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君の名前を呼ぶまで

#14

第14話 触れそうで、触れない

蒼真が弱さを見せてくれた翌日。
胸の奥がずっと温かくて、でもどこか落ち着かない。

――結衣には、見せてもいい気がする。

その言葉が、何度も頭の中で反響していた。

教室に入ると、蒼真はいつもの席にいた。
けれど、今日は本を開いたまま、視線がページに落ちていない。

「……おはよう」

声をかけると、蒼真はゆっくり顔を上げた。

「……おはよう」

その声は小さいのに、昨日よりも柔らかい。

席に戻ろうとしたとき、蒼真がぽつりと言った。

「今日……帰り、少し歩きたい」

胸が跳ねた。

「うん、いいよ」

蒼真は小さくうなずき、視線をそらした。
耳がほんのり赤い。

放課後。
校門を出ると、蒼真が待っていた。

「……行こ」

その声は静かで、どこか優しい。

二人で歩く帰り道。
沈黙が続いても、不思議と苦しくない。
むしろ、胸の音がうるさくて、沈黙のほうがありがたかった。

「……結衣」

名前を呼ばれた瞬間、心臓が跳ねる。

「なに?」

蒼真は少しだけ迷ったように指先を動かし、
そして、ぽつりと言った。

「昨日……弱いところ見せたの、後悔してない」

「後悔なんてしてないよ」

即答すると、蒼真は驚いたように目を瞬き、
そして、ほんの少しだけ視線をそらした。

「……そっか」

夕陽が沈みかけ、街がオレンジ色に染まる。

ふと、蒼真の手が揺れた。
歩くたびに、私の手と触れそうで、触れない距離。

そのたびに、胸がぎゅっとなる。

「……蒼真くん」

「なに」

「手……」

言いかけて、言葉が喉で止まった。
“つなぎたい”なんて言えない。

蒼真は、そんな私の迷いを見透かしたように、
静かに言った。

「……触れられるの、まだ怖いけど」

風が吹いて、蒼真の前髪が揺れる。

「結衣の手なら……いつか、触れられる気がする」

その一言で、息が止まった。

触れていないのに、触れられたみたいに胸が熱くなる。

「……ゆっくりでいいよ」

私がそう言うと、蒼真は小さくうなずいた。

「……うん。ゆっくりで」

夕暮れの帰り道で、
二人の距離はまたひとつ、確かに近づいた。
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2026/03/14 17:16

おひめ
ID:≫ 19ZQABSFMiPlU
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