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たとえ未来が同じでも

#18

18話

「片付け終わった人から順に教室戻っていいよー!」
私の声が、体育館裏に響く。
私たちは最後のセットを運び出し、舞台にあった“森”も、“月”も、姿を消した。
夢のようだった時間は終わって、今は現実の教室に戻っている。
でも、あの舞台の余韻だけは、心にしっかりと残っていた。
教室に戻ると、すでに何人かのクラスメイトが感想を言い合っていた。
「親が泣いてたんだけど!」
「副会長の人に褒められた!」
「他のクラスの子たちが、“すごすぎる”って言ってた!」
そこかしこから、うれしそうな声が飛び交っている。
「先生〜!うちの劇、どうでした?」
誰かが担任の先生に声をかけた。
先生は黒板の前に立ち、にっこりと笑った。
「……あれはね、ほんとに“作品”だったよ。」
「“作品”?演劇じゃなくて?」
「うん。舞台美術、演出、音響、ナレーション、アフレコ。すべてが丁寧で、完成度が高かった。
それに、ストーリーのメッセージがとても深くて、大人でも考えさせられる内容だったと思う。……感動したよ。」
教室が静まりかえった。
「演じてるみんなの姿、真剣だった。うさぎも、本当にちゃんと“役者”に見えたよ。
あんな劇、見たことない。よくここまで作り上げたね。素晴らしかった。」
じわり、と胸の奥が熱くなった。
たぶん私だけじゃない。
その場にいたみんなが、同じように感じていたと思う。
先生が拍手を送ると、それに続いて教室中から拍手が起きた。
そして、そのまま反省会が始まった。
「じゃあまず、神奈。脚本と監督、お疲れ様。何か一言ある?」
絢が司会役を買って出て、私にマイクを渡してくる。
「えっ……あ、うん……!」
私は立ち上がって、みんなの顔を見渡した。
舞台上ではなく、クラスの真ん中で話すこの瞬間が、なぜか一番緊張する。
「……まず、本当にありがとう。
私が書いた脚本が、こんなに素敵な舞台になるなんて思ってなかった。
みんながたくさん動いてくれて、協力してくれて……。本当に、感謝してます。」
言いながら、自分の声が少し震えているのに気づいた。
だけど、それでもちゃんと伝えたかった。
「この劇は、たぶん“優しさ”をテーマにしてたと思う。
見てくれた人たちが、少しでもその気持ちを受け取ってくれてたら……それだけで、もう成功です。」
拍手がまた起きる。
「神奈……かっこいい〜〜〜〜〜!!」
と、颯人が大きな声でからかってくるけど、
なんだか今日は、怒る気になれなかった。
「うるさい。」
その一言だけ、きっちり返しておいたけど。
そのあとは、演出チーム、ナレーション担当、アフレコ組、動物管理組、舞台美術組、衣装・メイク組……
それぞれが順番に前に出て、感想や反省、褒め言葉を伝え合った。
「絢のアフレコ、マジで泣きそうになった」
「健気のナレーション、プロみたいだった」
「舞台装置、颯人がんばってたなー!」
小さな失敗も、笑いに変わる。
「鳥、最後に止まってくれなかった〜〜!!」
「でも逆にリアルだったよね!」
「ウサギ、意外と演技うまかったよな……」
動物たちの話題で、また笑いが起きる。
こうしてクラス全員で一つのことをやり遂げた、そんな空気が教室を満たしていた。
放課後。
誰もいなくなった体育館に、私はひとりで戻ってきた。
舞台はもう撤収されて、ただの床が広がっている。
でも、あの白いうさぎが跳ねていた場所。
あの光が差していた高台。
全部、まぶたの裏にしっかりと残っていた。
「……やってよかった。」
ぽつりと呟いた声が、体育館の中に小さく反響した。
文化祭は、終わった。
でも、それは“終わり”じゃない。
この経験が、これからの私たちの中に、生きていくんだと思う。
ふと、ポケットの中で小さな紙が指に触れた。
それは、動物たちの登場タイミングを書いた私のメモ。
「……ありがとう。」
そう言って私は、メモをそっと胸元にしまった。

2025/11/05 09:29

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