虚像
とあるところにいた少女は、ただひたすらに毎日を過ごしていたのです。
友人達が言う『カワイイ』『カッコいい』
食べ物などに対する『好き』
友に告げる『親愛』
それらすべてがあまり感じられない人でした。
そこにあるのはからっぽで、感情があまり理解出来ない子でした。
「好きってなぜ感じるのだろう」
そう考えては、分からないと決断するだけでした。
感情もよくわからないままで過ごす。それは何もなく、ただ時が過ぎていくだけでした。
でも、どこを見ても皆
『あの人が好き』
『あの人が嫌い』
というもので溢れているのです。
それがただ理解出来ず、少女は考えました。
「愛を持っている人が羨ましい」と。
彼女はそれを『理解』しようと努力しました。憧れに近づくため。
ですが、そんなものは叶わなかったのです。
理解出来ないということは、再現すらも出来ないということ。
ですが『好き』と口にするだけならいくらでも出来るのです。
好きな味も食べ物も分からない、好きな人も分からない。
だけれど、適当なものを見つけては「これを好きだ」と騙っていくだけでした。
世界の終末が来たとしても、死への恐怖は薄い。
憎しみ、恐れ、愛情。
どれも全て遠い世界のこと。
そうとしか考えられず、目の前に映る景色は全てが『映像』としか切り取ることが出来ませんでした。
「だって、『好き』って、皆が持っているんでしょう? 『嫌い』だって。でも、それが分からない。質問とかでよく訊かれるのなら、設定としてなければいけないでしょう? 『好き嫌い』って。」
どうしようもなく何かが鈍くて、だけれど勉強も運動もそこそこ出来る。
もし例えるのなら『虚像』。
『好き』と『嫌い』を偽り続ける。
理解出来なくても、「気持ち悪い」も分からない。
生き物としてとんでもなく欠落した、ソレは。
今日も生きている、呼吸をしている。
まだ死者の方が生気があるでしょう、ですが、
矛盾すらも飲み込んで、そして何事もなかったかのように生きる。
矛盾は人間が誰しも経験する事で、どんな悩みもちっぽけでしょうがないものとしか映らないのです。
普通の人ならば、葛藤こそするでしょう。
彼女には、そんなものはない。
自分すらも分からない、自分だけが分からない。
そんな『虚像』と『嘘』にまみれた日々が、この先何十年と続くのです。
__________これは、たったひとりの少女のお話し。
優しさも抱えられない、『教えられたから』で全てを生きるナニカのお話し。
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