海が見える高台に、彼は登った。青い空、穏やかな海、賑やかな街並み。少し冷たい海風が彼の髪を揺らす。
「今年も来たな」
誰に言うわけでもなくぽつりと呟く。今日、3月11日は忘れられない記憶がある。彼は、何事もなく静まり返っている海を見て少し安心したように目を細めた。その時、背後から遠慮のない、でもどこか優しい足音が近づいてきた。
「よう、福島」
名前を呼ばれて振り返る。そこには宮城と岩手が立っていた。宮城は都会的で少し派手な格好をしている。岩手は静かに海を見ていた。ばらばらな3人だが、その瞳には消えない記憶がある。
「宮城か。今日は風が気持ちいいな」
「そうだね。寒さのなかに、春の匂いがする」
宮城は微笑して答えた。多くを語らない岩手は、2人に缶コーヒーを差し出した。
「飲め。冷える」
「ありがとな、岩手」
3人はしばらくのあいだ、言葉を交わさずに海を見つめていた。午後2時46分。黙祷のサイレンが遠くで鳴り響く。彼らは静かに目を閉じた。
[水平線]
目を開けると、いつの間にか後ろに青森、秋田、山形の3人が揃っていた。
「みんな、来ていたのか」
「そりゃあ、来るだろ」
青森が少し照れ隠しように鼻をすする。秋田は綺麗な所作で髪を整え、山形は大きな風呂敷を抱えて笑っていた。
「皆さん、これ、うちの美味しいもの持ってきたので食べましょう」
山形がそう言うと、張り詰めていた空気がふっと緩んだ。
「なあ」
福島が不意に口を開いた。
「俺の名前を聞いて、みんなが何を思い浮かべるか、昔はそれが怖かった。かわいそうだとか、大変だとか…汚染されてるとか、そう言う色だけで見られるのが」
宮城が隣で頷いた。福島は続ける。
「でも、今は少し違うんだ。この名前を背負って、ここで生きている。それが俺の誇りだって、ようやくちゃんと思えるようになった」
秋田が柔らかく笑って、彼の肩に手を置く。
「知ってるわ。あなたが誰よりも粘り強くて、優しいところ」
「そうだよ。君のところの桃の花、そろそろ咲くよね。楽しみにしてるよ」
山形が言った。少ししんみりしていると、宮城が突然手を叩いた。
「さあ、しんみりするのはここまで!山形、風呂敷の中身何?芋煮?玉こんにゃく?」
「お楽しみだよ。青森、岩手、火の準備手伝ってくれる?」
「任せろ」
「良いよ」
福島はいつもみたいに賑やかになり始めた仲間の背中を見ながら、もう一度海を見た。悲しみも、傷跡も消えない。けど、それ以上に積み上げてきた「今日」がある。
「福島!こっち来い!」
「分かった」
福島は小さく頷き、一度も振り返ることなく、仲間たちのもとへ歩き出した。
「今年も来たな」
誰に言うわけでもなくぽつりと呟く。今日、3月11日は忘れられない記憶がある。彼は、何事もなく静まり返っている海を見て少し安心したように目を細めた。その時、背後から遠慮のない、でもどこか優しい足音が近づいてきた。
「よう、福島」
名前を呼ばれて振り返る。そこには宮城と岩手が立っていた。宮城は都会的で少し派手な格好をしている。岩手は静かに海を見ていた。ばらばらな3人だが、その瞳には消えない記憶がある。
「宮城か。今日は風が気持ちいいな」
「そうだね。寒さのなかに、春の匂いがする」
宮城は微笑して答えた。多くを語らない岩手は、2人に缶コーヒーを差し出した。
「飲め。冷える」
「ありがとな、岩手」
3人はしばらくのあいだ、言葉を交わさずに海を見つめていた。午後2時46分。黙祷のサイレンが遠くで鳴り響く。彼らは静かに目を閉じた。
[水平線]
目を開けると、いつの間にか後ろに青森、秋田、山形の3人が揃っていた。
「みんな、来ていたのか」
「そりゃあ、来るだろ」
青森が少し照れ隠しように鼻をすする。秋田は綺麗な所作で髪を整え、山形は大きな風呂敷を抱えて笑っていた。
「皆さん、これ、うちの美味しいもの持ってきたので食べましょう」
山形がそう言うと、張り詰めていた空気がふっと緩んだ。
「なあ」
福島が不意に口を開いた。
「俺の名前を聞いて、みんなが何を思い浮かべるか、昔はそれが怖かった。かわいそうだとか、大変だとか…汚染されてるとか、そう言う色だけで見られるのが」
宮城が隣で頷いた。福島は続ける。
「でも、今は少し違うんだ。この名前を背負って、ここで生きている。それが俺の誇りだって、ようやくちゃんと思えるようになった」
秋田が柔らかく笑って、彼の肩に手を置く。
「知ってるわ。あなたが誰よりも粘り強くて、優しいところ」
「そうだよ。君のところの桃の花、そろそろ咲くよね。楽しみにしてるよ」
山形が言った。少ししんみりしていると、宮城が突然手を叩いた。
「さあ、しんみりするのはここまで!山形、風呂敷の中身何?芋煮?玉こんにゃく?」
「お楽しみだよ。青森、岩手、火の準備手伝ってくれる?」
「任せろ」
「良いよ」
福島はいつもみたいに賑やかになり始めた仲間の背中を見ながら、もう一度海を見た。悲しみも、傷跡も消えない。けど、それ以上に積み上げてきた「今日」がある。
「福島!こっち来い!」
「分かった」
福島は小さく頷き、一度も振り返ることなく、仲間たちのもとへ歩き出した。