教室の窓から差し込む日差しが、心なしか白っぽくなっていた。
カーテンがふわりと揺れて、頬に冷たい風が触れる。
「……寒っ」
思わず自分の腕を抱えてしまった。
いつの間にか、季節はすっかり秋を越えて冬に向かっている。
木々の葉は色づき、落ち葉を踏みしめる音が帰り道に加わった。
「ねぇ、冬ってさ、ちょっと寂しくならない?」
後ろの席から、胡桃が何気なく話しかけてきた。
「え? なんで?」
「うーん……空気が澄んでるからかな? なんか、静かで。ほら、夏って毎日がにぎやかだったじゃん?」
「ああ……うん、確かに」
思い返せば、あの夏祭りからずっと、私たちは何かに夢中だった。
文化祭の劇も、その後の準備も、みんなで駆け抜けるように過ごしてきた。
でも、今は——ふと、時間が空いたような感覚があった。
颯人が窓際で大きく伸びをしながら言った。
「なーんか、最近みんなおとなしくね? 文化祭ロスってやつ?」
「颯人くんには声のボリュームを少しロスしてほしいけどね」
健気のつっこみに笑いが起きる。
いつもの空気。だけど——その“いつも”が、少しだけ変わり始めているのを私は感じていた。
「ねぇ……みんなって、将来何になりたいとかある?」
絢が突然、そんなことを言い出した。
教室の空気が一瞬、静かになる。
「え? いきなりどうしたの?」
「んー、なんかさ。最近、進路のプリントとか配られるようになったじゃん。まだ一年なのに、早くない? って思ってたけど……。でも、何も考えてなかったなって思って」
たしかに、最近配られた“キャリア教育”のプリント。
担任の先生が「なんとなくでいいから書いておくように」と言っていたけれど、私はまだ白紙のままだった。
「私は決まってるよ」
千鶴がすっと手を挙げた。
「動物に関わる仕事。獣医さんとか、動物保護の仕事とか」
「わ、かっこいい! 千鶴ちゃんっぽい!」
胡桃が感心したように言った。
「俺はスポーツ系かな! できればサッカー選手! か、トレーナーとか!」
颯人は胸を張って言った。
うん、颯人らしい。
「俺は……声に関わる仕事がいいかな」
健気がぽつりとつぶやいた。
「ナレーターとか、朗読とか、声優とか。うまく言えないけど……、人の心に届く声が出せるようになれたらいいなって思う」
「うん、健気ならなれるよ。健気のナレーション、好きだったもん」
私がそう言うと、健気はちょっとだけ照れたようにそっぽを向いた。
「私は……うーん、小説家、かな」
絢が頭をかきながら言った。
「書くの、まだまだ下手だけど。神奈の台本読んでて、やっぱり物語っていいなって思ってさ」
「絢……ありがとう」
胸の奥があたたかくなった。
「……神奈は?」
みんなの視線が、私に向いた。
「えっ、私……?」
急に聞かれて、答えが出てこなかった。
「まだ、決まってない。けど——」
私の中には、言葉にできない“なにか”がずっとある。
それが将来につながるのかはわからないけれど、でも——
「みんなと、何かを作っていくことが、すごく楽しいって思ってる。劇も、台本も、準備も。ずっとそんな時間が続けばいいのになって……思う」
静かに、でもはっきりとそう言った。
誰も笑わなかった。
代わりに、全員がゆっくりと頷いてくれた。
教室の外では、冷たい風がまたカーテンを揺らしている。
だけど、この空間の中には、あたたかい空気が流れていた。
「……未来の話って、ちょっと恥ずかしいけど」
胡桃が照れたように笑う。
「なんか、みんなの夢聞いたら、ちょっと安心した。うちら、これからも一緒に頑張っていけそうだよね」
「うん、そうだね」
私はもう一度、窓の外を見た。
青空の下、風に舞う木の葉がくるくると回っている。
季節は変わっていく。
でも、今この時間は——きっと、ずっと忘れない。
カーテンがふわりと揺れて、頬に冷たい風が触れる。
「……寒っ」
思わず自分の腕を抱えてしまった。
いつの間にか、季節はすっかり秋を越えて冬に向かっている。
木々の葉は色づき、落ち葉を踏みしめる音が帰り道に加わった。
「ねぇ、冬ってさ、ちょっと寂しくならない?」
後ろの席から、胡桃が何気なく話しかけてきた。
「え? なんで?」
「うーん……空気が澄んでるからかな? なんか、静かで。ほら、夏って毎日がにぎやかだったじゃん?」
「ああ……うん、確かに」
思い返せば、あの夏祭りからずっと、私たちは何かに夢中だった。
文化祭の劇も、その後の準備も、みんなで駆け抜けるように過ごしてきた。
でも、今は——ふと、時間が空いたような感覚があった。
颯人が窓際で大きく伸びをしながら言った。
「なーんか、最近みんなおとなしくね? 文化祭ロスってやつ?」
「颯人くんには声のボリュームを少しロスしてほしいけどね」
健気のつっこみに笑いが起きる。
いつもの空気。だけど——その“いつも”が、少しだけ変わり始めているのを私は感じていた。
「ねぇ……みんなって、将来何になりたいとかある?」
絢が突然、そんなことを言い出した。
教室の空気が一瞬、静かになる。
「え? いきなりどうしたの?」
「んー、なんかさ。最近、進路のプリントとか配られるようになったじゃん。まだ一年なのに、早くない? って思ってたけど……。でも、何も考えてなかったなって思って」
たしかに、最近配られた“キャリア教育”のプリント。
担任の先生が「なんとなくでいいから書いておくように」と言っていたけれど、私はまだ白紙のままだった。
「私は決まってるよ」
千鶴がすっと手を挙げた。
「動物に関わる仕事。獣医さんとか、動物保護の仕事とか」
「わ、かっこいい! 千鶴ちゃんっぽい!」
胡桃が感心したように言った。
「俺はスポーツ系かな! できればサッカー選手! か、トレーナーとか!」
颯人は胸を張って言った。
うん、颯人らしい。
「俺は……声に関わる仕事がいいかな」
健気がぽつりとつぶやいた。
「ナレーターとか、朗読とか、声優とか。うまく言えないけど……、人の心に届く声が出せるようになれたらいいなって思う」
「うん、健気ならなれるよ。健気のナレーション、好きだったもん」
私がそう言うと、健気はちょっとだけ照れたようにそっぽを向いた。
「私は……うーん、小説家、かな」
絢が頭をかきながら言った。
「書くの、まだまだ下手だけど。神奈の台本読んでて、やっぱり物語っていいなって思ってさ」
「絢……ありがとう」
胸の奥があたたかくなった。
「……神奈は?」
みんなの視線が、私に向いた。
「えっ、私……?」
急に聞かれて、答えが出てこなかった。
「まだ、決まってない。けど——」
私の中には、言葉にできない“なにか”がずっとある。
それが将来につながるのかはわからないけれど、でも——
「みんなと、何かを作っていくことが、すごく楽しいって思ってる。劇も、台本も、準備も。ずっとそんな時間が続けばいいのになって……思う」
静かに、でもはっきりとそう言った。
誰も笑わなかった。
代わりに、全員がゆっくりと頷いてくれた。
教室の外では、冷たい風がまたカーテンを揺らしている。
だけど、この空間の中には、あたたかい空気が流れていた。
「……未来の話って、ちょっと恥ずかしいけど」
胡桃が照れたように笑う。
「なんか、みんなの夢聞いたら、ちょっと安心した。うちら、これからも一緒に頑張っていけそうだよね」
「うん、そうだね」
私はもう一度、窓の外を見た。
青空の下、風に舞う木の葉がくるくると回っている。
季節は変わっていく。
でも、今この時間は——きっと、ずっと忘れない。