教室に入る前、扉の前で立ち止まった。
扉の向こうには、きっと昨日と同じ空気が広がっている。
誰も私の存在を認めない、あの騒がしさと沈黙の混ざった空間。
それでも、今日は少しだけ違う。
昨日、“声をかけた”。そして、返事が返ってきた。
たったそれだけのこと。
でも、私にとっては、誰にも見えないほどの小さな、大きな一歩だった。
--------------
手をかけて、ドアを開ける。
ガラリと音が鳴った瞬間、教室の空気が少しだけ引き締まった気がしたのは、気のせいだろうか。
私は何も言わず、自分の席へ向かう。
前の席の子が、またノートを広げていた。
目が合うこともなく、彼女はそのまま視線を落としたままだった。
でも私は、昨日のことを思い出していた。
震える手で拾ったプリント。かすれた声。
そのとき返ってきた、ほんの少し驚いたような「ありがと」。
あの声が、頭の中で何度も繰り返される。
--------------
授業中、ノートを取りながら、心のどこかがふわふわしていた。
昨日のあれは、偶然だったのか、それとも、ちゃんと“会話”だったのか。
たった一言しか交わしていないのに、私の中ではずっと残っていた。
「ありがとう」という言葉が、特別だったわけじゃない。
でも、あの瞬間、私は“誰かとつながった”気がした。
話しかけて、返してもらえた。
それだけのことで、自分がちゃんと“ここにいる”と実感できた。
昨日よりも今日、少しだけ教室の音が近く感じるのは、そのせいだろうか。
--------------------
昼休み、今日は屋上に行く気になれなかった。
代わりに、校舎裏の誰も来ないベンチに腰を下ろす。
秋の風が、静かに吹いていた。
手のひらにスマホを持ったまま、私は画面を見つめていた。
何をするでもなく、ただぼんやりと、
“誰かに必要とされたい”という気持ちだけが心の中に残っていた。
今まで、そんなことを思ったことはなかった。
期待して裏切られるよりは、最初から諦めていた方が楽だったから。
でも、あと96日しかない。
私はこのまま、誰にも触れずに終わってしまうのだろうか。
昨日みたいに、たった一言でも会話ができたら。
それだけで、私は生きていたって思える気がする。
------------
放課後、教室の窓際に座ったまま、私は少しだけ空を見上げた。
夕陽が差し込んでいて、*蓬莱さん(前の席の子)の本のページを赤く照らしていた。
彼女は相変わらず本を読んでいて、誰とも目を合わせない。
けれど、ほんの一瞬だけ、彼女がページをめくる手を止めて、顔を上げた。
私は視線を逸らした。
きっと、目が合ってはいない。
でも、その仕草だけが妙に印象に残った。
天海さんは、他の誰とも違って見える。
静かで、強くて、だけど孤独を知っているような目をしていた。
私とは違う。
でも、なんとなく、似ているような気もしていた。
その理由は分からない。
今はまだ、ただの勘違いかもしれない。
でも、少しだけ、気になる存在だった。
家に帰って、スマホのメモを開く。
毎日続けているこの記録だけが、私が今この世界に存在している、小さな証。
---------------
【100日後に死ぬ私 4日目】
今日は、特別なことは何もなかった。
誰とも話していない。でも、昨日の一言が、まだ心に残っている。
「ありがとう」と言ってもらえた。
嬉しかったのは、その内容じゃなくて、反応が返ってきたこと。
話しかけて、会話になった。それだけで、世界が少し変わった気がした。
教室の音が、今日は少しだけ近かった。
天海さんのことも、また見てしまった。
目が合ったわけじゃない。でも、なんとなく。
私はまだ、誰にも愛されていないし、必要ともされていない。
でも、昨日よりは、少しだけ前に進めたと思う。
------------
私が死ぬまで残り96日___
扉の向こうには、きっと昨日と同じ空気が広がっている。
誰も私の存在を認めない、あの騒がしさと沈黙の混ざった空間。
それでも、今日は少しだけ違う。
昨日、“声をかけた”。そして、返事が返ってきた。
たったそれだけのこと。
でも、私にとっては、誰にも見えないほどの小さな、大きな一歩だった。
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手をかけて、ドアを開ける。
ガラリと音が鳴った瞬間、教室の空気が少しだけ引き締まった気がしたのは、気のせいだろうか。
私は何も言わず、自分の席へ向かう。
前の席の子が、またノートを広げていた。
目が合うこともなく、彼女はそのまま視線を落としたままだった。
でも私は、昨日のことを思い出していた。
震える手で拾ったプリント。かすれた声。
そのとき返ってきた、ほんの少し驚いたような「ありがと」。
あの声が、頭の中で何度も繰り返される。
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授業中、ノートを取りながら、心のどこかがふわふわしていた。
昨日のあれは、偶然だったのか、それとも、ちゃんと“会話”だったのか。
たった一言しか交わしていないのに、私の中ではずっと残っていた。
「ありがとう」という言葉が、特別だったわけじゃない。
でも、あの瞬間、私は“誰かとつながった”気がした。
話しかけて、返してもらえた。
それだけのことで、自分がちゃんと“ここにいる”と実感できた。
昨日よりも今日、少しだけ教室の音が近く感じるのは、そのせいだろうか。
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昼休み、今日は屋上に行く気になれなかった。
代わりに、校舎裏の誰も来ないベンチに腰を下ろす。
秋の風が、静かに吹いていた。
手のひらにスマホを持ったまま、私は画面を見つめていた。
何をするでもなく、ただぼんやりと、
“誰かに必要とされたい”という気持ちだけが心の中に残っていた。
今まで、そんなことを思ったことはなかった。
期待して裏切られるよりは、最初から諦めていた方が楽だったから。
でも、あと96日しかない。
私はこのまま、誰にも触れずに終わってしまうのだろうか。
昨日みたいに、たった一言でも会話ができたら。
それだけで、私は生きていたって思える気がする。
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放課後、教室の窓際に座ったまま、私は少しだけ空を見上げた。
夕陽が差し込んでいて、*蓬莱さん(前の席の子)の本のページを赤く照らしていた。
彼女は相変わらず本を読んでいて、誰とも目を合わせない。
けれど、ほんの一瞬だけ、彼女がページをめくる手を止めて、顔を上げた。
私は視線を逸らした。
きっと、目が合ってはいない。
でも、その仕草だけが妙に印象に残った。
天海さんは、他の誰とも違って見える。
静かで、強くて、だけど孤独を知っているような目をしていた。
私とは違う。
でも、なんとなく、似ているような気もしていた。
その理由は分からない。
今はまだ、ただの勘違いかもしれない。
でも、少しだけ、気になる存在だった。
家に帰って、スマホのメモを開く。
毎日続けているこの記録だけが、私が今この世界に存在している、小さな証。
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【100日後に死ぬ私 4日目】
今日は、特別なことは何もなかった。
誰とも話していない。でも、昨日の一言が、まだ心に残っている。
「ありがとう」と言ってもらえた。
嬉しかったのは、その内容じゃなくて、反応が返ってきたこと。
話しかけて、会話になった。それだけで、世界が少し変わった気がした。
教室の音が、今日は少しだけ近かった。
天海さんのことも、また見てしまった。
目が合ったわけじゃない。でも、なんとなく。
私はまだ、誰にも愛されていないし、必要ともされていない。
でも、昨日よりは、少しだけ前に進めたと思う。
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私が死ぬまで残り96日___