放課後交換日記
#1
第一章:転校生と黒いノート
春の終わり、風はまだ冷たく、空は灰色に沈んでいた。
[漢字]倉淵[/漢字][ふりがな]くらぶち[/ふりがな] [漢字]集[/漢字][ふりがな]あつま[/ふりがな]は、古びた駅舎を背に、見知らぬ街の空気を吸い込んだ。
この街には、何かが沈んでいる。そう感じたのは、ただの勘だったのか、それとも…。
中学三年の春。
転校初日、集は静かに教室の扉を開けた。
ざわめきが一瞬止まり、次に起こるのは、決まりきった歓迎の儀式。
担任の先生が名前を告げ、集は一礼し、空いている席へと歩いた。
その席は、窓際の最後列。
外には校庭と、遠くに山の稜線が見えた。
風が吹くたび、カーテンが揺れ、光と影が机の上を踊った。
昼休み、誰も話しかけてこない。
集はそれを気にしなかった。
孤独は、彼にとって慣れ親しんだ友人のようなものだった。
だが、放課後。
教室に戻ると、机の上にそれはあった。
黒いノート。
表紙には何も書かれていない。
ただ、異様なほどに黒い。
まるで、光を吸い込むような黒。
集はそれを手に取った。
重さは普通。だが、手のひらに残る感触が、どこか冷たい。
ページを開くと、そこには文字が並んでいた。
「今日から、君も書いてね。順番は、席順で回るから。」
その文字は、誰の筆跡とも言えない。
男でも女でもない。
大人でも子供でもない。
ただ、そこに“在る”というだけの文字。
集はページをめくった。
そこには、昨日の日付で、前の持ち主の文章が綴られていた。
「今日、校庭の桜の下で、誰かが泣いていた。
顔は見えなかったけど、涙の音が聞こえた気がした。」
その日記は、詩のようで、夢のようで、そしてどこか現実だった。
翌日、集は校庭の桜の下で、誰かが泣いているのを見た。
それは、昨日の日記に書かれていた通りだった。
そして、ノートは次の席へと回っていった。
一周回るまで、三週間。
その間、集はただ、読むだけだった。
だが、三週間後。
最後のページに、奇妙な文字が現れた。
「六月三日、教室の時計が止まる。
その瞬間、時間も止まる。」
集はその日を待った。
そして、六月三日。
教室の時計は、確かに止まった。
秒針が、音を立てずに、静止した。
その瞬間、教室の空気が凍ったように感じた。
誰も気づいていない。
だが、集だけが知っていた。
“何か”が、日記を書いている。
それは、クラスの誰でもない。
人間でもない。
ただ、未来を知っている“何か”。
そしてまた、ノートは回り始める。
放課後の教室に、黒いノートが静かに佇む。
それは、たった一年間の、不可解な出来事の始まりだった。
[漢字]倉淵[/漢字][ふりがな]くらぶち[/ふりがな] [漢字]集[/漢字][ふりがな]あつま[/ふりがな]は、古びた駅舎を背に、見知らぬ街の空気を吸い込んだ。
この街には、何かが沈んでいる。そう感じたのは、ただの勘だったのか、それとも…。
中学三年の春。
転校初日、集は静かに教室の扉を開けた。
ざわめきが一瞬止まり、次に起こるのは、決まりきった歓迎の儀式。
担任の先生が名前を告げ、集は一礼し、空いている席へと歩いた。
その席は、窓際の最後列。
外には校庭と、遠くに山の稜線が見えた。
風が吹くたび、カーテンが揺れ、光と影が机の上を踊った。
昼休み、誰も話しかけてこない。
集はそれを気にしなかった。
孤独は、彼にとって慣れ親しんだ友人のようなものだった。
だが、放課後。
教室に戻ると、机の上にそれはあった。
黒いノート。
表紙には何も書かれていない。
ただ、異様なほどに黒い。
まるで、光を吸い込むような黒。
集はそれを手に取った。
重さは普通。だが、手のひらに残る感触が、どこか冷たい。
ページを開くと、そこには文字が並んでいた。
「今日から、君も書いてね。順番は、席順で回るから。」
その文字は、誰の筆跡とも言えない。
男でも女でもない。
大人でも子供でもない。
ただ、そこに“在る”というだけの文字。
集はページをめくった。
そこには、昨日の日付で、前の持ち主の文章が綴られていた。
「今日、校庭の桜の下で、誰かが泣いていた。
顔は見えなかったけど、涙の音が聞こえた気がした。」
その日記は、詩のようで、夢のようで、そしてどこか現実だった。
翌日、集は校庭の桜の下で、誰かが泣いているのを見た。
それは、昨日の日記に書かれていた通りだった。
そして、ノートは次の席へと回っていった。
一周回るまで、三週間。
その間、集はただ、読むだけだった。
だが、三週間後。
最後のページに、奇妙な文字が現れた。
「六月三日、教室の時計が止まる。
その瞬間、時間も止まる。」
集はその日を待った。
そして、六月三日。
教室の時計は、確かに止まった。
秒針が、音を立てずに、静止した。
その瞬間、教室の空気が凍ったように感じた。
誰も気づいていない。
だが、集だけが知っていた。
“何か”が、日記を書いている。
それは、クラスの誰でもない。
人間でもない。
ただ、未来を知っている“何か”。
そしてまた、ノートは回り始める。
放課後の教室に、黒いノートが静かに佇む。
それは、たった一年間の、不可解な出来事の始まりだった。