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旧日本の関東地方を覆う結界、『四方明暗結界』。半円球のような形で四方へと張られており、機械によって四六時中、印力が注ぎ込まれている。
その半円球の中心となって塔のように聳え立つのが、日の本の中枢機関、『[蛍黒寮][けいこくりょう]』。現在、人類が持ち得る全ての技術を費やして建設された、読者の方からしたら近未来的な建物である。
地上200階。最上階に位置する特別会議室。そこは、蛍黒寮の権力者が集まる無法地帯。
≪地上200階 到着しました ゲートが開きます≫
ホール型の浮遊運搬機、『エレホール』が自動音声を告げる。いつもなら、扉が開いた瞬間に総帥は飛び出していくんだろうけれど、パフォーマンスの為にも今日は静かだ。俺が腕で総帥に進行方向を先導する。
丁度なのか狙ってなのか、エレホールから降りた瞬間にまたもう一つ、エレホールが到着した。そこから出てくる銀髪の少女を見た瞬間、黒いフードの下といえども目を逸らしたくなった。
「?あら、総帥じゃない」
群青の刺繍が施された真っ白なドレスに身を包んだ15歳程の少女が、横向きの円柱状に巻いた左右の長い銀髪を揺らしながら近づいてくる。真っ青な吊り目の瞳が総帥を正面から捉えた。
「やっほー、ルリチャン。相変わらずかわいードレスだねー!」
「当たり前でしょう、水面の誇りなのだから。それに今日は『御三家』の報告会なのよ、気合いを入れないとドレスも可哀想でしょう」
たかが報告会にドレスは必要ないと感じるのは俺だけか。
そう思いつつも、少女の屈託のない笑顔に、つい頬を緩めてしまう。・・・・・・ああ、だから俺は馬鹿なんだ。
「あら、後ろの黒尽くめは?気色悪いわね」
ふと話をふられて、肩が揺れそうになるのを理性で抑える。駄目だ、動揺してはいけない。
「ああ、彼?この子はねー、『死神』だよーん♪」
「・・・死神、ですって?」
少女の目が吊り上がったのは、気のせいではない。
「あの、死神?」
「そー♪君たちの行動を監視し、また援護している縁の下の力持ち!死神が1人だよっ!」
「・・・・・・」
総帥、あんたのテンションで全部台無しだ。
「・・・・・・話が聞かせてもらえる、ということでいいのね?」
「もっちろん♪声は聞かせてあげらんないけどねー」
「いいわよ。・・・覚えておきなさい、『死神』」
きりりと吊り上がった目には敵意の色が見えて、それに安堵してしまった俺は、悪くない筈だ。
「さーて、半年に一回の御三家報告会、はっじまっるよー!」
全面が黒いステンドグラス張りの特別会議室。太陽の光が室内に反射しプリズムを生む中、カンカンカン、と手元の裁判で使うアレを叩きながら大声で叫ぶ総帥に誰も目を向けはしない。・・・・・・こわぁ。
「総帥、茶番はそこまでです。我輩は遊びに来たのではない」
「右に同じく、ですね。私も、これから手術の予定が入っておりまして。あら、水面のお二人、机にお掛けになってださい。ルリさんはまだ未熟ですから、貴方が横で指導するのが最も良いかと」
「ご厚意痛み入る。・・・ルリ」
「・・・ふん、ありがとう」
「おやおや」
もう既に陰謀が張り巡らされていると疑うしかない会話。いや、一方的に張ったのはあの女性なんだけどな。
部屋の中央に位置する長机。幾つもの椅子が陳列された上座には総帥が座り、背後に俺が控え、その右手には先程の銀髪の少女と同じく銀髪の女性。その向かい、総帥の左手には燃えるように赤い袴を着た赤髪の男性、その隣に花模様を拵えた黒い軍服の女性。その背後には、それぞれ赤髪の女性、黒髪の男性が控えている。
「はいはーい静かにーっ!」
あんたが1番うるせぇよ。
「本日は、御三家の報告会ということでっ!半年間の記録を報告してもらいまーす!誰から行くー?」
「では、我輩かの」
赤髪の男性が椅子を引いて立ち上がり、背後の女性から紙束を受け取った。
「御三家が一家、赤坂家からの報告である。
我輩が統括する遊撃部隊では、この半年間、200件もの魔物討伐を行い、被害は死亡者3名、重症5名、その内再起不能4名。以前提出した損害累積調によって隊員は補充されたが、現在在籍しているハンターは計34名と1人定員が満たない。最前線にて部隊を派遣している我々にとって、1人でも欠けたら大きな不利益を被る。早急な対処を願いたい。
・・・・・・そして、赤坂家個人での報告である。
我が赤坂家、そして開発部隊で管理している蛍黒寮の対人システムにて、妙な不具合が見られた。実害はないのだが、印力による人体ホログラムが転送の度に歪むようでな。如月殿とシステムを見直しているが、改善には至っていない。実害はないので焦ることはないが、これから慎重に検討していくつもりである。
・・・以上が報告であった」
そう言うと、バサリと腕を広げて着席し、紙束を後ろの女性へと返した。そこに、銀髪の少女が眉を顰めて口を開いた。
「何、実害はない、って。実害は出てなくとも、実際に何かあったなら早急な対処が必要でしょう。この後すぐに実害が出たらどうするつもりなの」
「・・・青二歳にはわからぬようだな。実害はない、つまり、当分の間は問題ない、と言っておるのだ。言葉の意味もわからぬのか、箱入り娘」
「なんですって!?」
ガタン、と椅子が音を立てるが、横の女性が少女の肩を抑える。無理やり座らせた後、立ち上がって頭を下げた。その拍子に、彼女の首元に掛かる白銀のヘッドホンがカチャリと音を立てる。
「獄次郎殿、我が妹が申し訳ない。後でよく言い聞かせる故」
「今からでも遅くはないぞ。勿論、お主が当主になった方が話は早いが」
「・・・・・・私は当主の器ではない」
長い銀髪が顔の半分を隠しているため、俺からでは表情が詳しく見えない。ただ、当主の器、という言葉に、俺まで刺されただけ。
胸の痛みに知らんぷりしながら、女性の方を見やる。
「当主の器を満たす基準、それは御二方が一番よく御存じな筈。私はそれに乗っ取り、側近という位置に着いただけ。過ぎた発言はお控えいただきたい」
「・・・これは失敬」
赤髪の男が腕を組み直し、深々と椅子に腰を落ち着ける。その向かいの少女は、膨れっ面を隠そうともしない。大きくなってもまだ子供だな、と感傷に浸るも、現実は待てをしてくれなどはしない。
毛先が紫色である黒髪の女性が、軍服のマントから腕を上げた。
「達者な口は落ち着きましたか?なら、私が次に報告をしたいのですが」
「いーよっ!どんどんいこー!」
両家のプライドの押し付け合いには我観せずの姿勢であるような総帥は、万歳した両手を左右に大きく振りながら、話を促した。
それを見てクスリと笑った軍服の女性は、懐から資料を取り出して読み上げ始める。
「では、私から・・・御三家が一家、菜ノ花家の報告を行います。
私が統括している医療部隊では、半年間の間に幾つかの仕組みを作りました。
その一つが処方箋システム。風邪を引いたハンター全てを診ることはできかねます。そこで、ある特定の基準を満たした患者にのみ、処方箋として全自動的に薬を提供する仕組みです。そこらへんの機械開発は開発部隊第五席との連携をしつつ、こちらからは副隊長を貸し出しし、協力体制を敷かせていただきました。
等、半年間は蛍黒寮に在籍するハンターたちの健康のため、新システム開発に尽力したため、医療派遣などは最小限に留めています。結果、半年間の死亡者は2名、重症者は0名。現在の隊員数は34名と、遊撃部隊と同じく定員には1名足りない状況です。並びに対処をお願い致します。
そしてこれからの懸念点ですが・・・副隊長兼側近の菜ノ花燈馬より、開発部隊第五席との解析結果を報告致します」
そしてチラリと後ろに目配せすると、背後にいた黒髪の男性・・・よく見れば燈色のインナーカラーがあった・・・が一歩前へ出て、女性から資料を受け取った。
「代わりまして、医療部隊副隊長、及び御三家が一家菜ノ花家当主側近、菜ノ花燈馬より此度の懸念点についてご説明させていただきます。
今回、戦闘地への医療派遣の際のデータを開発部隊第五席の尽力の元、全てを統計として解析いたしましたところ、以前との大きな違いが発覚しました。
一つ、魔物の強さ。装甲の厚さ、硬さのみならず、攻撃力や体内印力量も2倍以上になっているとの解析結果が出ました。これについては、日々の訓練にてレベルを上げ、日の本の平和と更なる発展のために防衛に尽力すべきだと考えます。
次に、魔物の出現率。以前までは各部隊の保護地域にて出現する魔物の数は、一夜にして1匹、最大でも5匹とのことでしたが、格段に急増しています。この半年間の最頻値データでは、一夜にして最低2匹、最大で8匹とのことです。数としてみればさして変わりませんが、先程申し上げた魔物の強さの件も加えると、大きな問題として発展するでしょう。
以上が俺からの報告、及び菜ノ花家の報告となります」
男性が一歩後ろへ下がると、女性も椅子へと腰を下ろした。
「魔物の活性化・・・『魔弾侵攻』から数十年、類を見ない事例ですな。ですが紫乃殿、なぜ医療の部隊がそのようなものを解析する必要が?」
「元々は、任務内容と負傷者情報を照らし合わせ、効率的な医療派遣をするためのものだったんですけど、予想外の数値が出たようで。卯月さんが目を白黒させながら解析をした結果が、先ほど話した通りです」
「成程のう、あの兎もどきが・・・」
「この件については、後日の隊長会議にて検討することにしましょう」
赤髪の男性は思い出すかのように目を細めると、向かいへチラリと目をやる。
「で?水面家からの報告はあるのか?」
「・・・お姉様」
少女が隣へ顔を向けると、銀髪の女性が資料を手渡す。椅子を引いて立ち上がり、その資料を手に取った少女は、眉を顰めつつも話し出した。
「御三家が一家、水面家からの報告よ。
私から報告することは主に2つ。水面家の現在の建て直し状況と、寒露から貰った情報について。
まずは建て直し状況についてね。もうほとんどは終わっていて、あとは新しい使用人を数名、保護地域から募集する予定よ。現在所有している物資の資料は先日総帥にお姉様が提出したわ。詳しくは各自それを見ればいいと思う。
・・・そして、寒露から提出された資料について、ここで開示する」
資料を一枚めくり、こちらに鋭い視線を投げかけてきた少女に、フードの中で目を伏せた。
「・・・先日、情報部隊を任せている寒露から連絡が届いたわ。全ての指揮権は寒露に譲渡しているけれど、私たちも知っておくべき情報はこちらにも渡せるようになっているの。
内容は、『隊員が一名殺された。現場には彼岸花が一輪』。・・・わかるわよね、『死神』」
あたりの空気が変わる。印力の波が彼女の方へ押し寄せて、膨大なエネルギーを作り上げる。彼女の長い銀髪は風に巻き上がって、左の首筋の『魔印』が青く光った。
「何?なんで一言も喋らないのかしら。そうよね、図星だからよね。言い返すこともできないんでしょう?貴方が、殺したんでしょ!?情報部隊の隊員も、私の家族も!」
目から迸る涙が空中に浮かび、だんだんと肥大し、彼女の周りを流れ始める。
「ねぇ、何か言ったらどう!?何も言えないの!?」
「落ち着け、ルリ」
「お姉様!憎くないのですか、『死神』が!」
「そういう問題じゃない」
女性の顔の半分を隠した銀髪の隙間から、白藍に光る『魔印』が光った。
その瞬間、少女の動きがぴたりと止まり、ふらりと支えをなくす。崩れ落ちる少女を床に落ちる前に抱き止めた女性は、印力の波を抑え、意識がない少女を椅子に座らせた。そして、上座に向かって深々と腰を折る。
「すまない、皆の衆。こうなる前に止めておくべきだった。ルリは感情が昂りやすい。故に、『魔印』の制御がまだ安定していない。本当に、」
「言い訳を言うならば後にしろ、サルカ殿。我輩はお主だけは認めておる」
頭を下げ続ける女性に、赤髪の男性がピシャリと言葉を投げつけた。
「獄次郎殿、」
「私もですよ、サルカさん。ルリさんは未だに幼く未熟。ですが、貴方は違う。『あの』水面家で育ったにも関わらず、闇に飲まれることなく正常な思考を持っている。その結果が今の地位です。貴方が謝る理由がどこにあるというのか」
「、」
『あの』。その理由を、彼女と俺はよく知っている。
「・・・お気遣い感謝する。では総帥、次は貴方だ」
「はーいっ!可愛い可愛い総帥ちゃんからの報告だよーっ!」
ああ、本当に台無しだよ総帥。今の雰囲気をどこに飛ばしたんだ、あれ、見えないなぁ。星になったのか、真っ昼間なのに?
「君たちの報告、とーっても素晴らしかったよー!聞いてるこっちが見惚れちゃうくらi「報告はないのか、総帥殿」あるよーん!それでねそれでね、イッチバンかっこ良かったのは、やっぱり紫乃チャ「報告がございませんのなら帰りますね」本当に帰ろうとしないでーっ!あのねあのね、サルカチャンの凛々しい姿にあたしの心が勃っ「いかがわしい内容ならば貴方の耳を貫きます」やめて鼓膜無くなっちゃう!」
なんだ、この茶番は。
「総帥殿、報告とは何か我輩が述べよう。膨大な量の情報をわかりやすく、簡潔に、だ」
「オッケー!」
本当にオッケーか。無理やり目をバチコンすんな痛いわ。てか怖いわ。もうやだ何この人。
「じゃ、あたしからの報告は2つってことかなー?えっと、ひとつは今年度の新隊員選抜について!あとは・・・さっきもルリチャンが言ってたように!『死神』チャンについてー!」
・・・総帥。そんなニコニコしながら俺を指差さないでくれ。周りを見てみろ。怖い視線が約10個の目ん玉から飛んでくるんですけど。
その半円球の中心となって塔のように聳え立つのが、日の本の中枢機関、『[蛍黒寮][けいこくりょう]』。現在、人類が持ち得る全ての技術を費やして建設された、読者の方からしたら近未来的な建物である。
地上200階。最上階に位置する特別会議室。そこは、蛍黒寮の権力者が集まる無法地帯。
≪地上200階 到着しました ゲートが開きます≫
ホール型の浮遊運搬機、『エレホール』が自動音声を告げる。いつもなら、扉が開いた瞬間に総帥は飛び出していくんだろうけれど、パフォーマンスの為にも今日は静かだ。俺が腕で総帥に進行方向を先導する。
丁度なのか狙ってなのか、エレホールから降りた瞬間にまたもう一つ、エレホールが到着した。そこから出てくる銀髪の少女を見た瞬間、黒いフードの下といえども目を逸らしたくなった。
「?あら、総帥じゃない」
群青の刺繍が施された真っ白なドレスに身を包んだ15歳程の少女が、横向きの円柱状に巻いた左右の長い銀髪を揺らしながら近づいてくる。真っ青な吊り目の瞳が総帥を正面から捉えた。
「やっほー、ルリチャン。相変わらずかわいードレスだねー!」
「当たり前でしょう、水面の誇りなのだから。それに今日は『御三家』の報告会なのよ、気合いを入れないとドレスも可哀想でしょう」
たかが報告会にドレスは必要ないと感じるのは俺だけか。
そう思いつつも、少女の屈託のない笑顔に、つい頬を緩めてしまう。・・・・・・ああ、だから俺は馬鹿なんだ。
「あら、後ろの黒尽くめは?気色悪いわね」
ふと話をふられて、肩が揺れそうになるのを理性で抑える。駄目だ、動揺してはいけない。
「ああ、彼?この子はねー、『死神』だよーん♪」
「・・・死神、ですって?」
少女の目が吊り上がったのは、気のせいではない。
「あの、死神?」
「そー♪君たちの行動を監視し、また援護している縁の下の力持ち!死神が1人だよっ!」
「・・・・・・」
総帥、あんたのテンションで全部台無しだ。
「・・・・・・話が聞かせてもらえる、ということでいいのね?」
「もっちろん♪声は聞かせてあげらんないけどねー」
「いいわよ。・・・覚えておきなさい、『死神』」
きりりと吊り上がった目には敵意の色が見えて、それに安堵してしまった俺は、悪くない筈だ。
「さーて、半年に一回の御三家報告会、はっじまっるよー!」
全面が黒いステンドグラス張りの特別会議室。太陽の光が室内に反射しプリズムを生む中、カンカンカン、と手元の裁判で使うアレを叩きながら大声で叫ぶ総帥に誰も目を向けはしない。・・・・・・こわぁ。
「総帥、茶番はそこまでです。我輩は遊びに来たのではない」
「右に同じく、ですね。私も、これから手術の予定が入っておりまして。あら、水面のお二人、机にお掛けになってださい。ルリさんはまだ未熟ですから、貴方が横で指導するのが最も良いかと」
「ご厚意痛み入る。・・・ルリ」
「・・・ふん、ありがとう」
「おやおや」
もう既に陰謀が張り巡らされていると疑うしかない会話。いや、一方的に張ったのはあの女性なんだけどな。
部屋の中央に位置する長机。幾つもの椅子が陳列された上座には総帥が座り、背後に俺が控え、その右手には先程の銀髪の少女と同じく銀髪の女性。その向かい、総帥の左手には燃えるように赤い袴を着た赤髪の男性、その隣に花模様を拵えた黒い軍服の女性。その背後には、それぞれ赤髪の女性、黒髪の男性が控えている。
「はいはーい静かにーっ!」
あんたが1番うるせぇよ。
「本日は、御三家の報告会ということでっ!半年間の記録を報告してもらいまーす!誰から行くー?」
「では、我輩かの」
赤髪の男性が椅子を引いて立ち上がり、背後の女性から紙束を受け取った。
「御三家が一家、赤坂家からの報告である。
我輩が統括する遊撃部隊では、この半年間、200件もの魔物討伐を行い、被害は死亡者3名、重症5名、その内再起不能4名。以前提出した損害累積調によって隊員は補充されたが、現在在籍しているハンターは計34名と1人定員が満たない。最前線にて部隊を派遣している我々にとって、1人でも欠けたら大きな不利益を被る。早急な対処を願いたい。
・・・・・・そして、赤坂家個人での報告である。
我が赤坂家、そして開発部隊で管理している蛍黒寮の対人システムにて、妙な不具合が見られた。実害はないのだが、印力による人体ホログラムが転送の度に歪むようでな。如月殿とシステムを見直しているが、改善には至っていない。実害はないので焦ることはないが、これから慎重に検討していくつもりである。
・・・以上が報告であった」
そう言うと、バサリと腕を広げて着席し、紙束を後ろの女性へと返した。そこに、銀髪の少女が眉を顰めて口を開いた。
「何、実害はない、って。実害は出てなくとも、実際に何かあったなら早急な対処が必要でしょう。この後すぐに実害が出たらどうするつもりなの」
「・・・青二歳にはわからぬようだな。実害はない、つまり、当分の間は問題ない、と言っておるのだ。言葉の意味もわからぬのか、箱入り娘」
「なんですって!?」
ガタン、と椅子が音を立てるが、横の女性が少女の肩を抑える。無理やり座らせた後、立ち上がって頭を下げた。その拍子に、彼女の首元に掛かる白銀のヘッドホンがカチャリと音を立てる。
「獄次郎殿、我が妹が申し訳ない。後でよく言い聞かせる故」
「今からでも遅くはないぞ。勿論、お主が当主になった方が話は早いが」
「・・・・・・私は当主の器ではない」
長い銀髪が顔の半分を隠しているため、俺からでは表情が詳しく見えない。ただ、当主の器、という言葉に、俺まで刺されただけ。
胸の痛みに知らんぷりしながら、女性の方を見やる。
「当主の器を満たす基準、それは御二方が一番よく御存じな筈。私はそれに乗っ取り、側近という位置に着いただけ。過ぎた発言はお控えいただきたい」
「・・・これは失敬」
赤髪の男が腕を組み直し、深々と椅子に腰を落ち着ける。その向かいの少女は、膨れっ面を隠そうともしない。大きくなってもまだ子供だな、と感傷に浸るも、現実は待てをしてくれなどはしない。
毛先が紫色である黒髪の女性が、軍服のマントから腕を上げた。
「達者な口は落ち着きましたか?なら、私が次に報告をしたいのですが」
「いーよっ!どんどんいこー!」
両家のプライドの押し付け合いには我観せずの姿勢であるような総帥は、万歳した両手を左右に大きく振りながら、話を促した。
それを見てクスリと笑った軍服の女性は、懐から資料を取り出して読み上げ始める。
「では、私から・・・御三家が一家、菜ノ花家の報告を行います。
私が統括している医療部隊では、半年間の間に幾つかの仕組みを作りました。
その一つが処方箋システム。風邪を引いたハンター全てを診ることはできかねます。そこで、ある特定の基準を満たした患者にのみ、処方箋として全自動的に薬を提供する仕組みです。そこらへんの機械開発は開発部隊第五席との連携をしつつ、こちらからは副隊長を貸し出しし、協力体制を敷かせていただきました。
等、半年間は蛍黒寮に在籍するハンターたちの健康のため、新システム開発に尽力したため、医療派遣などは最小限に留めています。結果、半年間の死亡者は2名、重症者は0名。現在の隊員数は34名と、遊撃部隊と同じく定員には1名足りない状況です。並びに対処をお願い致します。
そしてこれからの懸念点ですが・・・副隊長兼側近の菜ノ花燈馬より、開発部隊第五席との解析結果を報告致します」
そしてチラリと後ろに目配せすると、背後にいた黒髪の男性・・・よく見れば燈色のインナーカラーがあった・・・が一歩前へ出て、女性から資料を受け取った。
「代わりまして、医療部隊副隊長、及び御三家が一家菜ノ花家当主側近、菜ノ花燈馬より此度の懸念点についてご説明させていただきます。
今回、戦闘地への医療派遣の際のデータを開発部隊第五席の尽力の元、全てを統計として解析いたしましたところ、以前との大きな違いが発覚しました。
一つ、魔物の強さ。装甲の厚さ、硬さのみならず、攻撃力や体内印力量も2倍以上になっているとの解析結果が出ました。これについては、日々の訓練にてレベルを上げ、日の本の平和と更なる発展のために防衛に尽力すべきだと考えます。
次に、魔物の出現率。以前までは各部隊の保護地域にて出現する魔物の数は、一夜にして1匹、最大でも5匹とのことでしたが、格段に急増しています。この半年間の最頻値データでは、一夜にして最低2匹、最大で8匹とのことです。数としてみればさして変わりませんが、先程申し上げた魔物の強さの件も加えると、大きな問題として発展するでしょう。
以上が俺からの報告、及び菜ノ花家の報告となります」
男性が一歩後ろへ下がると、女性も椅子へと腰を下ろした。
「魔物の活性化・・・『魔弾侵攻』から数十年、類を見ない事例ですな。ですが紫乃殿、なぜ医療の部隊がそのようなものを解析する必要が?」
「元々は、任務内容と負傷者情報を照らし合わせ、効率的な医療派遣をするためのものだったんですけど、予想外の数値が出たようで。卯月さんが目を白黒させながら解析をした結果が、先ほど話した通りです」
「成程のう、あの兎もどきが・・・」
「この件については、後日の隊長会議にて検討することにしましょう」
赤髪の男性は思い出すかのように目を細めると、向かいへチラリと目をやる。
「で?水面家からの報告はあるのか?」
「・・・お姉様」
少女が隣へ顔を向けると、銀髪の女性が資料を手渡す。椅子を引いて立ち上がり、その資料を手に取った少女は、眉を顰めつつも話し出した。
「御三家が一家、水面家からの報告よ。
私から報告することは主に2つ。水面家の現在の建て直し状況と、寒露から貰った情報について。
まずは建て直し状況についてね。もうほとんどは終わっていて、あとは新しい使用人を数名、保護地域から募集する予定よ。現在所有している物資の資料は先日総帥にお姉様が提出したわ。詳しくは各自それを見ればいいと思う。
・・・そして、寒露から提出された資料について、ここで開示する」
資料を一枚めくり、こちらに鋭い視線を投げかけてきた少女に、フードの中で目を伏せた。
「・・・先日、情報部隊を任せている寒露から連絡が届いたわ。全ての指揮権は寒露に譲渡しているけれど、私たちも知っておくべき情報はこちらにも渡せるようになっているの。
内容は、『隊員が一名殺された。現場には彼岸花が一輪』。・・・わかるわよね、『死神』」
あたりの空気が変わる。印力の波が彼女の方へ押し寄せて、膨大なエネルギーを作り上げる。彼女の長い銀髪は風に巻き上がって、左の首筋の『魔印』が青く光った。
「何?なんで一言も喋らないのかしら。そうよね、図星だからよね。言い返すこともできないんでしょう?貴方が、殺したんでしょ!?情報部隊の隊員も、私の家族も!」
目から迸る涙が空中に浮かび、だんだんと肥大し、彼女の周りを流れ始める。
「ねぇ、何か言ったらどう!?何も言えないの!?」
「落ち着け、ルリ」
「お姉様!憎くないのですか、『死神』が!」
「そういう問題じゃない」
女性の顔の半分を隠した銀髪の隙間から、白藍に光る『魔印』が光った。
その瞬間、少女の動きがぴたりと止まり、ふらりと支えをなくす。崩れ落ちる少女を床に落ちる前に抱き止めた女性は、印力の波を抑え、意識がない少女を椅子に座らせた。そして、上座に向かって深々と腰を折る。
「すまない、皆の衆。こうなる前に止めておくべきだった。ルリは感情が昂りやすい。故に、『魔印』の制御がまだ安定していない。本当に、」
「言い訳を言うならば後にしろ、サルカ殿。我輩はお主だけは認めておる」
頭を下げ続ける女性に、赤髪の男性がピシャリと言葉を投げつけた。
「獄次郎殿、」
「私もですよ、サルカさん。ルリさんは未だに幼く未熟。ですが、貴方は違う。『あの』水面家で育ったにも関わらず、闇に飲まれることなく正常な思考を持っている。その結果が今の地位です。貴方が謝る理由がどこにあるというのか」
「、」
『あの』。その理由を、彼女と俺はよく知っている。
「・・・お気遣い感謝する。では総帥、次は貴方だ」
「はーいっ!可愛い可愛い総帥ちゃんからの報告だよーっ!」
ああ、本当に台無しだよ総帥。今の雰囲気をどこに飛ばしたんだ、あれ、見えないなぁ。星になったのか、真っ昼間なのに?
「君たちの報告、とーっても素晴らしかったよー!聞いてるこっちが見惚れちゃうくらi「報告はないのか、総帥殿」あるよーん!それでねそれでね、イッチバンかっこ良かったのは、やっぱり紫乃チャ「報告がございませんのなら帰りますね」本当に帰ろうとしないでーっ!あのねあのね、サルカチャンの凛々しい姿にあたしの心が勃っ「いかがわしい内容ならば貴方の耳を貫きます」やめて鼓膜無くなっちゃう!」
なんだ、この茶番は。
「総帥殿、報告とは何か我輩が述べよう。膨大な量の情報をわかりやすく、簡潔に、だ」
「オッケー!」
本当にオッケーか。無理やり目をバチコンすんな痛いわ。てか怖いわ。もうやだ何この人。
「じゃ、あたしからの報告は2つってことかなー?えっと、ひとつは今年度の新隊員選抜について!あとは・・・さっきもルリチャンが言ってたように!『死神』チャンについてー!」
・・・総帥。そんなニコニコしながら俺を指差さないでくれ。周りを見てみろ。怖い視線が約10個の目ん玉から飛んでくるんですけど。