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都道府県は忙しい

#10

地方会議

「こりゃあ無理ばい!」

 会議後、福岡の家に集まった九州の全員と沖縄が悲鳴を上げた。

 机に広げられた資料は、もはや資料と呼べる代物ではなかった。各県が持ち寄ったデータ、バラバラのフォーマット、単位も定義も揃っていない数値の山。紙もタブレットも関係なく、机が数字で埋まっている。

「気温ん基準がまず違うやん」

 福岡県が眉間を押さえながら言う。

「日平均、最高気温、湿度込みん指数…どれ使うかで全部変わってしまうね」

「体感温度も入れてえよね」

 大分県が控えめに口を挟む。

「やかぃ、そりゃ主観だって言わるるって前回」

 宮崎が言い返す。普段だったら絶対にそんなきつい言い方はしない。だが、期限は一カ月。その余裕のなさが出ている。

「搬送数ベースで組むとが現実的じゃなかか?」

 熊本が静かに言った。

「結果として倒れた人数なら、文句は言わせにくか」

「じゃっどん、それじゃと予防にならん」

 鹿児島県が低く返す。

「倒れてから対策すっとな?」

 空気が一気に険悪になる。言い分としてはどちらも正しい。

「……全部、入るるしかねえっちゃない?」

 宮崎が小さく呟く。

「気温も、湿度も、搬送数も…それぞれ重みつけて、一つん指標にする」

「複合指標か」

 福岡が顎に手を当てる。

「ばってんそれ、重みどう決めると?」

 誰も答えられない。どの数字をどれだけ重要とするか。それはつまり、何を優先するかという意思決定そのものだ。

「…実測データから回帰じ出す?」

 大分が恐る恐る言う。

「過去ん気象データと搬送数ん相関じ…」

「サンプルが足らん地域はどがんする」

 長崎が噛みつくように言う。

「離島てぃがろー、データ偏てぃちゃとーんさぁ」

 沖縄県が珍しく真剣な表情で言う。終わった。全員がそう思った。視線が一斉に逸れる。

「……じゃあ全国平均で補完する?」

長崎が恐る恐る言う。

「それやと地域差ば潰すなって話に戻るやろ」

 福岡が即座に否定する。完全に詰んだ。誰かがため息をつく。沈黙が場を支配する。時間だけが、彼らを嘲笑うように過ぎていく。ふと、宮崎の頭の中で、前回の東京の声が再生された。

 感情は、予算に変換できない

「……いや」

 顔を上げる。

「逆に、感情を数字にすりゃいいっちゃ」

「は?」

 福岡が眉を上げる。

「満足度やら、不快指数やら、アンケートでん何でんいい。人がどれだけきちいと感じたかを数値化して…」

「それ、通るて思う?」

 即答だった。福岡じゃない。熊本。静かで、でもはっきりした否定。

「東京たい」

 言葉が詰まる。分かってる。そんな曖昧なもの、通るわけがない。

「……でも、それ切りうっせたら、現実とズレる」

 鹿児島が少し考えて、納得したように頷く。

「確かに。搬送されちょらんどん限界やったし、たくさんいっとじゃなかか?そげんと全部無視して“効率”だけで組んだや、絶対どっかで破綻すっに決まっちょっじゃらせんか」

 また長い沈黙。今度は誰もため息すらつかない。福岡はじっと目を閉じて、くるくるとペンを回す。何か考え込んでいるようだった。やがて、椅子のきしむ音がした。

「……二本立てにするか」

 福岡が立ち上がりながら続ける。

「客観データんモデルと、主観指標んモデル。両方出す」

「は?」

「で、ズレば見しぇる」

 ペンをくるくる回しながら、にやりと笑う。

「これだけ乖離しとーって証明できりゃあ、無視できんやろ」

 なるほど。それなら、主観を直接採用しなくてもいい。無視したときのリスクとして提示できる。

「……やるか」

 熊本が短く言う。

「計算量、エグかばい」

佐賀が顔を覆って言う。

「今しゃら何ば」

 福岡が笑う。鹿児島は何も言わない。でも、資料を引き寄せた。大分が小さく頷く。佐賀の顔が「うわぁ…」と引きつる。沖縄がいつも通り「なんくるないさー!」と言いながらパソコンを開く。

 これからだ。これから、東京を唸らす資料をつくるのだ。

作者メッセージ

佐賀「こりゃあ無理だよ!」

福岡「気温の基準がまず違うじゃん」
  「日平均、最高気温、湿度込み指数…どれ使うかで全部変わってしまうね」

大分「体感温度も入れたいよね」

宮崎「だから、それは主観だって言われてるって前回」

熊本「搬送数ベースで組むと現実的じゃないか?」
  「結果として倒れた人数なら、文句は言わせにくい」

鹿児島「でも、それだと予防にならない」
   「倒れてから対策するのか?」

宮崎「…全部、入れるしかないんじゃない?」
  「気温も、湿度も、搬送数も…それぞれ重みをつけて、一つの指標にする」

福岡「でもそれ、重みどう決めるの?」

大分「…実測データから回帰で出す?」
  「過去の気象データと搬送数の相関で…」

長崎「サンプルが足りない地域はどうする」

沖縄「離島とか、データ偏っちゃってるよ」

福岡「それだと地域差を潰すなって話に戻るでしょ」

宮崎「逆に、感情を数字にすればいいんだ」
  「満足度とか、不快指数とか、アンケートでも何でもいい。人がどれだけきついと感じたかを数値化して…」

熊本「それ、通ると思う?」
  「東京だぞ」

宮崎「……でも、それ切り捨てたら、現実とズレる」
  
鹿児島「確かに。搬送されてないけど限界だった人、たくさんいるんじゃないか?そういうの全部無視して“効率”だけで組んだら、絶対どこかで破綻するに決まってるじゃないか」

福岡「客観データのモデルと、主観指標のモデル。両方出す」
  「で、ズレを見せる」
  「これだけ乖離してるって証明できれば、無視できないでしょ」

佐賀「計算量、エグいよ」

福岡「今さら何を」

2026/05/02 13:03

映画大好き
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都道府県擬人化

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