられる。

私はそっと言った。

「壊れないよ」

蒼真は驚いたように顔を上げた。

「……結衣」

「蒼真くんが触れても、壊れたりしない。
 むしろ……嬉しいよ」

夕陽が二人の影を長く伸ばす。

蒼真はしばらく黙っていた。
風が吹いて、前髪が揺れる。

そして、ゆっくりと手を伸ばした。

触れない距離で、空気を掴むように。

「……今はまだ無理だけど」

その声は弱くて、でも確かに前に進んでいた。

「いつか……触れたい」

胸が熱くなる。
涙が出そうなくらい嬉しくて、苦しくて。

「……うん。待ってる」

蒼真は小さくうなずき、
そして、ほんの少しだけ笑った。

「……ありがとう」

夕暮れの帰り道で、
二人の心はまたひとつ、確かに近づいた。
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2026/03/14 17:18

おひめ
ID:≫ 19ZQABSFMiPlU
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