◇
同時刻、少し離れた別の場所にて。
私達に灰被りが指示を出した。
「はぁい、わかってるってば。...でも、ちょっと数多すぎない?」
目の前に広がるのは、大木が多く生える森。そこを埋め尽くすのは、ざっと15匹の狼。
飢えた瞳を爛々と輝かせ、低く唸り声を上げる巨大な狼の群れだ。
「紅薔薇、あんまり返り血飛ばさないでよ? このドレス、今朝おろしたばっかりなんだから。」
「っせーな! アンタこそ貧血でひっくり返んなよ、赤い靴!」
髪を揺らし、紅薔薇が勢いよく走って数匹の狼を切り裂いていく。
能力なんてなくても、あいつのそこに居るだけで厄介だ。
突進してきた一頭の鼻面に、彼の容赦のないナイフが狼の急所を一発で仕留める。
「兵隊気取りのツラしてんじゃねぇよ、犬コロがッ!」
バキィッ、という嫌な音。紅薔薇に殴り飛ばされた狼は、転がって体を大木に打ちつけた。
...うわーかなり痛そう、あれ。
「ふふ、元気ねぇ。......じゃあ、私も少しお手伝いしようかしら。」
私の隣で、狐の嫁入りが艶然と微笑みながら『殺生石の勾玉』を弄んだ。
次の瞬間、空気がぐにゃりと歪む。
「ガウッ!?」
「グルァッ!」
狼たちが一斉に、何もない空間に向かって牙を剥き、互いに噛み合い始めた。
彼...いや、今は彼女...の『幻影』だ。ありもしない獲物を追いかけて、群れの統制がガタガタに崩れる。
「ねぇ、あっちに美味しいお肉があるわよ?
ほら、共食いなんてしてないで......あはは、嘘だけど♡」
彼女の狐火が青白く舞い、触れた狼の毛皮を焼き尽くしていく。
川に飛び込んでも消えないその炎に巻かれ、森に獣の悲鳴が響き渡った。
...そろそろ私も働くか。
「...よし、今。私の出番。」
ざっと500mlの血液が身体から力が抜けていく感覚と引き換えに、狼たちの手足に自分の意識がつながるのが分かる。
「...フォースパペッター!」
視界が急激に白く染まり、強烈な立ちくらみが襲う。けれど、楽しさの方が勝っていた。
私が指を動かすたびに、狼たちの手足があり得ない方向にひん曲がる。
「あはっ...! 今の私、最高に美人で、最高に恐ろしいと思わない!?」
私はフラつく体を無理やり支え、指をくいっと不自然な角度に曲げた。
それと同時に、一匹の狼の首が、バキッという音を立てて逆方向に折れ曲がる。
「キャウンッ!?」
「あはは! 逃げちゃダメだよ。お前の身体は、もう私の手の中にあるんだから!」
私が指揮者のように腕を振るえば、一匹の狼は意志に反して跳ね上がり、背後にいた仲間の喉笛をその牙で食らいついた。
絶叫。困惑。そして裏切り。
仲間に襲われた狼たちはパニックに陥り、紅薔薇と狐の嫁入りの餌食になっていく。
......気づけば、もう狼は全員血だらけの屍になっていた。
「...っ、ふぅ。......ちょっと、出しすぎたかな」
私はその場にへたり込む。視界がチカチカする。
ふと視界の端に、私の自慢の赤い靴が映った。
...私が手を汚してなお、こんなにもこの赤い靴は美しい。
「お前、顔色わりぃぞ。貧弱だな、相変わらず。」
紅薔薇がそう声をかけてきた。
戦いが終わっても、彼の口調は悪いままだ。
「二人ともお疲れ様。ご褒美に、後で美味しいいなり寿司、奢ってあげましょうか?」
狐の嫁入りが銀髪を揺らし、子狐のような手つきで私の頭を優しく撫でる。
先程までのチャラついたのは何処へ行ったのやら。
そんなことを思いながら私は思いっきり叫んだ。
「...あー疲れたー!早く灰被りのところへ行きましょ。」
そう言って、私は少しだけ、誰にも見えないように口角を上げた。
そして私は、狼の血で真っ赤に染まった戦場を、一歩、一歩、確かな足取りで踏みしめた。
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同時刻、少し離れた別の場所にて。
私達に灰被りが指示を出した。
「はぁい、わかってるってば。...でも、ちょっと数多すぎない?」
目の前に広がるのは、大木が多く生える森。そこを埋め尽くすのは、ざっと15匹の狼。
飢えた瞳を爛々と輝かせ、低く唸り声を上げる巨大な狼の群れだ。
「紅薔薇、あんまり返り血飛ばさないでよ? このドレス、今朝おろしたばっかりなんだから。」
「っせーな! アンタこそ貧血でひっくり返んなよ、赤い靴!」
髪を揺らし、紅薔薇が勢いよく走って数匹の狼を切り裂いていく。
能力なんてなくても、あいつのそこに居るだけで厄介だ。
突進してきた一頭の鼻面に、彼の容赦のないナイフが狼の急所を一発で仕留める。
「兵隊気取りのツラしてんじゃねぇよ、犬コロがッ!」
バキィッ、という嫌な音。紅薔薇に殴り飛ばされた狼は、転がって体を大木に打ちつけた。
...うわーかなり痛そう、あれ。
「ふふ、元気ねぇ。......じゃあ、私も少しお手伝いしようかしら。」
私の隣で、狐の嫁入りが艶然と微笑みながら『殺生石の勾玉』を弄んだ。
次の瞬間、空気がぐにゃりと歪む。
「ガウッ!?」
「グルァッ!」
狼たちが一斉に、何もない空間に向かって牙を剥き、互いに噛み合い始めた。
彼...いや、今は彼女...の『幻影』だ。ありもしない獲物を追いかけて、群れの統制がガタガタに崩れる。
「ねぇ、あっちに美味しいお肉があるわよ?
ほら、共食いなんてしてないで......あはは、嘘だけど♡」
彼女の狐火が青白く舞い、触れた狼の毛皮を焼き尽くしていく。
川に飛び込んでも消えないその炎に巻かれ、森に獣の悲鳴が響き渡った。
...そろそろ私も働くか。
「...よし、今。私の出番。」
ざっと500mlの血液が身体から力が抜けていく感覚と引き換えに、狼たちの手足に自分の意識がつながるのが分かる。
「...フォースパペッター!」
視界が急激に白く染まり、強烈な立ちくらみが襲う。けれど、楽しさの方が勝っていた。
私が指を動かすたびに、狼たちの手足があり得ない方向にひん曲がる。
「あはっ...! 今の私、最高に美人で、最高に恐ろしいと思わない!?」
私はフラつく体を無理やり支え、指をくいっと不自然な角度に曲げた。
それと同時に、一匹の狼の首が、バキッという音を立てて逆方向に折れ曲がる。
「キャウンッ!?」
「あはは! 逃げちゃダメだよ。お前の身体は、もう私の手の中にあるんだから!」
私が指揮者のように腕を振るえば、一匹の狼は意志に反して跳ね上がり、背後にいた仲間の喉笛をその牙で食らいついた。
絶叫。困惑。そして裏切り。
仲間に襲われた狼たちはパニックに陥り、紅薔薇と狐の嫁入りの餌食になっていく。
......気づけば、もう狼は全員血だらけの屍になっていた。
「...っ、ふぅ。......ちょっと、出しすぎたかな」
私はその場にへたり込む。視界がチカチカする。
ふと視界の端に、私の自慢の赤い靴が映った。
...私が手を汚してなお、こんなにもこの赤い靴は美しい。
「お前、顔色わりぃぞ。貧弱だな、相変わらず。」
紅薔薇がそう声をかけてきた。
戦いが終わっても、彼の口調は悪いままだ。
「二人ともお疲れ様。ご褒美に、後で美味しいいなり寿司、奢ってあげましょうか?」
狐の嫁入りが銀髪を揺らし、子狐のような手つきで私の頭を優しく撫でる。
先程までのチャラついたのは何処へ行ったのやら。
そんなことを思いながら私は思いっきり叫んだ。
「...あー疲れたー!早く灰被りのところへ行きましょ。」
そう言って、私は少しだけ、誰にも見えないように口角を上げた。
そして私は、狼の血で真っ赤に染まった戦場を、一歩、一歩、確かな足取りで踏みしめた。
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