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君の名前を呼ぶまで

#5

第5話 触れられない理由

翌日。
教室に入ると、蒼真はいつも通り窓際に座っていた。
けれど、昨日名前を呼んでくれたせいか、彼の姿が少し違って見える。

胸の奥が、またざわついた。

「……おはよう、蒼真くん」

声をかけると、蒼真は本を閉じて、ゆっくり顔を上げた。

「……おはよう」

その声は小さいけれど、確かに私に向けられている。
それだけで、朝から心臓が忙しい。

席に戻ろうとしたとき、蒼真がぽつりと言った。

「昨日……その、呼んで悪かった」

「えっ、なんで?」

「……距離、近すぎたかと思って」

距離。
その言葉に、胸がきゅっとなる。

「近すぎて……嫌だった?」

思わず聞いてしまった。
蒼真は驚いたように目を見開き、すぐに視線をそらした。

「……嫌じゃない」

その小さな声が、やけに胸に響く。

放課後。
私は昨日と同じように校舎裏へ向かった。
理由なんてない。
ただ、行けば蒼真に会える気がした。

そして――本当に、彼はいた。

「……また来たの?」

「うん。蒼真くんも」

「……なんとなく」

また“なんとなく”。
でも、昨日よりも少しだけ素直に聞こえる。

沈黙が落ちる。
けれど、昨日よりも近い距離で立っていることに気づく。

「……距離のことだけど」

蒼真が、ぽつりと口を開いた。

「俺……人と近くなるの、苦手なんだ」

「うん」

「でも……結衣とは、なんか……」

言葉が途切れる。
続きが気になって、息を飲んだ。

「……離れたくないって思う時がある」

その一言で、胸が熱くなる。

「蒼真くん……」

「でも、近づきすぎると……怖い」

怖い。
その言葉の奥に、彼の影が見えた気がした。

私はそっと言った。

「じゃあ、ゆっくりでいいよ。蒼真くんのペースで」

蒼真は驚いたように私を見つめ、そして小さくうなずいた。

「……ありがとう」

その声は、昨日よりも少しだけ近かった。

次は 第5話 に進めるよ。
このまま、ゆっくり距離が縮まっていく甘くて切ない流れで続けるね。

うん
それじゃあ、続けて 第5話 を紡ぐね。
ここから少しずつ、蒼真の“影”が見え始める回にしてある。
甘さの中に、ほんの少し切なさを混ぜたよ。

🌙 第5話 「触れられない理由」
週の半ば。
春の風が少し冷たくて、校庭の桜はまだつぼみのまま揺れていた。

放課後、私は自然と校舎裏へ向かっていた。
理由なんていらない。
そこに行けば、蒼真に会える気がしたから。

そして――やっぱり、彼はいた。

「……また来たの?」

「うん。蒼真くんも」

「……なんとなく」

その“なんとなく”が、もう嘘じゃないことくらい分かっている。
昨日よりも、少しだけ近い距離に立っているのが嬉しかった。

「今日、なんかあった?」
私がそう聞くと、蒼真は少しだけ目を伏せた。

「……別に」

その言い方が、いつもより硬い。
胸がざわつく。

「蒼真くん、なんか元気ない」

「……そう見える?」

「うん」

しばらく沈黙が落ちた。
風が吹いて、蒼真の前髪が揺れる。

そして、ぽつり。

「……俺、誰かに触れられるの、苦手なんだ」

その言葉に、胸がきゅっとなる。

「触れられるのが……?」

「うん。理由は……言いたくない」

言いたくない。
その言葉の奥に、深い傷があるのが分かった。

私はそっと言った。

「言わなくていいよ。無理に聞かない」

蒼真は驚いたように顔を上げた。

「……聞かないの?」

「うん。蒼真くんが話したくなるまで、待つ」

風が止まった。
蒼真の瞳が、ほんの少し揺れた。

「……結衣って、変わってる」

「え、どこが?」

「……優しすぎる」

その声は小さくて、でも確かに震えていた。

私はそっと笑った。

「優しいのは、蒼真くんのほうだよ」

蒼真は視線をそらし、耳が赤くなる。

「……そんなことない」

でも、その否定は弱かった。

沈黙が落ちる。
けれど、昨日よりも今日の沈黙のほうが、ずっとあたたかい。

「……結衣」

名前を呼ばれた瞬間、胸が跳ねた。

「なに?」

「……触れられるのは苦手だけど」

蒼真は、ほんの少しだけ手を伸ばした。
触れない距離で、空気を掴むように。

「……結衣なら、たぶん……大丈夫かもしれない」

その言葉に、息が止まった。

触れていないのに、触れられたみたいに胸が熱くなる。

「……ゆっくりでいいよ」

私がそう言うと、蒼真は小さくうなずいた。

「……うん。ゆっくりで」

その声は、今までで一番近かった。
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2026/03/14 17:04

おひめ
ID:≫ 19ZQABSFMiPlU
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