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都道府県は忙しい

#12

敗北の後

「……飲みに、行くか?」

 きっかけは福岡のその一言だった。その言葉に、暗く沈んでいた九州勢の顔が少し明るくなる。誰が何を言うわけでもなく顔を見合わせて頷いた。

「行くか」

 都庁から少し離れたところに行き、適当な店に入る。全員が次の案を練るために、静かな場所を求めていた。だが、運命というのは不思議なもので、そう簡単に休ませてはくれないらしい。

「頼む!それ以上は納豆、たべないでくれ!奢るって言ったけどさ⁉止めて!」

「黙ってろ魅力度ランキング最下位!」

「お前だって最下位から2番目だろ!」

 店の奥から埼玉と茨城の言い争う声。その言葉に九州勢は固まる。全員の脳裏に「終わった」という文字がよぎった。

「なんであいつらがこけ…?」

 熊本が完全に困惑した声で問うが、誰も答えない。いや、答えられない。

「逃げるぞ」

長崎がそう言ったその瞬間、奥の席から出てきた神奈川と目が合った。

「あ」

「あ」

 神奈川がにこにこしながら近づいてきた。

「九州の皆さん、一緒にどうですか?」

「終わった」

 そんな佐賀の呟きをよそに、神奈川に引きずり込まれる形で店の奥に案内された。

 そこには納豆のパックを文字通り山積みにして、追加注文をしようとしている茨城と、それを半泣きで止める埼玉。

 玉こんにゃくを頬張っている群馬と、いちごを食べながらその様子を笑って眺めている栃木、そして落花生を注文しようとしている千葉がいた。

「ちょ、離せって神奈川!俺たちは今、それどころじゃ……」

 福岡の抵抗も虚しく、九州勢は関東勢が占拠する巨大な座敷席へと押し込まれた。

「まあまあ。都庁帰り?顔色が死んでるよ」

 神奈川が爽やかな笑顔でビールを注文する。その横では、茨城がさらに納豆のパックを開け、強烈な香りが座敷に充満していた。

「おい!いい加減にしろ、店中の客がいなくなるぞ!」

 埼玉の悲鳴に近いツッコミを無視して、茨城は醤油をドボドボとかける。

「うるせぇよ。東京に数字でボコられだ後は、発酵食品でメンタル整えなぐぢゃやってらんねえんだわ」

「……お前らも、やられたのか」

 熊本が呆れ顔で座ると、群馬が玉こんにゃくを串ごと差し出してきた。

「やられたっつーか、あいつの『正論パンチ』は日常茶飯事だからな。俺らなんか、この前『温泉の効能を根拠を用いて示せ』って言われて、全員で論文漁らされたんだぜ?」

「あいつ、マジでいっぺん、利根川に沈めてやるべか……」

 栃木が真っ赤ないちごを握りつぶしそうな勢いで呟く。その言葉に、宮崎は(どこの地方も考えることは一緒なんだな)と、妙な親近感を覚えた。

「で、九州のアンタらは何を言われたの?」

 千葉が落花生の殻を器用に割りながら、面白そうに首を傾げる。

 福岡は、自分たちが必死に作った「主観モデル」が、東京の「運用改善」という名のカウンターで粉砕された経緯をかいつまんで話した。

 一瞬、関東勢の動きが止まった。埼玉が深い深いため息をついた。

「あー、それね」

 神奈川が苦い顔をして言う。

「東京の[漢字]十八番[/漢字][ふりがな]おはこ[/ふりがな]だよ。『君たちのデータは素晴らしい、活用させてもらう。だから予算は出さない(=もっと効率よく働け)』。これ、通称『都知的なカツアゲ』って呼んでるんだ」

「カツアゲ……」

 九州勢が絶句する。

「そうよ。あいつ、自分一人じゃ現場のデータ持ってないからね。私たちが必死に集めた不満や実態を吸い上げて、一番安上がりな解決策に変換して突き返してくるの。悪魔でしょ?」

 神奈川がジョッキを煽りながら、さらりと恐ろしいことを言った。

「じゃあ、俺たちは……あいつに塩を送っただけなのか?」

 鹿児島の声が低く響く。場の空気がピリついたその時、それまで無言で納豆を混ぜていた茨城が、箸を止めて九州勢を見た。

「でもな。アンタらが『感情』数字にしたがら、あいづは『運用改善』っていう具体的なカード切らざる得なぐなったんだよ?」

「え?」

「今までは『気のせいだ』で済まされでだものが、ルール(運用)になったんだ。それは一歩前進だよ。ま、あいづのやり方はクソいじやげるけんどな!」」

 茨城がガハハと笑い、納豆をご飯に叩きつける。

「……そう、ね。少しは、動かせたのかな」

 宮崎は、自分の拳の力が少し抜けるのを感じた。

「よし!こうなったら今日は九州も関東も関係ない!東京の悪口大会だ!」

 千葉がテーブルを叩き、店員に「芋焼酎と日本酒、全部持ってきて!」と叫ぶ。

「いっぱい飲むのぞ〜」と沖縄が喜色満面の様子で端っこの方にちょこんと座り、鹿児島が「高知も呼ぶか?」呟きながらスマホを出し、「待って、これ以上は人数ふやさないで」と神奈川に止められている。

「ちょっ、誰が払うんだよこれ!」

 埼玉の叫びを、大分の「ま、なんくるないさー(※沖縄のマネ)」という適当な相槌が打ち消した。

 夜はまだ始まったばかり。東京という巨大な壁に挑んだ敗北者たちは、納豆の香りと焼酎の熱気に包まれながら、次なる「反撃」の種をまき散らしていくのだった。

作者メッセージ

熊本「なんであいつらがここに…?」

茨城「うるせぇよ。東京に数字でボコられた後は、発酵  
   食品でメンタル整えないとやってられないんだわ」

栃木「あいつ、マジでいっぺん利根川に沈めてやろう 
   か……」

茨城「でもな。アンタらが『感情』を数字にしたから、
   あいつは『運用改善』っていう具体的なカードを
   切らざるを得なくなったんだよ?」
  「今までは『気のせいだ』で済まされてたものが、
   ルール(運用)になったんだ。それは一歩前進だ
   よ。ま、あいつのやり方はクソムカつくけど
   な!」

2026/05/08 15:26

映画大好き
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