ここは不思議な宝石屋。
「春下ー」
テスト返し、自分の苗字が呼ばれる。
「は…はいッッ」
緊張しすぎて、裏返った声で返事をした。
「お前もうちょっとやる気出せよな…酷い点数だぞ。」
受け取るときの、先生の声。
う…そうですよね…と思いながらも、自分の掌に挟まれた点数をちらりと覗き込む。
いつもの先生の文字で、58点と書かれていた。
良いのか?…良くないか‥
一応、40点未満は赤点とみなされるこの学校では「なんとかいけた」くらいだろう。
ただ、先生がどうとか同級生がどうとかは正直どうでも良く。
怖いのは、お母さんからの "期待" と、お父さんからの "𠮟責" 。
「貴方なら出来るよね?」というされたくもない勝手な期待を抱かれ、期待と少しでも外れた場合は「なんでこんなことも出来ないんだ」と怒られる。
自分の子供で競馬を楽しんでいるようなものだ。
_「はあ、家に帰りたくない…」
夕焼けと冷たい風に包まれながら、今日もまたいつもの帰路につく。
朱く照らしつけるその空は、人間の気持ちも分からないだろう。
分かりたくもないはずだ。
憂鬱な気分に浸っていると、[大文字]びゅん、[/大文字]とひときわ大きめな風が私を遮った。
髪の毛がぱさっと揺れる。
長い髪の毛が目に入りそうで、ふと目を閉じた。
次の瞬間目を開けると、そこはまるで見たこともない世界が広がっていた。
がらくたっぽい、でも "誰かに愛されたような" 、そんな温かみがあるところだった。
「壊れてもなお愛され続けるロボット」、が何気に合っているかもしれない。
きょろきょろと辺りを見回していると、1つ目に入った看板があった。
「メノウ [小文字]宝石屋[/小文字]」と書かれてある、少し錆びた看板だ。
気になって、そのメノウという宝石屋のドアを開けてみた。
からんと鈴が1つ鳴る。
同時に、細身の男性がこちらを見た。
「あら_お客様ですね、いらっしゃいませ。」
糸目の男性は、にこりと笑顔を向けた。
「あ、え…と、ここは宝石を売ってるんですか?」
「そうだぞ~」
男性の隣に居た、つり目気味の女性が男性の代わりに返事をする。
「私は翠玉、そしてこちらが_」
「珊瑚!よろしくー」
翠玉という男性が、珊瑚さんの声と同時に椅子に座る。
「それでー…貴方のお悩みはなんですか?」
いつもと変わりないような顔で、私に問いかけた。
でも、なんで悩みがあるってわかったんだろう?言ってない …よね?
「ここは、人が悩みを感じたときだけに行ける場所なんですよ。だから貴方も何か…悩みがあったのでは?」
顔に出るタイプではないはずなのだが、翠玉さんがまるで私の心を読んだかの様に答えた。
「は、はい…実は、ありまして」
翠玉さんは、ふわりと柔い笑顔を見せた後、こう言った。
「やはりそうでしたか…お疲れ様でした。是非、私たちに聞かせていただけませんか?」
私は、今にも頬をつたいそうな涙を必死に、必死に抑えて言った。
「テストの点数が、あまり良くなくて…親には勝手に期待されてるから、その…言え、なくて」
私が言い終わると、隣で聞いてくれていた珊瑚さんが言った。
「わかるわ…で、それで…あんたはどうなりたい?」
どうなりたい…?
私が首をかしげると、翠玉が飽きれた顔をして珊瑚へ言った。
「珊瑚、語彙力が足りません」
「は?うるさいわ」
「元はと言えば珊瑚、あなたでしょう」
「黙れ糸目」
バカップル喧嘩を聞いてるみたいだと思ってしまったら駄目なのだろうけれど、頭に思い浮かんできてしまった。
「ふふ、っ」
翠玉さんと珊瑚さんが喧嘩を辞めて、私を見た。
[大文字]「ちょちょちょ、ここ笑うとこじゃないって!!!」[/大文字]
珊瑚さんの顔が、ほのかに赤く染まっているのが見えた。
_「話を戻しましょう…、こちらの店では、名前の通り宝石を売っています。」
翠玉さんが、ようやく話を戻した。
「私たちが、お客様もとい依頼人様に合う宝石をお選び致します。石言葉などを主に参考にしているのですよ」
そこで、私は思い出した。
代金とか、いるよね?私お金持ってない。
「あの…それってどれくらいかかるんですか?」
私が恐る恐る聞くと、さっきまで赤かった珊瑚さんが最初の時と同じ感じで答えた。
「ああ、ここは… "[漢字]代物[/漢字][ふりがな]シロモノ[/ふりがな]" は貰うけど "[漢字]代金[/漢字][ふりがな]ダイキン[/ふりがな]" は貰わないんだ」
代物?代金?とりあえずお金以外の何かが取られるって事は分かる。だがそれ以外はさっぱりわからない。
「はは、簡単に言うとお金は貰わない。特に変なものも貰わない。安心してくれよ」
珊瑚さんが笑いながらそう言った。
_「あれ、そういえば翠玉さんは?」
さっきまで前に座って話を聞いてくれていた翠玉さんが、気が付くと居ない。
「ああ、丁度宝石を取りに行ってるんだよ」
なるほど。
確かに、忘れてたけどここは宝石屋さんだもんな…。
がらり、とドアの開く音が向こうからして、はっとそちらへ顔を向ける。
そこには翠玉さんが立っていた。
翠玉さんの手の中には、光り輝いたものがある。
それが宝石…?
「おー噂をすれば翠玉じゃん、宝石持ってきたん?」
珊瑚さんが言うと、翠玉さんは笑って言った。
「そうに決まってるでしょう」
珊瑚さんの前で笑った…。
「_お待たせ致しました、本日の依頼人様。こちらは…ローズクォーツです。」
翠玉さんの掌に、ピンク色に輝いた宝石があった。
「是非、御守りや身代りとしてお使い下さいね」
どうぞ、と手渡されたローズクォーツ。
今にも吸い込まれそうだ。
「それで、結局何を貰うんですか…?」
私が聞くと、珊瑚が妖しい笑みを浮かべた。
「それを知ってしまったら…二度とはここに来れない。秘密さ」
え…、もう1回、いや、行けるのなら何回も来たい。
「じゃ、聞くのはやめます」
_からん、と来た時と同じ音色を奏でる鈴。
後ろには、珊瑚さんと翠玉さん。
指には特別に指輪仕様にしてもらったローズクォーツ。
「もう何も怖くない気がしてきました」
私がそう言って笑顔を見せると、珊瑚さんは言った。
「良かった!」
翠玉さんが、頷いた後に挨拶をする。
最初で最後の、挨拶。
「依頼人様、…いえ、お客様。本日は誠にありがとうございました。貴方の幸福を心より願っています」
綺麗に礼をする翠玉さんと、隣で同じように礼をする珊瑚さん。
「また、来ますからね!」
2人に向かって、そう告げた途端。
何気なくした瞬きをして目を開くと、最初にいた帰り道に戻っていた。
朱く染まった空に、灰色の雲。
変わっていない…
指を見ると、そこにはピンク色に朱色が反射していた。
その宝石に向かって、笑みを作って見せる。
_「また来るって、嘘にはさせないからね」
テスト返し、自分の苗字が呼ばれる。
「は…はいッッ」
緊張しすぎて、裏返った声で返事をした。
「お前もうちょっとやる気出せよな…酷い点数だぞ。」
受け取るときの、先生の声。
う…そうですよね…と思いながらも、自分の掌に挟まれた点数をちらりと覗き込む。
いつもの先生の文字で、58点と書かれていた。
良いのか?…良くないか‥
一応、40点未満は赤点とみなされるこの学校では「なんとかいけた」くらいだろう。
ただ、先生がどうとか同級生がどうとかは正直どうでも良く。
怖いのは、お母さんからの "期待" と、お父さんからの "𠮟責" 。
「貴方なら出来るよね?」というされたくもない勝手な期待を抱かれ、期待と少しでも外れた場合は「なんでこんなことも出来ないんだ」と怒られる。
自分の子供で競馬を楽しんでいるようなものだ。
_「はあ、家に帰りたくない…」
夕焼けと冷たい風に包まれながら、今日もまたいつもの帰路につく。
朱く照らしつけるその空は、人間の気持ちも分からないだろう。
分かりたくもないはずだ。
憂鬱な気分に浸っていると、[大文字]びゅん、[/大文字]とひときわ大きめな風が私を遮った。
髪の毛がぱさっと揺れる。
長い髪の毛が目に入りそうで、ふと目を閉じた。
次の瞬間目を開けると、そこはまるで見たこともない世界が広がっていた。
がらくたっぽい、でも "誰かに愛されたような" 、そんな温かみがあるところだった。
「壊れてもなお愛され続けるロボット」、が何気に合っているかもしれない。
きょろきょろと辺りを見回していると、1つ目に入った看板があった。
「メノウ [小文字]宝石屋[/小文字]」と書かれてある、少し錆びた看板だ。
気になって、そのメノウという宝石屋のドアを開けてみた。
からんと鈴が1つ鳴る。
同時に、細身の男性がこちらを見た。
「あら_お客様ですね、いらっしゃいませ。」
糸目の男性は、にこりと笑顔を向けた。
「あ、え…と、ここは宝石を売ってるんですか?」
「そうだぞ~」
男性の隣に居た、つり目気味の女性が男性の代わりに返事をする。
「私は翠玉、そしてこちらが_」
「珊瑚!よろしくー」
翠玉という男性が、珊瑚さんの声と同時に椅子に座る。
「それでー…貴方のお悩みはなんですか?」
いつもと変わりないような顔で、私に問いかけた。
でも、なんで悩みがあるってわかったんだろう?言ってない …よね?
「ここは、人が悩みを感じたときだけに行ける場所なんですよ。だから貴方も何か…悩みがあったのでは?」
顔に出るタイプではないはずなのだが、翠玉さんがまるで私の心を読んだかの様に答えた。
「は、はい…実は、ありまして」
翠玉さんは、ふわりと柔い笑顔を見せた後、こう言った。
「やはりそうでしたか…お疲れ様でした。是非、私たちに聞かせていただけませんか?」
私は、今にも頬をつたいそうな涙を必死に、必死に抑えて言った。
「テストの点数が、あまり良くなくて…親には勝手に期待されてるから、その…言え、なくて」
私が言い終わると、隣で聞いてくれていた珊瑚さんが言った。
「わかるわ…で、それで…あんたはどうなりたい?」
どうなりたい…?
私が首をかしげると、翠玉が飽きれた顔をして珊瑚へ言った。
「珊瑚、語彙力が足りません」
「は?うるさいわ」
「元はと言えば珊瑚、あなたでしょう」
「黙れ糸目」
バカップル喧嘩を聞いてるみたいだと思ってしまったら駄目なのだろうけれど、頭に思い浮かんできてしまった。
「ふふ、っ」
翠玉さんと珊瑚さんが喧嘩を辞めて、私を見た。
[大文字]「ちょちょちょ、ここ笑うとこじゃないって!!!」[/大文字]
珊瑚さんの顔が、ほのかに赤く染まっているのが見えた。
_「話を戻しましょう…、こちらの店では、名前の通り宝石を売っています。」
翠玉さんが、ようやく話を戻した。
「私たちが、お客様もとい依頼人様に合う宝石をお選び致します。石言葉などを主に参考にしているのですよ」
そこで、私は思い出した。
代金とか、いるよね?私お金持ってない。
「あの…それってどれくらいかかるんですか?」
私が恐る恐る聞くと、さっきまで赤かった珊瑚さんが最初の時と同じ感じで答えた。
「ああ、ここは… "[漢字]代物[/漢字][ふりがな]シロモノ[/ふりがな]" は貰うけど "[漢字]代金[/漢字][ふりがな]ダイキン[/ふりがな]" は貰わないんだ」
代物?代金?とりあえずお金以外の何かが取られるって事は分かる。だがそれ以外はさっぱりわからない。
「はは、簡単に言うとお金は貰わない。特に変なものも貰わない。安心してくれよ」
珊瑚さんが笑いながらそう言った。
_「あれ、そういえば翠玉さんは?」
さっきまで前に座って話を聞いてくれていた翠玉さんが、気が付くと居ない。
「ああ、丁度宝石を取りに行ってるんだよ」
なるほど。
確かに、忘れてたけどここは宝石屋さんだもんな…。
がらり、とドアの開く音が向こうからして、はっとそちらへ顔を向ける。
そこには翠玉さんが立っていた。
翠玉さんの手の中には、光り輝いたものがある。
それが宝石…?
「おー噂をすれば翠玉じゃん、宝石持ってきたん?」
珊瑚さんが言うと、翠玉さんは笑って言った。
「そうに決まってるでしょう」
珊瑚さんの前で笑った…。
「_お待たせ致しました、本日の依頼人様。こちらは…ローズクォーツです。」
翠玉さんの掌に、ピンク色に輝いた宝石があった。
「是非、御守りや身代りとしてお使い下さいね」
どうぞ、と手渡されたローズクォーツ。
今にも吸い込まれそうだ。
「それで、結局何を貰うんですか…?」
私が聞くと、珊瑚が妖しい笑みを浮かべた。
「それを知ってしまったら…二度とはここに来れない。秘密さ」
え…、もう1回、いや、行けるのなら何回も来たい。
「じゃ、聞くのはやめます」
_からん、と来た時と同じ音色を奏でる鈴。
後ろには、珊瑚さんと翠玉さん。
指には特別に指輪仕様にしてもらったローズクォーツ。
「もう何も怖くない気がしてきました」
私がそう言って笑顔を見せると、珊瑚さんは言った。
「良かった!」
翠玉さんが、頷いた後に挨拶をする。
最初で最後の、挨拶。
「依頼人様、…いえ、お客様。本日は誠にありがとうございました。貴方の幸福を心より願っています」
綺麗に礼をする翠玉さんと、隣で同じように礼をする珊瑚さん。
「また、来ますからね!」
2人に向かって、そう告げた途端。
何気なくした瞬きをして目を開くと、最初にいた帰り道に戻っていた。
朱く染まった空に、灰色の雲。
変わっていない…
指を見ると、そこにはピンク色に朱色が反射していた。
その宝石に向かって、笑みを作って見せる。
_「また来るって、嘘にはさせないからね」
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