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君の名前を呼ぶまで

#15

第15話 名前を呼ぶ声

蒼真と歩いた帰り道の余韻が、翌朝になっても胸の奥に残っていた。
触れそうで触れない距離。
あの一瞬一瞬が、何度も頭の中でよみがえる。

教室に入ると、蒼真はいつもの席にいた。
でも、今日は本を開いたまま、視線がページに落ちていない。

「……おはよう」

声をかけると、蒼真はゆっくり顔を上げた。

「……おはよう」

その声は小さいのに、昨日よりも柔らかい。
胸がふわりと温かくなる。

席に戻ろうとしたとき、蒼真がぽつりと言った。

「今日……帰り、また少しだけ歩きたい」

胸が跳ねた。

「うん、いいよ」

蒼真は小さくうなずき、視線をそらした。
耳がほんのり赤い。

放課後。
校門を出ると、蒼真が待っていた。

「……行こ」

その声は静かで、どこか優しい。

二人で歩く帰り道。
沈黙が続いても、不思議と苦しくない。
むしろ、胸の音がうるさくて、沈黙のほうがありがたかった。

夕陽が沈みかけ、街がオレンジ色に染まる。

ふと、蒼真が立ち止まった。

「……結衣」

名前を呼ばれた瞬間、心臓が跳ねる。

「なに?」

蒼真は少しだけ迷ったように指先を動かし、
そして、ぽつりと言った。

「昨日……手のこと言ってたよな」

「え……?」

「触れられるの、まだ怖いけど……」

蒼真はゆっくりと私の方を向いた。

「結衣の手が近くにあると……なんか、落ち着く」

その一言で、息が止まった。

触れていないのに、触れられたみたいに胸が熱くなる。

「……蒼真くん」

名前を呼ぶと、蒼真は少しだけ目をそらした。

「……結衣の声、近いと……変になる」

「変って……?」

「胸が……うるさい」

その言葉に、胸がぎゅっとなる。

夕陽が二人の影を長く伸ばす。
風が吹いて、蒼真の前髪が揺れる。

「……結衣」

また名前を呼ばれる。
今度は、さっきよりも近い声で。

「俺……結衣の名前、呼ぶの好きかもしれない」

その一言で、世界がふわりと揺れた気がした。

胸の奥が熱くて、苦しくて、でも嬉しくて。

触れそうで、触れない。
でも、確かに近づいている。

夕暮れの帰り道で、
二人の心はまたひとつ、確かに近づいた。
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2026/03/14 17:16

おひめ
ID:≫ 19ZQABSFMiPlU
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