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たとえ未来が同じでも

#20

20話

教室の窓から差し込む日差しが、心なしか白っぽくなっていた。
カーテンがふわりと揺れて、頬に冷たい風が触れる。
「……寒っ」
思わず自分の腕を抱えてしまった。
いつの間にか、季節はすっかり秋を越えて冬に向かっている。
木々の葉は色づき、落ち葉を踏みしめる音が帰り道に加わった。
「ねぇ、冬ってさ、ちょっと寂しくならない?」
後ろの席から、胡桃が何気なく話しかけてきた。
「え? なんで?」
「うーん……空気が澄んでるからかな? なんか、静かで。ほら、夏って毎日がにぎやかだったじゃん?」
「ああ……うん、確かに」
思い返せば、あの夏祭りからずっと、私たちは何かに夢中だった。
文化祭の劇も、その後の準備も、みんなで駆け抜けるように過ごしてきた。
でも、今は——ふと、時間が空いたような感覚があった。
颯人が窓際で大きく伸びをしながら言った。
「なーんか、最近みんなおとなしくね? 文化祭ロスってやつ?」
「颯人くんには声のボリュームを少しロスしてほしいけどね」
健気のつっこみに笑いが起きる。
いつもの空気。だけど——その“いつも”が、少しだけ変わり始めているのを私は感じていた。
「ねぇ……みんなって、将来何になりたいとかある?」
絢が突然、そんなことを言い出した。
教室の空気が一瞬、静かになる。
「え? いきなりどうしたの?」
「んー、なんかさ。最近、進路のプリントとか配られるようになったじゃん。まだ一年なのに、早くない? って思ってたけど……。でも、何も考えてなかったなって思って」
たしかに、最近配られた“キャリア教育”のプリント。
担任の先生が「なんとなくでいいから書いておくように」と言っていたけれど、私はまだ白紙のままだった。
「私は決まってるよ」
千鶴がすっと手を挙げた。
「動物に関わる仕事。獣医さんとか、動物保護の仕事とか」
「わ、かっこいい! 千鶴ちゃんっぽい!」
胡桃が感心したように言った。
「俺はスポーツ系かな! できればサッカー選手! か、トレーナーとか!」
颯人は胸を張って言った。
うん、颯人らしい。
「俺は……声に関わる仕事がいいかな」
健気がぽつりとつぶやいた。
「ナレーターとか、朗読とか、声優とか。うまく言えないけど……、人の心に届く声が出せるようになれたらいいなって思う」
「うん、健気ならなれるよ。健気のナレーション、好きだったもん」
私がそう言うと、健気はちょっとだけ照れたようにそっぽを向いた。
「私は……うーん、小説家、かな」
絢が頭をかきながら言った。
「書くの、まだまだ下手だけど。神奈の台本読んでて、やっぱり物語っていいなって思ってさ」
「絢……ありがとう」
胸の奥があたたかくなった。
「……神奈は?」
みんなの視線が、私に向いた。
「えっ、私……?」
急に聞かれて、答えが出てこなかった。
「まだ、決まってない。けど——」
私の中には、言葉にできない“なにか”がずっとある。
それが将来につながるのかはわからないけれど、でも——
「みんなと、何かを作っていくことが、すごく楽しいって思ってる。劇も、台本も、準備も。ずっとそんな時間が続けばいいのになって……思う」
静かに、でもはっきりとそう言った。
誰も笑わなかった。
代わりに、全員がゆっくりと頷いてくれた。
教室の外では、冷たい風がまたカーテンを揺らしている。
だけど、この空間の中には、あたたかい空気が流れていた。
「……未来の話って、ちょっと恥ずかしいけど」
胡桃が照れたように笑う。
「なんか、みんなの夢聞いたら、ちょっと安心した。うちら、これからも一緒に頑張っていけそうだよね」
「うん、そうだね」
私はもう一度、窓の外を見た。
青空の下、風に舞う木の葉がくるくると回っている。
季節は変わっていく。
でも、今この時間は——きっと、ずっと忘れない。

2025/12/03 19:16

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