「……飲みに、行くか?」
きっかけは福岡のその一言だった。その言葉に、暗く沈んでいた九州勢の顔が少し明るくなる。誰が何を言うわけでもなく顔を見合わせて頷いた。
「行くか」
都庁から少し離れたところに行き、適当な店に入る。全員が次の案を練るために、静かな場所を求めていた。だが、運命というのは不思議なもので、そう簡単に休ませてはくれないらしい。
「頼む!それ以上は納豆、たべないでくれ!奢るって言ったけどさ⁉止めて!」
「黙ってろ魅力度ランキング最下位!」
「お前だって最下位から2番目だろ!」
店の奥から埼玉と茨城の言い争う声。その言葉に九州勢は固まる。全員の脳裏に「終わった」という文字がよぎった。
「なんであいつらがこけ…?」
熊本が完全に困惑した声で問うが、誰も答えない。いや、答えられない。
「逃げるぞ」
長崎がそう言ったその瞬間、奥の席から出てきた神奈川と目が合った。
「あ」
「あ」
神奈川がにこにこしながら近づいてきた。
「九州の皆さん、一緒にどうですか?」
「終わった」
そんな佐賀の呟きをよそに、神奈川に引きずり込まれる形で店の奥に案内された。
そこには納豆のパックを文字通り山積みにして、追加注文をしようとしている茨城と、それを半泣きで止める埼玉。
玉こんにゃくを頬張っている群馬と、いちごを食べながらその様子を笑って眺めている栃木、そして落花生を注文しようとしている千葉がいた。
「ちょ、離せって神奈川!俺たちは今、それどころじゃ……」
福岡の抵抗も虚しく、九州勢は関東勢が占拠する巨大な座敷席へと押し込まれた。
「まあまあ。都庁帰り?顔色が死んでるよ」
神奈川が爽やかな笑顔でビールを注文する。その横では、茨城がさらに納豆のパックを開け、強烈な香りが座敷に充満していた。
「おい!いい加減にしろ、店中の客がいなくなるぞ!」
埼玉の悲鳴に近いツッコミを無視して、茨城は醤油をドボドボとかける。
「うるせぇよ。東京に数字でボコられだ後は、発酵食品でメンタル整えなぐぢゃやってらんねえんだわ」
「……お前らも、やられたのか」
熊本が呆れ顔で座ると、群馬が玉こんにゃくを串ごと差し出してきた。
「やられたっつーか、あいつの『正論パンチ』は日常茶飯事だからな。俺らなんか、この前『温泉の効能を根拠を用いて示せ』って言われて、全員で論文漁らされたんだぜ?」
「あいつ、マジでいっぺん、利根川に沈めてやるべか……」
栃木が真っ赤ないちごを握りつぶしそうな勢いで呟く。その言葉に、宮崎は(どこの地方も考えることは一緒なんだな)と、妙な親近感を覚えた。
「で、九州のアンタらは何を言われたの?」
千葉が落花生の殻を器用に割りながら、面白そうに首を傾げる。
福岡は、自分たちが必死に作った「主観モデル」が、東京の「運用改善」という名のカウンターで粉砕された経緯をかいつまんで話した。
一瞬、関東勢の動きが止まった。埼玉が深い深いため息をついた。
「あー、それね」
神奈川が苦い顔をして言う。
「東京の[漢字]十八番[/漢字][ふりがな]おはこ[/ふりがな]だよ。『君たちのデータは素晴らしい、活用させてもらう。だから予算は出さない(=もっと効率よく働け)』。これ、通称『都知的なカツアゲ』って呼んでるんだ」
「カツアゲ……」
九州勢が絶句する。
「そうよ。あいつ、自分一人じゃ現場のデータ持ってないからね。私たちが必死に集めた不満や実態を吸い上げて、一番安上がりな解決策に変換して突き返してくるの。悪魔でしょ?」
神奈川がジョッキを煽りながら、さらりと恐ろしいことを言った。
「じゃあ、俺たちは……あいつに塩を送っただけなのか?」
鹿児島の声が低く響く。場の空気がピリついたその時、それまで無言で納豆を混ぜていた茨城が、箸を止めて九州勢を見た。
「でもな。アンタらが『感情』数字にしたがら、あいづは『運用改善』っていう具体的なカード切らざる得なぐなったんだよ?」
「え?」
「今までは『気のせいだ』で済まされでだものが、ルール(運用)になったんだ。それは一歩前進だよ。ま、あいづのやり方はクソいじやげるけんどな!」」
茨城がガハハと笑い、納豆をご飯に叩きつける。
「……そう、ね。少しは、動かせたのかな」
宮崎は、自分の拳の力が少し抜けるのを感じた。
「よし!こうなったら今日は九州も関東も関係ない!東京の悪口大会だ!」
千葉がテーブルを叩き、店員に「芋焼酎と日本酒、全部持ってきて!」と叫ぶ。
「いっぱい飲むのぞ〜」と沖縄が喜色満面の様子で端っこの方にちょこんと座り、鹿児島が「高知も呼ぶか?」呟きながらスマホを出し、「待って、これ以上は人数ふやさないで」と神奈川に止められている。
「ちょっ、誰が払うんだよこれ!」
埼玉の叫びを、大分の「ま、なんくるないさー(※沖縄のマネ)」という適当な相槌が打ち消した。
夜はまだ始まったばかり。東京という巨大な壁に挑んだ敗北者たちは、納豆の香りと焼酎の熱気に包まれながら、次なる「反撃」の種をまき散らしていくのだった。
きっかけは福岡のその一言だった。その言葉に、暗く沈んでいた九州勢の顔が少し明るくなる。誰が何を言うわけでもなく顔を見合わせて頷いた。
「行くか」
都庁から少し離れたところに行き、適当な店に入る。全員が次の案を練るために、静かな場所を求めていた。だが、運命というのは不思議なもので、そう簡単に休ませてはくれないらしい。
「頼む!それ以上は納豆、たべないでくれ!奢るって言ったけどさ⁉止めて!」
「黙ってろ魅力度ランキング最下位!」
「お前だって最下位から2番目だろ!」
店の奥から埼玉と茨城の言い争う声。その言葉に九州勢は固まる。全員の脳裏に「終わった」という文字がよぎった。
「なんであいつらがこけ…?」
熊本が完全に困惑した声で問うが、誰も答えない。いや、答えられない。
「逃げるぞ」
長崎がそう言ったその瞬間、奥の席から出てきた神奈川と目が合った。
「あ」
「あ」
神奈川がにこにこしながら近づいてきた。
「九州の皆さん、一緒にどうですか?」
「終わった」
そんな佐賀の呟きをよそに、神奈川に引きずり込まれる形で店の奥に案内された。
そこには納豆のパックを文字通り山積みにして、追加注文をしようとしている茨城と、それを半泣きで止める埼玉。
玉こんにゃくを頬張っている群馬と、いちごを食べながらその様子を笑って眺めている栃木、そして落花生を注文しようとしている千葉がいた。
「ちょ、離せって神奈川!俺たちは今、それどころじゃ……」
福岡の抵抗も虚しく、九州勢は関東勢が占拠する巨大な座敷席へと押し込まれた。
「まあまあ。都庁帰り?顔色が死んでるよ」
神奈川が爽やかな笑顔でビールを注文する。その横では、茨城がさらに納豆のパックを開け、強烈な香りが座敷に充満していた。
「おい!いい加減にしろ、店中の客がいなくなるぞ!」
埼玉の悲鳴に近いツッコミを無視して、茨城は醤油をドボドボとかける。
「うるせぇよ。東京に数字でボコられだ後は、発酵食品でメンタル整えなぐぢゃやってらんねえんだわ」
「……お前らも、やられたのか」
熊本が呆れ顔で座ると、群馬が玉こんにゃくを串ごと差し出してきた。
「やられたっつーか、あいつの『正論パンチ』は日常茶飯事だからな。俺らなんか、この前『温泉の効能を根拠を用いて示せ』って言われて、全員で論文漁らされたんだぜ?」
「あいつ、マジでいっぺん、利根川に沈めてやるべか……」
栃木が真っ赤ないちごを握りつぶしそうな勢いで呟く。その言葉に、宮崎は(どこの地方も考えることは一緒なんだな)と、妙な親近感を覚えた。
「で、九州のアンタらは何を言われたの?」
千葉が落花生の殻を器用に割りながら、面白そうに首を傾げる。
福岡は、自分たちが必死に作った「主観モデル」が、東京の「運用改善」という名のカウンターで粉砕された経緯をかいつまんで話した。
一瞬、関東勢の動きが止まった。埼玉が深い深いため息をついた。
「あー、それね」
神奈川が苦い顔をして言う。
「東京の[漢字]十八番[/漢字][ふりがな]おはこ[/ふりがな]だよ。『君たちのデータは素晴らしい、活用させてもらう。だから予算は出さない(=もっと効率よく働け)』。これ、通称『都知的なカツアゲ』って呼んでるんだ」
「カツアゲ……」
九州勢が絶句する。
「そうよ。あいつ、自分一人じゃ現場のデータ持ってないからね。私たちが必死に集めた不満や実態を吸い上げて、一番安上がりな解決策に変換して突き返してくるの。悪魔でしょ?」
神奈川がジョッキを煽りながら、さらりと恐ろしいことを言った。
「じゃあ、俺たちは……あいつに塩を送っただけなのか?」
鹿児島の声が低く響く。場の空気がピリついたその時、それまで無言で納豆を混ぜていた茨城が、箸を止めて九州勢を見た。
「でもな。アンタらが『感情』数字にしたがら、あいづは『運用改善』っていう具体的なカード切らざる得なぐなったんだよ?」
「え?」
「今までは『気のせいだ』で済まされでだものが、ルール(運用)になったんだ。それは一歩前進だよ。ま、あいづのやり方はクソいじやげるけんどな!」」
茨城がガハハと笑い、納豆をご飯に叩きつける。
「……そう、ね。少しは、動かせたのかな」
宮崎は、自分の拳の力が少し抜けるのを感じた。
「よし!こうなったら今日は九州も関東も関係ない!東京の悪口大会だ!」
千葉がテーブルを叩き、店員に「芋焼酎と日本酒、全部持ってきて!」と叫ぶ。
「いっぱい飲むのぞ〜」と沖縄が喜色満面の様子で端っこの方にちょこんと座り、鹿児島が「高知も呼ぶか?」呟きながらスマホを出し、「待って、これ以上は人数ふやさないで」と神奈川に止められている。
「ちょっ、誰が払うんだよこれ!」
埼玉の叫びを、大分の「ま、なんくるないさー(※沖縄のマネ)」という適当な相槌が打ち消した。
夜はまだ始まったばかり。東京という巨大な壁に挑んだ敗北者たちは、納豆の香りと焼酎の熱気に包まれながら、次なる「反撃」の種をまき散らしていくのだった。