「はぁ……緊張する……」
帰り道、家が近づくにつれて、私の足取りがどんどん重くなっていった。
今日は家庭訪問。つまり、担任の先生が家に来て、私のことを両親と話す、
ちょっとだけ面倒くさい行事。
(ちゃんと話せるかな)
(先生、何言うんだろ……)
そんな不安がぐるぐる回る。
でも、家の玄関を開けると、その不安は少しだけ軽くなった。
「おかえり、神奈。ちゃんと制服シワになってない?」
母がエプロン姿で出迎えてくれた。
玄関の奥からは、弟たちの騒がしい声が響いている。
「ただいま……って、ちょっと、ふたりとも騒ぎすぎ!」
「ねぇねぇ!先生って何時に来るのー?!」
「今日のおやつはなにー?!」
弟たちは双子で、いつも元気すぎるくらい元気。
しかも今日は“お姉ちゃんの先生が来る”という非日常イベントに、テンションが異常に高い。
「あと30分で来るから、お願いだから静かにして……ね?」
私はそう言って、制服のままリビングへ。
テーブルの上には、母が用意したお茶菓子と湯のみが並んでいた。
「母さん、なんか……緊張してる?」
「そりゃあねぇ、娘の学校の先生と直接話すんだから」
と言いつつも、母は私より随分落ち着いて見えた。
ああいうところ、やっぱり大人だなぁと思う。
数分後、チャイムの音が鳴る。
「来た……!」
私は一瞬固まったけど、母が落ち着いた足取りで玄関へ向かった。
応対の声と、軽く笑う先生の声が聞こえてくる。
「こんにちは。榊神奈さんの担任をしております、大宮です。」
入ってきたのは、少し若くて、眼鏡の奥が優しそうな担任の大宮先生だった。
先生が私の顔を見ると、すぐににっこり笑った。
「緊張してる?大丈夫、 神奈さんは普段からしっかりしてるから、何も心配することないよ」
私は思わず、ほっと息を吐いていた。
先生は母と向かい合って座り、私はその隣にちょこんと正座。
話は成績のこと、友達のこと、学校での様子など――
先生が話す言葉のひとつひとつが、なんだかくすぐったかった。
「クラスの中でも、神奈さんはすごく落ち着いてます。
周りにもよく気がついて、みんなからも信頼されてますよ」
「えっ……私、そんなに……?」
「ほんとだよ。東雲くんとか桃瀬くんとも、いいコンビじゃない。
西ヶ花さんや朱雀さんとも仲良くしてるし」
「ふふ……」
母が、嬉しそうに私を見てくる。
恥ずかしいけど、少しだけ、胸の奥があったかくなる。
家庭訪問は、思ってたよりも穏やかに終わった。
先生を見送ったあと、母と私は玄関で肩を並べていた。
「……ちゃんと、できてた?」
「うん、よくやってるって言われてた。母さん、ちょっと泣きそうだったよ」
「やめてよ、そういうの……」
私は照れ隠しに、思わずぷいっと横を向いた。
だけど、その横顔を見ていた母が、ぽつりと呟いた。
「……こうして、ちゃんと成長してくれて、ありがとうね、神奈」
「えっ……なに急に……」
「ううん、なんでもない。ふふ、ほら、夕飯の準備しなきゃ。今日は神奈の好きな唐揚げよ」
母はふわりと笑ってキッチンへ向かう。
その背中を見ながら、私はなぜか、胸の奥が少しきゅっとした。
――私は、お母さんみたいに余裕のある大人になれるだろうか。
答え合わせが出来るのはまだまだ先。
でも、きっと、なれてるはず。
私は、無事に生まれてきたたった一人の女の子だから。
帰り道、家が近づくにつれて、私の足取りがどんどん重くなっていった。
今日は家庭訪問。つまり、担任の先生が家に来て、私のことを両親と話す、
ちょっとだけ面倒くさい行事。
(ちゃんと話せるかな)
(先生、何言うんだろ……)
そんな不安がぐるぐる回る。
でも、家の玄関を開けると、その不安は少しだけ軽くなった。
「おかえり、神奈。ちゃんと制服シワになってない?」
母がエプロン姿で出迎えてくれた。
玄関の奥からは、弟たちの騒がしい声が響いている。
「ただいま……って、ちょっと、ふたりとも騒ぎすぎ!」
「ねぇねぇ!先生って何時に来るのー?!」
「今日のおやつはなにー?!」
弟たちは双子で、いつも元気すぎるくらい元気。
しかも今日は“お姉ちゃんの先生が来る”という非日常イベントに、テンションが異常に高い。
「あと30分で来るから、お願いだから静かにして……ね?」
私はそう言って、制服のままリビングへ。
テーブルの上には、母が用意したお茶菓子と湯のみが並んでいた。
「母さん、なんか……緊張してる?」
「そりゃあねぇ、娘の学校の先生と直接話すんだから」
と言いつつも、母は私より随分落ち着いて見えた。
ああいうところ、やっぱり大人だなぁと思う。
数分後、チャイムの音が鳴る。
「来た……!」
私は一瞬固まったけど、母が落ち着いた足取りで玄関へ向かった。
応対の声と、軽く笑う先生の声が聞こえてくる。
「こんにちは。榊神奈さんの担任をしております、大宮です。」
入ってきたのは、少し若くて、眼鏡の奥が優しそうな担任の大宮先生だった。
先生が私の顔を見ると、すぐににっこり笑った。
「緊張してる?大丈夫、 神奈さんは普段からしっかりしてるから、何も心配することないよ」
私は思わず、ほっと息を吐いていた。
先生は母と向かい合って座り、私はその隣にちょこんと正座。
話は成績のこと、友達のこと、学校での様子など――
先生が話す言葉のひとつひとつが、なんだかくすぐったかった。
「クラスの中でも、神奈さんはすごく落ち着いてます。
周りにもよく気がついて、みんなからも信頼されてますよ」
「えっ……私、そんなに……?」
「ほんとだよ。東雲くんとか桃瀬くんとも、いいコンビじゃない。
西ヶ花さんや朱雀さんとも仲良くしてるし」
「ふふ……」
母が、嬉しそうに私を見てくる。
恥ずかしいけど、少しだけ、胸の奥があったかくなる。
家庭訪問は、思ってたよりも穏やかに終わった。
先生を見送ったあと、母と私は玄関で肩を並べていた。
「……ちゃんと、できてた?」
「うん、よくやってるって言われてた。母さん、ちょっと泣きそうだったよ」
「やめてよ、そういうの……」
私は照れ隠しに、思わずぷいっと横を向いた。
だけど、その横顔を見ていた母が、ぽつりと呟いた。
「……こうして、ちゃんと成長してくれて、ありがとうね、神奈」
「えっ……なに急に……」
「ううん、なんでもない。ふふ、ほら、夕飯の準備しなきゃ。今日は神奈の好きな唐揚げよ」
母はふわりと笑ってキッチンへ向かう。
その背中を見ながら、私はなぜか、胸の奥が少しきゅっとした。
――私は、お母さんみたいに余裕のある大人になれるだろうか。
答え合わせが出来るのはまだまだ先。
でも、きっと、なれてるはず。
私は、無事に生まれてきたたった一人の女の子だから。