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たとえ未来が同じでも

#1

【1話】春の風、始まりの音

中学校の入学式が終わった帰り道。
私は、小学校からの大親友・杠葉胡桃(ゆずりはくるみ)と一緒に歩いていた。
新しい制服はまだ少し肩がこそばゆくて、リボンの結び目もいまいちしっくりこない。
それでも、鏡の前で何度も確認した今朝の自分は、少しだけ背筋が伸びて見えた気がする。
「ねえ神奈(かんな)、担任の先生ちょっと堅そうじゃなかった?」
胡桃が、スカートの裾をつまみながら言った。
「うん、たしかに。でも話し方は優しかったし、意外と面白い先生かも」
私がそう言うと、胡桃は「ふふ、そうかもね」と笑った。
今日は家族がそれぞれ用事で不在だったから、家まで一緒に帰るのは私と胡桃だけ。
通学路ではないけど、近くのスーパーや図書館に行くときに何度も通った、よく知っている道を選んだ。
桜並木の下を、制服姿で並んで歩く。
春の風がすこし冷たくて、でもやわらかくて、どこか安心する匂いがした。
「ついに中学生かあ……なんか変な感じする」
胡桃が空を見上げながらつぶやいた。
「わかる。でも、楽しみだね」
私はそう言って、ひとつ深呼吸をする。
この先に待っている毎日は、どんな景色なんだろう。
やがて、歩道の先にある横断歩道に差しかかった。
信号はなかったけれど、何度も通っている道だから、私はつい足を止めずに歩き出してしまった。
「神奈、ちょっと――!」
胡桃の声が背中にかかった瞬間。
「ギュッ……」
ブレーキ音が響いた。
私は咄嗟に目をぎゅっと閉じる。
……
しばらく目を瞑っていたが、なかなか痛みが来ない。
おそるおそる目を開けると、私は歩道に立っていた。
肩には、誰かの手が優しく添えられている。
顔を上げると、見知らぬスーツ姿の男性が私を見つめていた。
穏やかな目をしていて、微笑みながら「大丈夫?」とだけ言った。
「あ、はい……ありがとうございます」
私は慌てて頭を下げた。
その人は軽く頷くと、何も言わずに歩き出して、すっと人混みにまぎれていった。
「神奈!!」
胡桃が駆け寄ってくる。
顔を真っ青にして、息を切らしていた。
「……うん、大丈夫。誰かが……助けてくれた」
自分でも、よくわからない。けど、確かにあのとき、何かに引き戻されたような感覚があった。
「も〜〜ほんと勘弁してよ。入学式初日で事故ったらシャレになんないよ?」
「……ほんと、それね」
私が笑うと、胡桃も安心したように頷いた。
「もう〜、せっかく楽しい気分だったのに、びっくりさせないでよね」
「ごめんってば。……明日からはちゃんと気をつけるよ」
そう言いながら、私はもう一度制服のリボンを直した。
春風がふわりと吹いて、胡桃の髪が揺れる。
「ねえ、帰りにコンビニ寄っていかない? 新しいお菓子出てたんだって」
「いいね。お母さんに頼まれてた牛乳も買わなきゃだし」
いつもの、たわいない会話。
道の端を歩きながら、私たちはふたり並んで歩き出した。
あたたかい午後の日差しの中で、見慣れた街の景色が、ゆっくりと後ろへ流れていく。
春は、始まったばかりだった。

2025/10/12 19:45

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