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私達の夢は絶対に叶う!

[/大文字]キイイイイイイイイン [/大文字]



球場に響く甲高い打球音。桜の花が咲き乱れる季節。春の選抜決勝戦、場所はーー





[/大文字]甲子園!! [/大文字]



3年生の乃愛先輩が打つ美しいサヨナラホームラン。

5対3で私達、[漢字]蒼穹[/漢字][ふりがな]そうきゅう[/ふりがな]学園高校は勝利を収め最後の春を終えた。



私の名前は宮本咲良。高校二年生、ポジションは バッター。

今年の春の選抜が終わって先輩たちが引退してもうはや3ヶ月が経とうとしていた。



正直夏大まであまり時間がない。

7月になれば本格的に体力づくりと練習に入り、あっという間に8月になり夏大が始まる



「1年、2年集合ー」



よく通る大きな声、2年のーいや、3年の藍音先輩が号令をかける



「はい!」



大きな声が響き渡る放課後のグランド。

このグランドも来年には立つこともないと考えると胸の奥が寂しくなる。



「みんな、春の選抜優勝に甘えるなよ!

夏大はどのチームも死に物狂いで私達を倒しにくる。もう一度、あの甲子園の土を踏むぞ!」



「おーーっ!」



藍音先輩の力強い声に、チームの士気が一気に跳ね上がる。
春にサヨナラホームランを放ち、美しく引退していった乃愛先輩。

その後を引き継ぎ、新チームの「4番バッター」に指名されたのは、2年生の私だった。



偉大な先輩の背中は遠い。プレッシャーがないと言えば嘘になる。

でも、藍音先輩たち3年生にとって、これが泣いても笑っても最後の夏なのだ。

絶対に私のバットで、もう一度みんなを甲子園に連れていく。



そう強く拳を握りしめた、その時だった。

(……あれ?)

頭の芯が、ぐらりと揺れた。
視界が一瞬だけ白く歪み、地面がぐにゃりと傾くような感覚に襲われる。
慌てて足を踏ん張ったけれど、額からは冷たい汗がじわりと流れ落ちていた。

最近、どうも体の調子がおかしい。
バットが急に鉛のように重く感じられたり、息が異常に切れたりする。
でも、今は7月。本格的な夏が始まろうとしているのだ。きっとただの夏バテ、少し疲れが溜まっているだけ。せっかく4番を任せてもらったのに、こんなところで弱音なんて吐けるわけがない。



「咲良先輩っ!」



不意に、後ろから私のユニフォームの裾をきゅっと引っ張る気配がした。
振り返ると、1年生のひなたが、くりくりとした大きな目を輝かせてこちらを見上げていた。

ひなたは今年入ってきたルーキーで、小柄な体からは想像もつかないような鋭い打球を飛ばす、

ずば抜けた才能の持ち主だ。なぜか私のことを熱烈に慕ってくれていて、

練習中もいつもトコトコと私の後ろをペンギンのようについて回っている。



「咲良先輩、今日のフリーバッティング、また私のフォーム見てもらってもいいですか?

先輩みたいに、もっと強くて綺麗な打球が打ちたいんです!」



無邪気に笑うひなたの笑顔を見ていたら、

さっきまでの目眩(めまい)が嘘のように消えていく気がした。



「もちろん。ひなたはもっと腰の回転を意識すれば、私なんかよりずっと飛ばせるようになるよ」


「えへへ、ありがとうございます!

私、咲良先輩の後ろを打つ5番バッターになれるように、いっぱい練習します!」



ひなたの頭を優しく撫でながら、私は胸の奥で、小さく息を吐いた。

大丈夫。この子がいれば、大丈夫。
もしも……もしも私の体に、これ以上バットが振れないような何かが起きたとしても。

このずば抜けた才能を持つひなたが、きっと私の代わりにチームの未来を引っ張ってくれる。



「よし、練習入るよ!ひなた、絶対に夏も勝つよ!」
「はいっ、咲良先輩!」



自分の体に忍び寄る影から目を背けるように、

私はひなたの小さな手を引き、大好きなグラウンドへと駆け出した。





カンカンと照りつける7月の太陽が、容赦なくグラウンドを焦がしていた。
鳴り響くブラスバンドの演奏、スタンドからの大歓声。
ついに、夏の地方予選の第1回戦が幕を開けた。

「4番、ライト、宮本さん」

ウグイス嬢のアナウンスが球場に響く。
1点リードで迎えた、3回裏の私の第2打席。ノーアウト満塁という、これ以上ない追加点のチャンスだった。

「咲良先輩!絶対打ってください!後ろは任せてください!」

次打者席(ネクストバッターズサークル)から、5番のひなたがメガホンを両手に持って、ちぎれんばかりにブンブンと振っている。その必死で健気な姿に、自然と口元が緩んだ。

(大丈夫。ひなたのためにも、ここで繋ぐんだ)

そう思ってネクストから立ち上がった、その瞬間。
心臓がドクン、と大きく跳ねた。

「っ……あ……」

急激に視界が遮られ、目の前が真っ白になる。
呼吸がうまくできない。肺に冷たい塊が居座っているように息が苦しく、足の先から力がスーッと抜けていく。バットを持った両手が、自分のものじゃないみたいに激しく震えていた。

(嘘でしょ……今、このタイミングで……!?)

「宮本、タイムかけるか?」

主審が心配そうに声をかけてくる。
ベンチからも、キャプテンの藍音先輩が何かを察したように腰を浮かせかけるのが見えた。

ここで止まったら、みんなにバレてしまう。
私の夏が終わってしまう。

「……いいえ、大丈夫です!」

私は無理やり笑顔を作り、大きく足を踏み出して打席に入った。
バットをギュッと握り直す。手のひらは冷や汗でびっしょりだった。

急性白血病ーー。
大会の一週間前、体のだるさに耐えかねてこっそり行った病院で告げられた病名。
医師からは「即刻入院して治療を始めないと、命の保証はない」と強く詰め寄られた。

だけど、私の頭に浮かんだのは、泣いても笑ってもこれが最後の夏になる藍音先輩たちの顔。そして、「咲良先輩の5番を打ちます!」と目を輝かせてくれたひなたの笑顔だった。

私の命なんて、どうなったっていい。
この夏だけ、この大会が終わるまでだけでいいから、私の体を動かして。
みんなと一緒に、あの甲子園へ行くんだ。

『私達の夢は絶対に叶う!』

心の中で、呪文のように何度も何度も繰り返す。

相手ピッチャーが大きく振りかぶる。
放たれた白球が、視界の中でぐにゃりと歪んで3つに見えた。

(真ん中の、一番光っているやつーー!)

ただそれだけを信じて、私は残された全ての力を両腕に込め、泥臭くバットを振り抜いた。

キイイイイイイイイン

球場に、あの
[/大文字]「アウトーーーッ!!」 [/大文字]

審判の大きな声と同時に、球場全体が割れんばかりの歓声に包まれた。
夏の地方予選、決勝戦。9回ウラ、2アウト満塁のピンチを凌ぎきり、私達はついに夏の甲子園への切符を掴み取ったのだ。

「やったぁぁぁ! 咲良先輩甲子園ですよ!」

5番のひなたが、涙で顔をくしゃくしゃにしながらファーストの守備位置からマウンドへと走ってくる。ベンチからは藍音先輩たち3年生が飛び出し、みんなで歓喜の輪を作って抱き合った。

「みんな……やったね……!」

私もみんなと抱き合い、飛び跳ねて喜んだ。
でも、その瞬間、私の体の中でピンと張り詰めていた「何か」が、音を立てて千切れた。

ガクン、と膝の力が抜ける。
青空がぐるりと回転し、目の前が真っ暗な闇に包まれていく。

「え……? 咲良、先輩……?」

ひなたの焦ったような声が遠くに聞こえる。
倒れゆく私を、ひなたと藍音先輩が慌てて抱きとめた。みんなのユニフォームから、泥と汗の熱い匂いがする。

「咲良! しっかりしろ! 咲良!!」

藍音先輩の叫び声を聞きながら、私はただ、青空を見上げて微笑むことしかできなかった。
ごめんね、みんな。私の身体、ここまでしか持たなかったみたい。
でも、約束は守ったよ。みんなを、甲子園に連れていくっていう、約束ーー。

そのまま私の意識は、深い闇の底へと落ちていった。

春と同じ、甲高い美しい打球音が響き渡った。





(甲子園のグラウンドでは、咲良の代わりに4番に入ったひなたが、涙を流しながら戦い続けていたーー)

熱気が渦巻く、阪神甲子園球場。
悲願の全国大会、その開幕戦のマウンドに、私達のチームの姿があった。
けれど、そこに「4番・宮本咲良」の姿はない。

試合開始直前。甲子園のベンチ裏にある固定電話が激しく鳴り響いた。
受話器を取った監督の手が、見る見るうちに震えだす。ベンチに戻ってきた監督の顔は、幽霊のように真っ白だった。

「みんな、落ち着いて聞いてくれ……」

監督の声は、今にも消え入りそうだった。

「今、病院から連絡があった。咲良が……咲良は急性白血病で無理をしてたそうだ」

その言葉が響いた瞬間、ベンチの空気が凍りついた。

「嘘……でしょ……?」

ひなたがバットを床に落とした。カララン、と虚しい音が響く。
藍音先輩は、溢れ出てくる涙をユニフォームの袖で必死に拭おうとしたが、涙は次から次へと溢れて止まらない。他の部員たちも、声を殺して泣き崩れた。

ずっと夏バテだと思っていた咲良の体調不良。それが、命を脅かす重い血液の病気だったなんて、誰も知らなかった。咲良は、自分が死ぬかもしれないと知りながら、私達のために命を削ってバットを振り続けていたのだ。

「……泣くな!!」

ベンチに、藍音先輩の血を吐くような叫び声が響いた。
藍音先輩は、涙でぐしゃぐしゃの顔のまま、ひなたの肩を強く掴んだ。

「咲良は、病院のベッドで今も戦ってる! 結果を待ってるんだよ! 私達がここで泣き崩れてどうするの! 咲良に、私達の勝利を届けるんでしょ!!」

「う、あ……うわぁぁぁん!」

ひなたは藍音先輩の胸に顔を埋めて大声を上げて泣いた。
ひとしきり泣いた後、ひなたは赤い目で、咲良がいつも使っていたグローブを強く抱きしめた。

「……行こう。咲良に、私達の野球を見せるんだ」

サイレンの音が、甲子園の空に鳴り響く。プレイボールの合図だ。

部員たちは全員、涙の跡が残る顔をユニフォームの袖でゴシゴシと拭い、

前を向いた。咲良の想いが、遺された全員の身体に、確かに乗り移っていた。

グラウンドへ飛び出していくひなたの背中には、

咲良の代わりに「4番」の数字が輝いている。

『私達の夢は優勝は絶対に叶う!』








白い天井。静かに響く、規則的な心電図の音。
病院のベッドの上で、私はかろうじて目を開けていた。
もう指一本動かす力も残っていない。視界はかすみ、意識は今にも遠いどこかへ飛んでいってしまいそうだった。

そんな私のベッドの傍らには、一人の女性がずっと付き添っていた。

「咲良、がんばれ……! みんな、今5回裏だよ。ひなたちゃんがヒットを打ったよ!」

そう言って私の冷たくなった手を握りしめてくれたのは、春に引退したはずの乃愛先輩だった。先輩の綺麗な目からは、大粒の涙がポロポロとこぼれ落ちて、私の手の甲を濡らしている。

病室の小さなテレビには、カンカンと太陽が照りつける、夏の甲子園の決勝戦が映し出されていた。
みんな、戦っている。私のグローブを持ったひなたが、泥だらけになりながらグラウンドを走っている。

「ひな、た……」

声にはならなかった。でも、私の目からも、一筋の涙が耳に向かって伝い落ちた。
試合は終盤に向かっていく。私の意識が遠のくたびに、乃愛先輩が「咲良! 目を開けて! あと少しだから!」と声を張り上げる。

そして、その瞬間は訪れた。

『9回裏、2アウト満塁……空振り三振! 試合終了!! 勝ちました、優勝です!!!』

テレビから割れんばかりの地鳴りのような歓声が響く。画面の向こうで、藍音先輩も、ひなたも、全員が泣きながら抱き合っているのが見えた。

(よかった……みんな……夢、叶ったね……)

みんなの最高の笑顔を見届けた瞬間、私の中で張り詰めていた最後の糸が、静かに切れた。
心電図の音が、ピーーーという長い電子音に変わる。

「咲良? 咲良!! 嘘でしょ、目を開けてよ咲良ぁぁぁ!!」

泣き叫ぶ乃愛先輩の声を聞きながら、私の視界はゆっくりと、あの日みんなで見上げた、どこまでも青い甲子園の空へと溶けていった。




「咲良先輩!!! 勝ちました!!! 優勝しましたよ!!!」

バシャァン!と音を立てて、病室のドアが勢いよく開いた。

入ってきたのは、汗と土の匂いが染み付いたユニフォーム姿のひなただった。甲子園での表彰式が終わるやいなや、金メダルを首にかけたまま、バスを飛ばして病院へと駆けつけてきたのだ。
後ろからは、藍音先輩たち3年生も、息を切らしながらなだれ込んでくる。

みんなの顔には、まだ甲子園の興奮と、優勝の笑顔が残っていた。

「咲良、約束通りメダル持ってきたぞ……って、あれ……?」

藍音先輩の声が、ピタリと止まった。

病室の中は、ひっそりと静まり返っていた。
ベッドの横で、乃愛先輩が顔を伏せて肩を激しく震わせている。

そして、ベッドの上の咲良は。
まるで大仕事を終えて、ぐっすりと眠りについたかのような優しい微笑みを浮かべたまま、静かに横たわっていた。その頬には、まだ乾ききっていない涙の跡が光っている。

「咲良……? 冗談、だよね……? 今さっきまで、テレビで見てくれてたじゃん……」

ひなたが震える足で、一歩、ベッドに近づいた。
咲良の手を取る。けれど、いつもひなたの頭を優しく撫でてくれたその手は、

もう驚くほど冷たくなっていた。

「咲良先輩……嘘です……嘘ですよね……?」

ひなたの目から、大粒の涙が溢れ出し、咲良のユニフォームにポタポタと落ちていく。

「私、先輩のグローブで、4番として、ちゃんとヒット打ったんですよ……! 褒めてくださいよ……! 咲良先輩っ、咲良先輩!! うわぁぁぁぁん!!」

ひなたは咲良の胸に顔を埋め、子供のように声を上げて泣き崩れた。
藍音先輩も、メダルを握りしめたまま、その場に膝をついて嗚咽した。

誰もいなくなった甲子園のグラウンドのように、静まり返った病室。
みんなが持って帰ってきた金メダルだけが、夕暮れの光を浴びて、

切ないほどキラキラと輝いていた。

テレビの画面には、すべての放送が終わったことを告げる、静かな砂嵐だけが映っていた。

『私達の夢は、絶対に叶う。』

咲良が遺したその言葉は、残された部員たちの胸の中で、ひなたの胸の中でこれからも永遠に生き続ける。



あの熱い夏から、3年の月日が流れた。

セミの声が激しく降り注ぐ7月のグラウンド。
バットがボールを捉える快音と、部員たちの元気な声が響き渡る中、私はバッティングケージの横に立っていた。

「宮本監督! 次のメニュー、シートノックでいいですか?」
「うん。内野のカットプレーを意識させて」
「はい!」

下級生にテキパキと指示を出すのは、この春に大学を卒業し、母校の女子野球部の監督として戻ってきた乃愛先輩ーーいや、今は乃愛監督だ。

そして、ノックバットを握ってグラウンドの中心で声を張り上げているのは、新しくコーチに就任した藍音先輩。

みんな、あの夏を胸に抱いたまま、それぞれの道で野球を続けていた。

「よし、ラスト一本! もってこい!」

大きな声をグラウンドに響かせ、バッターボックスに入ったのは私、宮本ひなた。
高校を卒業し、今は社会人野球のリーグで「4番バッター」として白球を追いかけている。今日はオフを利用して、久しぶりに母校の練習を手伝いに来ていた。

私の左手には、すっかり革が馴染んで私の手の形になった、少し古いグローブがはめられている。
あの日、咲良先輩から受け継いだ、大切な宝物だ。

「ひなた、相変わらずいい構えだね。咲良にそっくりだ」

トスを上げに来てくれた藍音先輩が、ふっと目を細めて微笑んだ。

「えへへ、私の憧れですから」

私はそう言って、青空を見上げた。

あの日、金メダルを抱きしめて病室で泣き崩れた私たちは、咲良先輩の遺品の中から一冊のノートを見つけた。
そこには、重い病気と闘いながら、最後まで諦めずに書かれた私たちの分析データと、不器用な文字でこう書かれていた。

『みんななら、夏の甲子園でも絶対に優勝できる。私達の夢は絶対に叶う!』

先輩の命はあの日、夏の終わりと共に空へと旅立ってしまったけれど、先輩が遺してくれたあの言葉と、野球への熱い魂は、私たちの心の中で今も1ミリも色褪せることなく生き続けている。

「よし、いくよ、ひなた!」
「お願いします!」

藍音先輩の手から放たれたボールを見据え、私はあの日先輩に教えてもらった通り、腰の回転を意識して思い切りバットを振り抜いた。

[大文字]キイイイイイイイイン [/大文字]

球場に響き渡る、あの春と、あの夏と同じ、甲高い美しい打球音。

白球は、吸い込まれるような夏の青空に向かって、綺麗な放物線を描いて飛んでいく。
その先には、まるで優しく微笑みながら私たちの野球を見守ってくれている、咲良先輩の笑顔があるような気がした。

「咲良先輩、見ててください。私、これからもずっと、先輩のグローブと一緒に走り続けます!」

胸の奥でそう呟きながら、私は大好きなグラウンドの上で、一歩、力強く踏み出した。

作者メッセージ

私が二三日前に夢で見たやつを小説化しました。正直言います。作者も完成したとき涙腺崩壊しました。

2026/05/20 23:58

蒼花(あおか)
ID:≫ 2yHDSslFuK0xo
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女子軟式野球部野球全く知らない

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