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たとえ未来が同じでも

#12

12話

冷たい風が吹く教室。
私は、文化祭の劇の脚本作りに選ばれた。
「……よし、完成。」
カチッとペンを閉じ、神奈は小さく深呼吸をした。清書された原稿用紙の束には、タイトルが書かれている。
 『月のウサギ』
何度も読み返し、書いては消して直したその台本。
私にとって、これはただの劇の脚本ではなく、心から届けたい“物語”。
ちゃんと届くといいな。

次の日の朝。神奈は教室に早めに到着し、担任の先生の机の前に立った。
「先生……。文化祭の劇の台本、できました。」
そう言って台本を差し出すと、先生は少し驚いたような顔をした後、にこりと笑って受け取った。
「おぉ……ありがとう。どれどれ……?」
先生はその場でページをめくり、数秒読んでは目を見開き、時々吹き出したり、感心したようにうなずいたり。
「すごいじゃないか、神奈。想像以上に本格的だね。しかも、動物を使う……? これは新しいなぁ。」
「はい。うちのクラスって、まとまりがあるようで、ちょっと個性もバラバラで……。だから、みんながそれぞれ活きるような、そんな劇にしたいなって思って……」
「なるほどね。うん……いいと思う! みんなにも見せてみよう!」
こうして、朝のホームルームの時間に、神奈はクラス全員の前で台本を紹介することになった。
「ねぇ、あれ神奈が書いたんだって?」「タイトルが……『月のウサギ』? ふふ、なんか可愛い。」
ざわつく教室。神奈は少しだけ緊張しながら、前に出て深呼吸をした。
「えっと……これが、文化祭でやる劇の台本です。『月のウサギ』っていう、私のオリジナルのお話で……。舞台は、とある村。そして、主人公は“ツキ”という、言葉を話せない女の子です。」
教室がだんだんと静かになっていく。
「この子は、動物たちとだけ話ができて、人間とは心を通わせることができません。でもある日、空から隕石が落ちて、村が滅びて……ツキだけが生き残るんです。」
「……。」
「そんな彼女に、一匹のうさぎが、“月に行ける力”を与えます。そこから、ツキがどんなふうに生きるのか、そして何を選ぶのか……。そういうお話です。」
一瞬、沈黙。
でも、すぐに教室のあちこちから「すごい!」「面白そう!」という声が上がった。
「うおおお! なんか壮大な話じゃん!」「動物って、本物使うの?!」
「使うそうです。まぁ、 うちのクラスには、動物にやたらと懐かれる子がいるのでね。」
先生がそういった。
神奈が照れ笑いを浮かべると、颯人が「お前のことか〜!」と指を差してきた。
「っ……バカ、やめてよっ!」
笑い声が広がる中、先生が前に立った。
「じゃあ、この脚本でいくと決まったら、次は配役決めと担当分けだね。演じる人、ナレーション、裏方、演出、衣装、小道具、いろいろあるけど……どうする?」
颯人が勢いよく手を挙げた。
「俺! 裏方とか演出とかやりたい! 人前で演技とか無理だから!」
「え、俺も!」「私もやりたい!」
裏方をやりたい人が多いようだ。、、これ、大丈夫?
「俺も無理だけど……ナレーションくらいならできるかな……?」
 健気がぽそりと言うと、教室から「似合う!」と声があがる。
「語り部か〜。確かに、健気の声、落ち着くもんね。」
「へへ……ま、やってみるよ。」
 神奈は、そのやり取りを見て、胸がじんわりと温かくなるのを感じた。
(あぁ、よかった……)
胡桃と絢は、アフレコ担当として手を挙げた。動物の声を担当するという珍しい役に、ふたりとも目を輝かせていた。
「え、アフレコって楽しそうじゃない? やりたい!」
「私も! ウサギの声とか得意だし!」
「絢、得意って何(笑)」
すかさず健気がツッコミを入れる。
そして、千鶴は迷った末に、小さく手を挙げた。
「……私、ツキに力を与えるウサギ……やってみたい。」
 その声は小さかったけれど、神奈にははっきり聞こえた。
「……ありがとう、千鶴。」
「……うん。」
こうして、配役と役割が決まり、文化祭の準備が本格的に始まることになる。
この日、教室には、普段とは少し違う空気が流れていた。
ひとりひとりが、自分に与えられた役割を受け止め、少し背筋を伸ばして、未来を見つめていた。
――この物語は、クラスのみんながひとつになるための、大切な舞台になるのだと。
そう、神奈は強く感じていた。

2025/10/16 20:32

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