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たとえ未来が同じでも

#6

【6話】家庭訪問

「はぁ……緊張する……」
帰り道、家が近づくにつれて、私の足取りがどんどん重くなっていった。
今日は家庭訪問。つまり、担任の先生が家に来て、私のことを両親と話す、
ちょっとだけ面倒くさい行事。
(ちゃんと話せるかな)
(先生、何言うんだろ……)
そんな不安がぐるぐる回る。
でも、家の玄関を開けると、その不安は少しだけ軽くなった。
「おかえり、神奈。ちゃんと制服シワになってない?」
母がエプロン姿で出迎えてくれた。
玄関の奥からは、弟たちの騒がしい声が響いている。
「ただいま……って、ちょっと、ふたりとも騒ぎすぎ!」
「ねぇねぇ!先生って何時に来るのー?!」
「今日のおやつはなにー?!」
弟たちは双子で、いつも元気すぎるくらい元気。
しかも今日は“お姉ちゃんの先生が来る”という非日常イベントに、テンションが異常に高い。
「あと30分で来るから、お願いだから静かにして……ね?」
私はそう言って、制服のままリビングへ。
テーブルの上には、母が用意したお茶菓子と湯のみが並んでいた。
「母さん、なんか……緊張してる?」
「そりゃあねぇ、娘の学校の先生と直接話すんだから」
と言いつつも、母は私より随分落ち着いて見えた。
ああいうところ、やっぱり大人だなぁと思う。

数分後、チャイムの音が鳴る。
「来た……!」
私は一瞬固まったけど、母が落ち着いた足取りで玄関へ向かった。
応対の声と、軽く笑う先生の声が聞こえてくる。
「こんにちは。榊神奈さんの担任をしております、大宮です。」
入ってきたのは、少し若くて、眼鏡の奥が優しそうな担任の大宮先生だった。
先生が私の顔を見ると、すぐににっこり笑った。
「緊張してる?大丈夫、 神奈さんは普段からしっかりしてるから、何も心配することないよ」
私は思わず、ほっと息を吐いていた。

先生は母と向かい合って座り、私はその隣にちょこんと正座。
話は成績のこと、友達のこと、学校での様子など――
先生が話す言葉のひとつひとつが、なんだかくすぐったかった。
「クラスの中でも、神奈さんはすごく落ち着いてます。
周りにもよく気がついて、みんなからも信頼されてますよ」
「えっ……私、そんなに……?」
「ほんとだよ。東雲くんとか桃瀬くんとも、いいコンビじゃない。
西ヶ花さんや朱雀さんとも仲良くしてるし」
「ふふ……」
母が、嬉しそうに私を見てくる。
恥ずかしいけど、少しだけ、胸の奥があったかくなる。
家庭訪問は、思ってたよりも穏やかに終わった。
先生を見送ったあと、母と私は玄関で肩を並べていた。
「……ちゃんと、できてた?」
「うん、よくやってるって言われてた。母さん、ちょっと泣きそうだったよ」
「やめてよ、そういうの……」
私は照れ隠しに、思わずぷいっと横を向いた。
だけど、その横顔を見ていた母が、ぽつりと呟いた。
「……こうして、ちゃんと成長してくれて、ありがとうね、神奈」
「えっ……なに急に……」
「ううん、なんでもない。ふふ、ほら、夕飯の準備しなきゃ。今日は神奈の好きな唐揚げよ」
母はふわりと笑ってキッチンへ向かう。
その背中を見ながら、私はなぜか、胸の奥が少しきゅっとした。
――私は、お母さんみたいに余裕のある大人になれるだろうか。
答え合わせが出来るのはまだまだ先。
でも、きっと、なれてるはず。
私は、無事に生まれてきたたった一人の女の子だから。

2025/10/13 11:07

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