ミッドサマー・カラオケボックス
カラッとした陽気。勝手に流れる汗。照り付ける太陽は人間を敵視しているのか、厳しい暑さだ。
数年ほど前、同じ様な炎天下の中起きた_一種の悲劇。
それを思い出さずにはいられなかった。
小学校5年生の頃、私は本当に友達が少なかった。
いや、厳密に言うと話せる子が居なかった訳ではなく、なんなら誰とでもそれなりには話せるタイプだった。
ただ、私はそういった周りにいる子のことを"友達"とは認識できなかった。
ただ話している子。表面上は仲良く見せているだけの、見せかけの友情だけで繋がれた子。そう感じていた。
でも、1人_たった1人だけ、私が友達を超えて親友だと思えた子がいた。名前は、確か[漢字]来々[/漢字][ふりがな]くくり[/ふりがな]ちゃん。
長く艶のある、姫カットの黒髪。くりっとして大きい目。白い肌。細い体。
彼女は一見すると、よく少女漫画で目にする男女両方に好かれる才色兼備で後に主人公の恋敵となるキャラクターに見える。けれど、来々ちゃんは中身があまりよろしくなかった。
頭はあまり良くなくて、小5にしては珍しく足し算すら怪しかった。分数や少数なんて勿論わかっていなさそうだった。
そして口が悪かった。性格が悪いというわけではないのだが、家庭環境に恵まれていなかったらしくよく暴言を吐いていた。
だから彼女は、算数が得意で暴言なんて一切吐かない様な誰でも優しい_演技をしていた私に、酷く懐いた。
[明朝体]「ねえ、[漢字]彩[/漢字][ふりがな]いろ[/ふりがな]ちゃん!これの答えなに?」
「あのジジイ、だる。彩ちゃんもそう思わない?」
「彩ちゃーん髪の毛梳いて〜。朝時間なくってさあ〜」
[/明朝体]
同じクラスで尚且つ席が近かったので、習熟度別で教室を分ける算数の時間以外、ずっと話していた。
これまで怒られることなんてなかった私は、よく怒られるようになった。ちゃんと授業を聞け、と。
一方彼女はどうかというと、授業態度は変わらないものの、少しだけテストの点数が上がったと先生から褒めてもらえることが増えていた。
これに私は、醜い優越感を覚えてしまった。
あんなに頭の悪かった来々ちゃんの点数を上げているのは私、来々ちゃんの1番は私。_それが嬉しかった。
そんな汚い日々が続き、5年生の始業式からいつしか約3ヶ月が経とうとしている頃のことだ。
冷房がきいて、季節外れのカーディガンを羽織る[漢字]最中[/漢字][ふりがな]さなか[/ふりがな]、急にクラスは鳴り止まない喧騒に包まれた。
「来々ちゃんが死んだ」という理由で。
小学校5年生にしては頭が良かった私には、瞬時に理解できてしまった。来々ちゃんが昨日休んでいた理由を。来々ちゃんは既にこの世には居ないことを。
後から知ったが、死因は熱中症による脳梗塞だったそうだ。
だが、私はそれを知る前からなんとなく勘付いていた。
死ぬ3日ほど前、彼女は「ママと喧嘩したんだよね。お兄も味方してくれないの。」と悲しそうに嘆いていたから。
次の日「ご飯貰えなくなっちゃってさ〜、しょうがないから家でのご飯はずっとスーパーのおにぎりなの」なんてことも、言っていたから。
…自ら家出をしたのか、それとも親に家を出されたのか。それはわからないが。
死因をちゃんと知った時、深い後悔に苛まれたことをよく覚えている。
私が先生に言って、大事にしていたら。どちらにせよ死ぬ運命からは外れられたんじゃないかと_そうしたら、もっと私に懐いてくれたんじゃないかと思った。
その後すぐ彼女の家族は2つほど隣の市に引っ越した。彼女のお墓は一応その市にあるらしく、家族ぐるみで仲良くしていたわけでもなかった私はお墓の場所を知らない。
だから、私は毎年彼女の命日に、夜空に祈りを込めている。
もう数年ほど続けているが、不思議なことに彼女の命日だけは必ず晴天になる。雨はあまり好きじゃないといつか言っていた来々ちゃんの力だったりしないかなと、夜風に吹かれながら思う。
真夏、真っ昼間のカラオケボックス。あの日のように冷房の風が体に当たって、季節外れのカーディガンを鞄から取り出した。
スイスイと慣れた手つきでタッチパネルを操作し、ある1つの曲を入れる。
「ブラックベルベットと秘密の、」
画面にそう大きく表示されると、ジャズ調の音楽が響き渡る。私にとって、1番重い呪いを纏った曲だ。
この曲を教えてくれたのは来々ちゃんで、汚い字で一生懸命にその曲のいいところを書いて、渡してくれた1枚の紙切れが今でも部屋に保管されている。
そうこうしていると歌う場面が始まった。
ああ、彼女とこの曲をカラオケで歌うこと、夢だったのになぁ。
「忘れないでよ あの夏と秘密にもみ消されて」
数年ほど前、同じ様な炎天下の中起きた_一種の悲劇。
それを思い出さずにはいられなかった。
小学校5年生の頃、私は本当に友達が少なかった。
いや、厳密に言うと話せる子が居なかった訳ではなく、なんなら誰とでもそれなりには話せるタイプだった。
ただ、私はそういった周りにいる子のことを"友達"とは認識できなかった。
ただ話している子。表面上は仲良く見せているだけの、見せかけの友情だけで繋がれた子。そう感じていた。
でも、1人_たった1人だけ、私が友達を超えて親友だと思えた子がいた。名前は、確か[漢字]来々[/漢字][ふりがな]くくり[/ふりがな]ちゃん。
長く艶のある、姫カットの黒髪。くりっとして大きい目。白い肌。細い体。
彼女は一見すると、よく少女漫画で目にする男女両方に好かれる才色兼備で後に主人公の恋敵となるキャラクターに見える。けれど、来々ちゃんは中身があまりよろしくなかった。
頭はあまり良くなくて、小5にしては珍しく足し算すら怪しかった。分数や少数なんて勿論わかっていなさそうだった。
そして口が悪かった。性格が悪いというわけではないのだが、家庭環境に恵まれていなかったらしくよく暴言を吐いていた。
だから彼女は、算数が得意で暴言なんて一切吐かない様な誰でも優しい_演技をしていた私に、酷く懐いた。
[明朝体]「ねえ、[漢字]彩[/漢字][ふりがな]いろ[/ふりがな]ちゃん!これの答えなに?」
「あのジジイ、だる。彩ちゃんもそう思わない?」
「彩ちゃーん髪の毛梳いて〜。朝時間なくってさあ〜」
[/明朝体]
同じクラスで尚且つ席が近かったので、習熟度別で教室を分ける算数の時間以外、ずっと話していた。
これまで怒られることなんてなかった私は、よく怒られるようになった。ちゃんと授業を聞け、と。
一方彼女はどうかというと、授業態度は変わらないものの、少しだけテストの点数が上がったと先生から褒めてもらえることが増えていた。
これに私は、醜い優越感を覚えてしまった。
あんなに頭の悪かった来々ちゃんの点数を上げているのは私、来々ちゃんの1番は私。_それが嬉しかった。
そんな汚い日々が続き、5年生の始業式からいつしか約3ヶ月が経とうとしている頃のことだ。
冷房がきいて、季節外れのカーディガンを羽織る[漢字]最中[/漢字][ふりがな]さなか[/ふりがな]、急にクラスは鳴り止まない喧騒に包まれた。
「来々ちゃんが死んだ」という理由で。
小学校5年生にしては頭が良かった私には、瞬時に理解できてしまった。来々ちゃんが昨日休んでいた理由を。来々ちゃんは既にこの世には居ないことを。
後から知ったが、死因は熱中症による脳梗塞だったそうだ。
だが、私はそれを知る前からなんとなく勘付いていた。
死ぬ3日ほど前、彼女は「ママと喧嘩したんだよね。お兄も味方してくれないの。」と悲しそうに嘆いていたから。
次の日「ご飯貰えなくなっちゃってさ〜、しょうがないから家でのご飯はずっとスーパーのおにぎりなの」なんてことも、言っていたから。
…自ら家出をしたのか、それとも親に家を出されたのか。それはわからないが。
死因をちゃんと知った時、深い後悔に苛まれたことをよく覚えている。
私が先生に言って、大事にしていたら。どちらにせよ死ぬ運命からは外れられたんじゃないかと_そうしたら、もっと私に懐いてくれたんじゃないかと思った。
その後すぐ彼女の家族は2つほど隣の市に引っ越した。彼女のお墓は一応その市にあるらしく、家族ぐるみで仲良くしていたわけでもなかった私はお墓の場所を知らない。
だから、私は毎年彼女の命日に、夜空に祈りを込めている。
もう数年ほど続けているが、不思議なことに彼女の命日だけは必ず晴天になる。雨はあまり好きじゃないといつか言っていた来々ちゃんの力だったりしないかなと、夜風に吹かれながら思う。
真夏、真っ昼間のカラオケボックス。あの日のように冷房の風が体に当たって、季節外れのカーディガンを鞄から取り出した。
スイスイと慣れた手つきでタッチパネルを操作し、ある1つの曲を入れる。
「ブラックベルベットと秘密の、」
画面にそう大きく表示されると、ジャズ調の音楽が響き渡る。私にとって、1番重い呪いを纏った曲だ。
この曲を教えてくれたのは来々ちゃんで、汚い字で一生懸命にその曲のいいところを書いて、渡してくれた1枚の紙切れが今でも部屋に保管されている。
そうこうしていると歌う場面が始まった。
ああ、彼女とこの曲をカラオケで歌うこと、夢だったのになぁ。
「忘れないでよ あの夏と秘密にもみ消されて」
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