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君の名前を呼ぶまで

#3

第3話 名前を呼んでほしくて

翌日、雨はすっかり上がって、空はやわらかな青を取り戻していた。
けれど私の胸の中は、昨日の帰り道の余韻でまだざわついている。

――一緒に入ればいい。

あの言葉を思い出すだけで、頬が熱くなる。

教室に入ると、蒼真はいつものように窓際で本を読んでいた。
でも、昨日よりも少しだけ、私の方を意識しているように見えた。

気のせいじゃない。
だって、目が合った瞬間――

蒼真の指が、またページの上で止まった。

「……おはよう」

勇気を出して声をかけると、蒼真はほんの少しだけ目を見開いた。

「……おはよう」

その声は小さくて、でも確かに私に向けられていた。

席に戻ろうとしたとき、背中にぽつりと声が落ちてきた。

「昨日……その、濡れなかった?」

「うん、大丈夫だったよ。蒼真くんのおかげ」

そう言うと、蒼真は視線をそらし、窓の外を見た。

「……なら、よかった」

その横顔が、どうしようもなく優しい。

放課後。
今日は晴れているのに、私はなぜか校舎裏へ向かっていた。
昨日、蒼真と出会った場所。

「……来ると思った」

声に振り返ると、蒼真が立っていた。
驚きで胸が跳ねる。

「え、なんで……?」

「なんとなく」

なんとなく、で来る距離じゃない。
でも、問い詰めると逃げられそうで、私は黙った。

沈黙が落ちる。
けれど、昨日とは違って苦しくない。

むしろ、心臓の音がうるさい。

「……結衣」

名前を呼ばれた瞬間、息が止まった。

「え……?」

「昨日、言えなかったから」

蒼真は少しだけ目を伏せ、続けた。

「……名前、呼んでみたかった」

胸の奥がじんと熱くなる。
こんなに短い言葉なのに、どうしてこんなに響くんだろう。

「……もう一回、呼んで」

気づいたら、そんな言葉が口からこぼれていた。

蒼真は驚いたように目を瞬き、そして――

「……結衣」

今度は、少しだけ優しい声で。

その瞬間、世界がふわりと揺れた気がした。

名前を呼ばれるだけで、こんなに嬉しいなんて知らなかった。
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2026/03/14 17:03

おひめ
ID:≫ 19ZQABSFMiPlU
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