◇
「北の森」へと続く道は、進むにつれて陽の光を拒むように木々が重なり合い、湿った土と獣の匂いが混じり始めていた。
私の胃痛は、物理的な痛みから「嫌な予感」へと変貌を遂げていた。
背後では、準備を終えた紅薔薇が、手入れの行き届いた武器を無造作に弄びながら歩いている。
一方の赤い靴は、鼻歌交じりで、まるでピクニックにでも行くかのような軽い足取りだった。
「...ねえ、灰被り。そんなに怖い顔しなくても、狼なんて案外チョロいかもしれないわよ?」
赤い靴がそう言った瞬間、私は眉をピクリと動かす。
「黙って、赤い靴。貴女のその楽観主義が私の神経を逆なでしているのが分からない?
......あいつら...もといあいつらの部下の狼たち...は貴女が思ってるより、湧いた脳みその持ち主よ。」
そう私が冷たく言い放つと、さらに後ろから「俺も!俺も怖い!」と狐の嫁入りが縋り付いてくる。
「離れて頂戴、あなたの鼻水が私のスーツにつくなんて御免よ。
...紅薔薇、さっき言っていた『王様気取り』っていうのは、具体的にどういうこと?
単に縄張り意識が強いだけじゃないんでしょ。」
紅薔薇は歩みを止めず、地面に落ちている枯れ枝をブーツで踏み砕いた。
嫌悪感を隠そうともしない低い声が響く。
「......あいつらは、ただ食うために狩りをしてるんじゃねぇ。
獲物を追い詰めて、絶望する顔を見て、それを『統治』だと思い込んでやがる。
村の連中が、自分たちのルールに従わない奴を指差して笑うのと一緒だ。」
「趣味が悪いわね。ますます紅茶が恋しくなったわ。」
「きっと相当の手練れよね、狼たちは。」
スキップしながら赤い靴がそう言った。
「間違いなくそうね。」
森の奥から、ヒュウ、と冷たい風が吹き抜ける。
「......ああ、ほらもう囲まれたわ。」
数は...そうね、20匹あたりと言ったところかしら。
どうやら狼たちは随分と私達___御伽噺保全委員会に警戒しているらしい。
ここまでの数を寄越すことは滅多にない、と 舌切り雀 から予め聞いている。
「戦闘ね、中々大規模の。」
「あーあ、最近は貧血になってなかったのになぁー。」
赤い靴が腕を鳴らす。
「チッ、お前らと戦闘なんて まじで最悪なんだけど。」
紅薔薇が短剣を取り出す。
「え、俺は!?俺はどうすれば良い!?」
「煩いわね、あなたは敵の挑発でもしながら、いつも通り戦いなさい。」
相変わらず狐の嫁入りは騒いでいる。
「酷い...。じゃ、ちょっと失礼。」
次の瞬間、狐の嫁入りの見た目が チャラチャラした男 から 妓女 に変わった。
「やる気になったみたいで良かったわ。」
そう言ったとき、もう私の胃痛は治っていた。
◆
「北の森」へと続く道は、進むにつれて陽の光を拒むように木々が重なり合い、湿った土と獣の匂いが混じり始めていた。
私の胃痛は、物理的な痛みから「嫌な予感」へと変貌を遂げていた。
背後では、準備を終えた紅薔薇が、手入れの行き届いた武器を無造作に弄びながら歩いている。
一方の赤い靴は、鼻歌交じりで、まるでピクニックにでも行くかのような軽い足取りだった。
「...ねえ、灰被り。そんなに怖い顔しなくても、狼なんて案外チョロいかもしれないわよ?」
赤い靴がそう言った瞬間、私は眉をピクリと動かす。
「黙って、赤い靴。貴女のその楽観主義が私の神経を逆なでしているのが分からない?
......あいつら...もといあいつらの部下の狼たち...は貴女が思ってるより、湧いた脳みその持ち主よ。」
そう私が冷たく言い放つと、さらに後ろから「俺も!俺も怖い!」と狐の嫁入りが縋り付いてくる。
「離れて頂戴、あなたの鼻水が私のスーツにつくなんて御免よ。
...紅薔薇、さっき言っていた『王様気取り』っていうのは、具体的にどういうこと?
単に縄張り意識が強いだけじゃないんでしょ。」
紅薔薇は歩みを止めず、地面に落ちている枯れ枝をブーツで踏み砕いた。
嫌悪感を隠そうともしない低い声が響く。
「......あいつらは、ただ食うために狩りをしてるんじゃねぇ。
獲物を追い詰めて、絶望する顔を見て、それを『統治』だと思い込んでやがる。
村の連中が、自分たちのルールに従わない奴を指差して笑うのと一緒だ。」
「趣味が悪いわね。ますます紅茶が恋しくなったわ。」
「きっと相当の手練れよね、狼たちは。」
スキップしながら赤い靴がそう言った。
「間違いなくそうね。」
森の奥から、ヒュウ、と冷たい風が吹き抜ける。
「......ああ、ほらもう囲まれたわ。」
数は...そうね、20匹あたりと言ったところかしら。
どうやら狼たちは随分と私達___御伽噺保全委員会に警戒しているらしい。
ここまでの数を寄越すことは滅多にない、と 舌切り雀 から予め聞いている。
「戦闘ね、中々大規模の。」
「あーあ、最近は貧血になってなかったのになぁー。」
赤い靴が腕を鳴らす。
「チッ、お前らと戦闘なんて まじで最悪なんだけど。」
紅薔薇が短剣を取り出す。
「え、俺は!?俺はどうすれば良い!?」
「煩いわね、あなたは敵の挑発でもしながら、いつも通り戦いなさい。」
相変わらず狐の嫁入りは騒いでいる。
「酷い...。じゃ、ちょっと失礼。」
次の瞬間、狐の嫁入りの見た目が チャラチャラした男 から 妓女 に変わった。
「やる気になったみたいで良かったわ。」
そう言ったとき、もう私の胃痛は治っていた。
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