この日、国内で唯一ある小児専門の病院へと訪れていた俺は、待合室のベンチに腰掛けながら自分の名前が呼ばれるのを待っていた。
そんな俺の隣に腰掛けているのは、ソワソワと落ち着きのない様子を見せている三十代らしき男性。
「初めてですか?」
そう声をかければ、不安そうな表情のままこちらを振り返った男性。
「ええ、そうなんです。本当に大丈夫なのか不安で……」
「それなら大丈夫ですよ、ここは信頼できますから」
「失礼ですが、以前にもここへ?」
「ええ、今回で二人目です」
「そうですか……」
俺の言葉を聞いて安堵したのか、強張っていた表情を少しだけ和らげた男性。
──と、その時。受付から名前を呼ばれ、男性に向けて軽く会釈をした俺は席を立った。その足で受付の前までやってくると、おもむろに口を開く。
「……それで、金額はどれくらいに?」
「三千万になります」
「そうですか……。ありがとうございます」
人一人の命の値段が三千万とは、果たして安いのか高いのか──。その基準こそは分からなかったが、少なくとも俺にとって大金であることには違いない。
神妙な面持ちで現金の入った袋を受け取ると、俺はそのまま振り返ることもなく病院を後にした。