◇
土をガラスの靴で踏みしめる。
私の頬を冷たい風が撫でた。
「本当にこっちであっているの?二人共。」
私がそう紅薔薇と赤い靴に聞くと、馬の上から赤い靴が言った。
「もちろん!どっちにしろ足跡がついてるんだから間違いないわ。
もう少ししたら狼の隠れ家が見えてくるはずよ。」
彼女が同意を促すように紅薔薇を見ると、彼は静かに頷いた。
どうやら本当らしい。...いや、ここまで来たんだから本当じゃないと困る。
そんなことに思いを巡らせていたら何やら騒がしい声が後ろから聞こえてきた。
「え〜くるみ割り人形が一目惚れで告白...。随分積極的なのね〜♡」
「はははは。狐の嫁入り、お前に言われる程では無いよ。」
「クララ...なんだか恥ずかしいよ...。」
狐の嫁入り、くるみ割り人形、円卓の騎士が恋愛話でキャッキャと賑わっている。
何故今から敵の隠れ家へ突撃するというこの状況で盛り上がれるのだろうか。
呆れすぎて溜息も出ない。
「はぁ...。」
結局、溜息は口からこぼれ落ちた。
背後で盛り上がる三人の声は緊張感など微塵も感じさせない。
これでは奇襲をしかけるどころか、まるでお花見の帰り道のようだ。
「...ねえ、聞こえてる? 狼に気付かれたら、不意打ちも何もないのよ?」
.....まあどうせもう彼らには気付かれているのだが。
私が振り返って釘を刺すと、狐の嫁入りが扇で口元を隠しながら、くすくすと笑った。
「あら、ごめんなさい。
でも、恋の噂話はどんな良薬よりも回りやすいものでしょう?ねえ、円卓の騎士?」
「...いや、僕はただ、クララの話を聞いていただけで...。」
円卓の騎士が目線を遠くへ逸らすが、その耳たぶは赤くなっている。
当のくるみ割り人形は、自慢したげな顔をしていた。
「もういいわ。ラプンツェル、あなたからも何か言ってやって。」
私が助けを求めると、彼は馬の手綱を握り直したまま、視線だけを前方に向けた。
「ほら、着いたよ。」
その低く短い声に、空気が一変した。
賑やかだった三人もぴたりと口を閉ざす。
木々の間に、古びた石造りの塔が見えた。蔦が絡まり、まるで巨大な獣がうずくまっているような不気味な静寂。
その入り口には、巨大な爪で引き裂かれたような跡が深く刻まれている。
「...あれが、狼の隠れ家ね。」
赤い靴が馬から飛び降り、軽やかに着地した。
「無事で帰れると良いわね、私達。」
そう言って私はガラスの靴に力を込め、一歩、狼の領域へと踏み出した。
◆
土をガラスの靴で踏みしめる。
私の頬を冷たい風が撫でた。
「本当にこっちであっているの?二人共。」
私がそう紅薔薇と赤い靴に聞くと、馬の上から赤い靴が言った。
「もちろん!どっちにしろ足跡がついてるんだから間違いないわ。
もう少ししたら狼の隠れ家が見えてくるはずよ。」
彼女が同意を促すように紅薔薇を見ると、彼は静かに頷いた。
どうやら本当らしい。...いや、ここまで来たんだから本当じゃないと困る。
そんなことに思いを巡らせていたら何やら騒がしい声が後ろから聞こえてきた。
「え〜くるみ割り人形が一目惚れで告白...。随分積極的なのね〜♡」
「はははは。狐の嫁入り、お前に言われる程では無いよ。」
「クララ...なんだか恥ずかしいよ...。」
狐の嫁入り、くるみ割り人形、円卓の騎士が恋愛話でキャッキャと賑わっている。
何故今から敵の隠れ家へ突撃するというこの状況で盛り上がれるのだろうか。
呆れすぎて溜息も出ない。
「はぁ...。」
結局、溜息は口からこぼれ落ちた。
背後で盛り上がる三人の声は緊張感など微塵も感じさせない。
これでは奇襲をしかけるどころか、まるでお花見の帰り道のようだ。
「...ねえ、聞こえてる? 狼に気付かれたら、不意打ちも何もないのよ?」
.....まあどうせもう彼らには気付かれているのだが。
私が振り返って釘を刺すと、狐の嫁入りが扇で口元を隠しながら、くすくすと笑った。
「あら、ごめんなさい。
でも、恋の噂話はどんな良薬よりも回りやすいものでしょう?ねえ、円卓の騎士?」
「...いや、僕はただ、クララの話を聞いていただけで...。」
円卓の騎士が目線を遠くへ逸らすが、その耳たぶは赤くなっている。
当のくるみ割り人形は、自慢したげな顔をしていた。
「もういいわ。ラプンツェル、あなたからも何か言ってやって。」
私が助けを求めると、彼は馬の手綱を握り直したまま、視線だけを前方に向けた。
「ほら、着いたよ。」
その低く短い声に、空気が一変した。
賑やかだった三人もぴたりと口を閉ざす。
木々の間に、古びた石造りの塔が見えた。蔦が絡まり、まるで巨大な獣がうずくまっているような不気味な静寂。
その入り口には、巨大な爪で引き裂かれたような跡が深く刻まれている。
「...あれが、狼の隠れ家ね。」
赤い靴が馬から飛び降り、軽やかに着地した。
「無事で帰れると良いわね、私達。」
そう言って私はガラスの靴に力を込め、一歩、狼の領域へと踏み出した。
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