朝のホームルームが始まる前、私はいつものように教室の隅の席に座っていた。
誰とも目を合わせず、声も出さず、空気よりも静かに呼吸する。
それが、私にとっての“日常”だった。
だけど今日は、昨日の失敗が頭にこびりついていた。
「喋ろうとしただけ」で、前の席の子に避けられた。それだけのことなのに、ずっと頭から離れない。
あの瞬間、自分が自分でいることが、どうしようもなく恥ずかしかった。
それでも。
今朝、ベッドの中で私は、もう一度だけ頑張ろうと決めたのだ。
“あと98日”。
その数字は、ゆっくりと私を追い詰めながら、同時に少しだけ私を動かす。
-------------------------------
ガラガラとドアが開く音。
ざわついた教室の空気が少し変わる。誰かが来たようだった。
私は何気なく顔を上げた。
すると、その子と目が合った。ような気がした。
彼女の名前は、天海 穂乃歌(あまみ ほのか)。
この学校には途中から転入してきた子で、あまり人と話さない。
いつも何かしら本を読んでいて、笑ってるところも見たことがない。
でも、クラスで孤立してるわけじゃない。誰かに無理に合わせることもなく、自然にそこにいるような、妙な存在感を持った人だった。
穂乃歌は、一瞬だけこちらを見た。
私の目を、まっすぐに見たような気がした。
そしてすぐに、何事もなかったかのように視線を外し、自分の席に座って本を開いた。
本当に目が合っていたのか、私にはわからない。
見間違いかもしれないし、ただの偶然かもしれない。
でも――
目を逸らさなかった。
それだけのことで、胸がチクリとした。
-------------------------
教室の中は今日も騒がしく、他の生徒たちは誰一人、私の存在を意識していない。
それが当たり前だ。私も、誰かと関わろうとはしてこなかった。
関わっても、傷つくだけだから。
誰かに言葉をかけても、無視されたり、笑われたり、怪訝な目で見られたり。
私の中では、それが“普通”だった。
でも、天海さんだけは――少しだけ違った。
特別に優しいわけでも、気さくでもない。
ただ、ちゃんと私を見たような気がした。
それが、嬉しくて。
それが、怖かった。
----------------------------
昼休み。私はまた屋上へ向かった。
誰も来ない場所。誰も私を見ない空間。
風の音と、自分の心臓の音だけが耳に残る。
ポケットからスマホを取り出し、カメラを起動する。
ぼんやりとした画面の中で、無表情の自分が映る。
何度見ても、自分の顔は嫌いだ。
感情のない目。整ってもいないし、綺麗でもない。
これじゃあ、誰にも好かれないのも当然だ。
だけど。
今日、あの子が見たのは、この顔だった。
「もしかしたら、見間違いじゃないのかもしれない」
そんな希望が浮かんでは消え、また浮かんだ。
私はスマホのメモを開いて、いつものように今日の記録を残す。
----------------------
【100日後に死ぬ私 2日目】
昨日、声をかけることに失敗した。
今日は何もしていない。でも、ちょっとだけ違うことがあった。
クラスの子と目が合った。気がした。
その子は、天海 穂乃歌っていう名前の子。
私を見て、目を逸らさなかった。
本当に目が合ったのか、自信はない。
でも、あの瞬間、私はちゃんと“ここにいる”って思えた。
明日は、何か言えるだろうか。
……まだ怖いけど。
---------------------------
スマホを閉じると、強い風が頬を撫でた。
私は少しだけ空を見上げる。
雲の向こうに、少しだけ光が見えたような気がした。
誰とも目を合わせず、声も出さず、空気よりも静かに呼吸する。
それが、私にとっての“日常”だった。
だけど今日は、昨日の失敗が頭にこびりついていた。
「喋ろうとしただけ」で、前の席の子に避けられた。それだけのことなのに、ずっと頭から離れない。
あの瞬間、自分が自分でいることが、どうしようもなく恥ずかしかった。
それでも。
今朝、ベッドの中で私は、もう一度だけ頑張ろうと決めたのだ。
“あと98日”。
その数字は、ゆっくりと私を追い詰めながら、同時に少しだけ私を動かす。
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ガラガラとドアが開く音。
ざわついた教室の空気が少し変わる。誰かが来たようだった。
私は何気なく顔を上げた。
すると、その子と目が合った。ような気がした。
彼女の名前は、天海 穂乃歌(あまみ ほのか)。
この学校には途中から転入してきた子で、あまり人と話さない。
いつも何かしら本を読んでいて、笑ってるところも見たことがない。
でも、クラスで孤立してるわけじゃない。誰かに無理に合わせることもなく、自然にそこにいるような、妙な存在感を持った人だった。
穂乃歌は、一瞬だけこちらを見た。
私の目を、まっすぐに見たような気がした。
そしてすぐに、何事もなかったかのように視線を外し、自分の席に座って本を開いた。
本当に目が合っていたのか、私にはわからない。
見間違いかもしれないし、ただの偶然かもしれない。
でも――
目を逸らさなかった。
それだけのことで、胸がチクリとした。
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教室の中は今日も騒がしく、他の生徒たちは誰一人、私の存在を意識していない。
それが当たり前だ。私も、誰かと関わろうとはしてこなかった。
関わっても、傷つくだけだから。
誰かに言葉をかけても、無視されたり、笑われたり、怪訝な目で見られたり。
私の中では、それが“普通”だった。
でも、天海さんだけは――少しだけ違った。
特別に優しいわけでも、気さくでもない。
ただ、ちゃんと私を見たような気がした。
それが、嬉しくて。
それが、怖かった。
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昼休み。私はまた屋上へ向かった。
誰も来ない場所。誰も私を見ない空間。
風の音と、自分の心臓の音だけが耳に残る。
ポケットからスマホを取り出し、カメラを起動する。
ぼんやりとした画面の中で、無表情の自分が映る。
何度見ても、自分の顔は嫌いだ。
感情のない目。整ってもいないし、綺麗でもない。
これじゃあ、誰にも好かれないのも当然だ。
だけど。
今日、あの子が見たのは、この顔だった。
「もしかしたら、見間違いじゃないのかもしれない」
そんな希望が浮かんでは消え、また浮かんだ。
私はスマホのメモを開いて、いつものように今日の記録を残す。
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【100日後に死ぬ私 2日目】
昨日、声をかけることに失敗した。
今日は何もしていない。でも、ちょっとだけ違うことがあった。
クラスの子と目が合った。気がした。
その子は、天海 穂乃歌っていう名前の子。
私を見て、目を逸らさなかった。
本当に目が合ったのか、自信はない。
でも、あの瞬間、私はちゃんと“ここにいる”って思えた。
明日は、何か言えるだろうか。
……まだ怖いけど。
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スマホを閉じると、強い風が頬を撫でた。
私は少しだけ空を見上げる。
雲の向こうに、少しだけ光が見えたような気がした。