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夕暮れの図書室を包んでいた琥珀色の光は、気づけば冷たい夜の藍色に沈んでいた。
「私、来月ここを引っ越すんだ」
私が絞り出した言葉は、静まり返った部屋にあっけなく吸い込まれていった。二つ前の席に座る芹沢くんの手が、ぴたりと止まる。彼は読んでいた古い小説を、ゆっくりと、音を立てずに閉じた。
「そうなんだ」
彼の声には、高低も、揺らぎもなかった。ただの事実として、私の言葉を自分のなかに落とし込んでいる。そんな静けさだった。
「……引き止めたりは、してくれないんだね」
自嘲気味に笑ってみせたけれど、声が震えてしまうのを隠せなかった。クラスの中心にいる華やかな彼と、地味な私。放課後の図書室という逃げ場所で、偶然言葉を交わすようになっただけの関係。それでも、私はどこかで期待していたのだ。彼にとって、私が少しは特別な存在になれているかもしれない、と。
芹沢くんは、まっすぐに私を見つめた。その瞳には、もう夕日の光すら残っていない。
「引き止めて、どうするの?」
彼の言葉は、容赦なく現実を突きつけてきた。
「僕たちは、ここでたまに話すだけの間柄だ。連絡先も知らないし、学校の外で会ったこともない。君の引っ越し先を追いかける理由も、僕にはないよ」
冷徹な正論だった。胸の奥が、冷たい刃物で抉られたように痛む。でも、彼が嘘をつかない人間だと知っていたからこそ、私は彼を好きになったのだ。
「そうだね。……本当に、その通りだね」
私は荷物をまとめ、席を立った。涙がこぼれ落ちる前に、この場所を去らなければいけない。足早に歩き出し、図書室の重い引き戸に手をかけた。
「待って」
背後から声がした。振り返ると、芹沢くんが机の上に、彼がいつも使っていた安物のシャーペンを置いていた。
「これ、置いていくよ。君に。……僕のことは、忘れて」
彼の手元には、もう一歩も近づけない。彼は私を繋ぎ止めるための言葉ではなく、私を綺麗に突き放すための、完全な終わりの言葉を選んだのだ。
「うん。バイバイ、芹沢くん」
私はシャーペンを手に取ることなく、そのまま扉を開けた。
夜の廊下に踏み出した瞬間、背後で静かに扉が閉まる音がした。それは、私たちの世界が完全に分断された合図だった。
手元には、彼からもらったものは何一つない。連絡先も、思い出の品も、未来の約束も。ただ、胸に刺さったままの痛みが、彼と過ごした放課後が本物だったことの、唯一の証明だった。
「私、来月ここを引っ越すんだ」
私が絞り出した言葉は、静まり返った部屋にあっけなく吸い込まれていった。二つ前の席に座る芹沢くんの手が、ぴたりと止まる。彼は読んでいた古い小説を、ゆっくりと、音を立てずに閉じた。
「そうなんだ」
彼の声には、高低も、揺らぎもなかった。ただの事実として、私の言葉を自分のなかに落とし込んでいる。そんな静けさだった。
「……引き止めたりは、してくれないんだね」
自嘲気味に笑ってみせたけれど、声が震えてしまうのを隠せなかった。クラスの中心にいる華やかな彼と、地味な私。放課後の図書室という逃げ場所で、偶然言葉を交わすようになっただけの関係。それでも、私はどこかで期待していたのだ。彼にとって、私が少しは特別な存在になれているかもしれない、と。
芹沢くんは、まっすぐに私を見つめた。その瞳には、もう夕日の光すら残っていない。
「引き止めて、どうするの?」
彼の言葉は、容赦なく現実を突きつけてきた。
「僕たちは、ここでたまに話すだけの間柄だ。連絡先も知らないし、学校の外で会ったこともない。君の引っ越し先を追いかける理由も、僕にはないよ」
冷徹な正論だった。胸の奥が、冷たい刃物で抉られたように痛む。でも、彼が嘘をつかない人間だと知っていたからこそ、私は彼を好きになったのだ。
「そうだね。……本当に、その通りだね」
私は荷物をまとめ、席を立った。涙がこぼれ落ちる前に、この場所を去らなければいけない。足早に歩き出し、図書室の重い引き戸に手をかけた。
「待って」
背後から声がした。振り返ると、芹沢くんが机の上に、彼がいつも使っていた安物のシャーペンを置いていた。
「これ、置いていくよ。君に。……僕のことは、忘れて」
彼の手元には、もう一歩も近づけない。彼は私を繋ぎ止めるための言葉ではなく、私を綺麗に突き放すための、完全な終わりの言葉を選んだのだ。
「うん。バイバイ、芹沢くん」
私はシャーペンを手に取ることなく、そのまま扉を開けた。
夜の廊下に踏み出した瞬間、背後で静かに扉が閉まる音がした。それは、私たちの世界が完全に分断された合図だった。
手元には、彼からもらったものは何一つない。連絡先も、思い出の品も、未来の約束も。ただ、胸に刺さったままの痛みが、彼と過ごした放課後が本物だったことの、唯一の証明だった。