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君の名前を呼ぶまで

#16

第16話 触れない距離のまま

蒼真が「名前を呼ぶのが好きかもしれない」と言った翌日。
胸の奥がずっと温かくて、でもどこか落ち着かない。

――好きかもしれない。

その言葉が、何度も頭の中で反響していた。

教室に入ると、蒼真はいつもの席にいた。
でも、今日は本を開いたまま、ページをめくっていない。

「……おはよう」

声をかけると、蒼真はゆっくり顔を上げた。

「……おはよう」

その声は小さいのに、昨日よりも柔らかい。
胸がふわりと温かくなる。

席に戻ろうとしたとき、蒼真がぽつりと言った。

「今日……帰り、少し遠回りしてもいい?」

胸が跳ねた。

「うん、いいよ」

蒼真は小さくうなずき、視線をそらした。
耳がほんのり赤い。

放課後。
校門を出ると、蒼真が待っていた。

「……行こ」

その声は静かで、どこか優しい。

二人で歩く帰り道。
いつもより少しだけ遠い道。
沈黙が続いても、不思議と苦しくない。

夕陽が沈みかけ、街がオレンジ色に染まる。

ふと、蒼真が立ち止まった。

「……結衣」

名前を呼ばれた瞬間、心臓が跳ねる。

「なに?」

蒼真は少しだけ迷ったように指先を動かし、
そして、ぽつりと言った。

「昨日……名前呼んだの、なんか……忘れられなかった」

胸がぎゅっとなる。

「私も……だよ」

言うと、蒼真は驚いたように目を瞬き、
そして、ほんの少しだけ視線をそらした。

「……そっか」

風が吹いて、蒼真の前髪が揺れる。

「結衣の名前……呼ぶと、落ち着く」

その一言で、息が止まった。

触れていないのに、触れられたみたいに胸が熱くなる。

「……蒼真くん」

名前を呼ぶと、蒼真は少しだけ目をそらした。

「……結衣の声、近いと……また胸がうるさい」

「それ……私もだよ」

蒼真は驚いたように顔を上げた。

「……ほんとに?」

「ほんと」

夕陽が二人の影を長く伸ばす。

触れそうで、触れない距離。
でも、確かに近づいている。

蒼真はゆっくりと息を吸い、
そして、静かに言った。

「……結衣のこと、もっと知りたい」

その一言で、世界がふわりと揺れた気がした。

胸の奥が熱くて、苦しくて、でも嬉しくて。

触れない距離のまま、
二人の心はまたひとつ、確かに近づいた。
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2026/03/14 17:17

おひめ
ID:≫ 19ZQABSFMiPlU
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